可能性を秘めた治療法だが、がん制御率で今イチ、副作用も 傷が小さく、何度でも治療できる超音波集束療法
手術や放射線の適応からはずれた人でも受けられる
武藤さんは、HIFUの最大のメリットは手術や放射線治療の適応からはずれた人でも受けられる、体にやさしい治療であるという。
「前立腺がんの患者さんは60代、70代の方が多く、心臓病や脳などの循環器系の発作予防のために、血を固まりにくくする抗血小板剤を飲んでいる人が多いのです。こういった人は薬を休薬しなければ手術や小線源療法(放射線治療の一種)を受けられないし、確定診断の生検(針を刺してがん細胞を採取する)でさえ、2週間ほど休薬して受けなければなりません。当然、休薬すれば梗塞の再発の可能性があります。 その点、HIFUによる治療は針を刺したり切開したりすることは一切ありませんので、抗血小板剤を休薬する必要はありません」
入院期間の短さも大きなメリットだろう。ちなみに手術や放射線治療は、合併症のない人で2週間ほどである。
では、HIFUの治療に伴う合併症のリスクはどうなのか。
治療中に隣接する尿道と直腸を焼いて、尿の通路と便の通路との間に孔が空いてしまう尿道直腸婁が0.7パーセントの頻度で起こるとされている。もしこれが起これば、人工肛門を造設する場合がある。
また、『前立腺癌診療ガイドライン』(金原出版刊)によれば、「排尿障害が他の治療より強くでる危険性がある」ことも指摘されている。
HIFUの適応は前立腺に止まっているがん
HIFUによる治療を受けられる条件はどうか。
「がんが前立腺内に止まっていることが条件です。生検やPSA検査、そしてCT、MRIなどの画像検査で、すべてのがんを捉えることはできませんが、そういった検査で限局性であるという診断が出れば適応となります」
なぜ限局性前立腺がんに適応が絞られているのか。がんが前立腺の被膜を越えている場合、局所的治療であるHIFUを行っても無意味になる公算が強くなるからだ。これは手術にしても同様である。
前立腺の被膜を越えた進行がんはホルモン療法で、進行を遅らせる治療が選ばれることが多い。
限局性がんでも、PSA値、生検で採取したがん細胞の悪性度をスコア化したグリソンスコア、そしてがんの進行���(病期分類)の3要素を加味して作成するリスク分類を参照する。
「それらを勘案して、ローリスクとハイリスク、その中間のリスクの3つに分けて、ローリスクと中間リスクであれば、とくにHIFUのよい適応と考えています」と武藤さん。
8割が陰性に転化、何度でも行えるのが最大の利点

ただし、限局性前立腺がんと診断されても、75歳以下の人であれば、長期的な成績を考えれば、手術を勧めるのが基本となっている。
合併症があったり、高齢で、手術の適応に入らなかったり、本人が強く希望している場合は、HIFUの適応となる。
帝京大病院の場合、9割は他施設で手術を勧められたりなどした患者さんで、HIFU治療を希望してやってくるという。
帝京大病院はHIFUによる治療を開始して3年になるが、これまで約100名がこの治療を受けた。
その治療成績はどれほどか?
「HIFU治療の評価方法をどうするか、実はまだ確立されていないのですが、私たちは治療後、半年と1年の時点で生検をします。その結果、8割が陰性となっています」
陰性とは、がんが消失したことを意味するが、この陰性がそのまま治癒につながるかというと必ずしもそうではなく、「前立腺がんの場合は10年後までを見て評価する必要がある」と武藤さんは言う。
ちなみに、陰性に転化しなかった2割は、PSA値が固定していれば経過観察、PSA値が上昇するようであれば再度HIFU治療もしくはホルモン療法を行う。
「HIFU治療をいち早く行った欧州でも、HIFU後10年間の治療成績の報告はまだありません。しかし私の印象では、HIFUが有効であった患者さんは、少なくとも前立腺がんで死亡することは非常に少ないと思います。本来の寿命を全うされるか、他の疾患で亡くなる人が多いのではないかと推察しています」
もっとも、長期的な治療成績に関しては、前記の『前立腺癌診療ガイドライン』ではむしろ悲観的で、「5年の成績ではCR(がん消失率)は54パーセント程度と報告されており、局所前立腺がんの他の根治的治療と比較すると、がん制御率には疑問が残る」と記されている。このあたりは患者さんとしては注意を要する点といえよう。
ただ、このHIFUは、手術や放射線と違い、「身体的な負担が少ないので、何度でも行えることが大きな利点」と武藤さんは言う。こうしたメリット・デメリットを秤にかけたうえで治療選択をしていく必要があろう。HIFUは現在、保険の適用になっておらず治療費は自費負担となる。その費用は約100万円である。
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