自分に最適の治療法を選ぶために 前立腺がんの最先端放射線治療を比較する
●3次元照射
ホルモン療法との併用で局所浸潤がんまで対応

日本大学医学部付属板橋病院
泌尿器科専任講師の
平野大作さん
3次元照射では、照射する機械が患者の周囲を動き、複数の方向から前立腺に向けて放射線を照射する。日本大学医学部付属板橋病院泌尿器科専任講師の平野大作さんによれば、現在は計72グレイの放射線を照射しているそうだ。
「数年前までは70グレイでやっていました。しかし、グリソンスコアが高い患者さんの場合、これでは足りません。そこで、72グレイに増やすことにしました。72グレイでも副作用はとくに問題がないようなので、来年(2008年)には74グレイまで増やすことを検討しています。放射線治療は、照射する線量を増やせば増やすほど、治療効果が上がるという原則があります」(平野さん)
72グレイ照射する場合、50グレイは、前立腺の上下(頭側と足側)に1.5センチずつ、前後左右に1センチずつの余裕を持って照射する。そして、残りの22グレイは、前立腺の上下に1センチ、前後左右に0.8センチまで絞り込んで照射するという。
1日に2グレイで、計36回の照射を行う。週に5回として、7週間余りの治療期間が必要になるわけだ。

中リスク患者が多く受けている3D-CRT装置
[前立腺がんのリスク分類]
リスク | 病期 (TNM分類) | グリソンスコア | PSA |
---|---|---|---|
低リスク | T2a | 6以下 | 10未満 |
中リスク | T2b | 7 | 10以上 20未満 |
高リスク | T3 | 8以上 | 20以上 |
「1回の照射にかかる時間は、入室から退室までが10分くらいです。高齢で通院が大変な人など、入院で行うこともありますが、ほとんどは外来治療です」(平野さん)
3次元照射が治療対象とする前立腺がんは、局所浸潤がんまでだ。リンパ節転移や遠隔転移がある場合には適応外となる。対象となる患者を、表のように、低リスク、中リスク、高リスクに分け、リスクに応じた治療を行っている。
低リスクなら放射線治療単独、中リスクなら放射線治療と短期(6カ月)のホルモン療法の併用、高リスクなら放射線治療と長期(2~3年)のホルモン療法との併用になる。
「3次元照射を受けているのは、実際には中リスク程度の患者さんが多いですね。低リスクなら小線源療法もあるので、外照射は中リスク以上になるケースが多いのは当然でしょう。高リスクの患者さんもいますが、72グレイの照射だと、適しているのはグリソンスコアが7以下です。8以上になると、どうしても局所再発が増えてきます」(平野さん)
3次元照射を行った場合、副作用として、尿が出にくい、頻尿、残尿感などの排尿障害が起こる。排尿状態を評価するI-PSS(国際前立腺症状スコア)の値が、倍くらいになるのが普通だという。ただ、こうした排尿障害は3カ月間ほどで大部分がよくなる。
直腸からの出血が起こることもあるが、坐薬で治まる程度。放射線治療後から、2年以内がほとんどだという。
3次元照射は健康保険が適用される。そのため、治療費の面では、先進医療のIMRTや粒子線治療より大幅に安くなる。
●IMRT
副作用を抑えつつ照射量を増やせる

横浜市立大学付属病院
放射線科助教の
小池泉さん
多くの方向からX線を照射するという点では、IMRTは3次元照射と同じである。だが、IMRTの場合、照射する放射線に強い部分と弱い部分がつくられているのが特徴だ。ビーム内の強度が碁盤のます目のように分かれていて、コンピュータ制御によって1つひとつの強度を変えることができる。こうして多くの方向から照射していくと、避けたい臓器にあまり放射線がかからないようにしながら、前立腺に放射線を集中させることが可能になる。
横浜市大病院放射線科助教の小池泉さんによれば、同病院では、前立腺がんに対して7方向から照射するIMRTを行っているという。
「前立腺には膀胱や直腸が貼り付くように存在しているので、できるだけそこに放射線が当たらないように治療していきます。そのため、これまでの治療法より、多くの放射線を前立腺にかけることができるのです。前立腺全体に放射線が均等にかかるわけではありませんが、72~80グレイを照射しています。1日に2グレイかけるので、ほぼ2カ月の治療期間が必要。通院で受けられる治療ですが、2カ月間、毎日通院するのは、仕事を持っている人だとなかなか大変かもしれません」(小池さん)

放射線の強度も変えられるIMRT(強度変調放射線治療)装置
IMRTは、コンピュータを駆使した最先端の技術を利用している。そのため、副作用を抑えながら多くの放射線を照射でき、優れた治療成績もあげているのだが、治療を開始する前の準備に時間がかかる。横浜市大病院の場合、検査を終えてから、放射線科医が計画を立てるのに1週間、その計画を放射線技師らが検証するのに1週間かけているという。つまり、検査から実際に治療が始まるまでに2週間かかることになる。このように、何かと時間がかかる治療法なので、気の短い人には向かないそうだ。
「治療対象となるのは、原則的にはステージBまでとしています。ステージCの患者さんもときどき治療しますが、進行してきたときに、骨盤のリンパ節に転移することがよくあります。当院のIMRTではリンパ節まで放射線がかかるようにしていないので、やはりステージBまでにしたい。ただ、ステージ以外にも基準があるので、適応については相談して欲しいですね」(小池さん)
ステージBとは、TNM分類ではT2(前立腺内に限局するがん)で、リンパ節転移や遠隔転移がないこと、ステージCとはT3、T4の一部で局所浸潤がんを意味する。
「IMRTでも、副作用がまったくないということはありません。ただ、直腸にかかる放射線を極力減らすため、直腸障害が少ないのが特徴です。前立腺を通過する尿道は避けきれないので、排尿障害は起こりますが、重い症状は稀です」(小池さん)
副作用に関しては、従来の放射線治療に比べ、明らかに軽いといえそうだ。
IMRTは、厚生労働省の先進医療として承認されている治療技術。先進医療には健康保険が適用されないため、この治療だけ自費扱いになる。IMRTの場合、先進医療にかかる費用は、通常80~90万円程度である。
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