間欠療法、交代療法、そして「効かない抗がん剤」に突破口が開かれた 再燃前立腺がんの最新治療
「効かない抗がん剤」に道が切り開かれた

実はこれまで、前立腺がんではホルモン療法は効いても、抗がん剤は効かないとされてきた。しかし、この閉ざされた壁に1つの風穴を空けた薬がある。タキソテール(一般名ドセタキセル)という抗がん剤だ。
ホルモン療法が効かない転移性前立腺がん患者1006人に対して、抗がん剤のノバントロン(一般名ミトキサントロン)とタキソテールのどちらが優れているか、臨床試験が行われ、その結果が2004年に医学誌『ニューイングランドジャーナル・オブ・メディスン』に発表された。
ノバントロンは、日本では前立腺がんに対してまだ承認されていないが、欧米では骨転移の痛みを和らげるなど、症状緩和作用が認められ、標準薬の1つになっている。そしてすべての患者に対して副腎皮質ホルモンのプレドニン(一般名プレドニゾロン)が併用されている。プレドニンは、抗がん剤を使用する際の吐き気止めによく使われるが、前立腺がんでは少量持続投与の形でよく使われている。
それによると、ノバントロン群よりもタキソテール群のほうが延命効果で優れており、また痛みやPSA値、QOL(生活の質)に関しても改善されるという。
「生存期間(中央値)の延長は3カ月という短い期間ではありますが、前立腺がんに対する抗がん剤としては初めて延命効果が実証されたわけで、その点でこの薬は画期的といえます」(西村さん)
その結果を得て、欧米ではタキソテールとプレドニンの併用療法がホルモン不応性(効かない)転移性前立腺がんに対する治療法として承認されるに至っている。
タキソテールを軸にした3剤併用
こうしてホルモン療法の効かなくなった前立腺がんに対して、また新しい道が切り開かれることになったが、大阪大学病院では、さらに工夫を行い、新しい組み合わせによる抗がん剤治療に取り組んでいる。
先のタキソテールを軸に、エストラサイト(一般名エストラムスチンナトリウム)、デカドロン(一般名デキサメタゾン)の3剤を併用するという治療法だ。
なぜこのような組み合わせになったのか、少し説明が必要だろう。詳細は省くが、西村さんは「海外で行われた臨床試験のデータをもとに考えた」という。
まず、タキソテールについては、乳がんでの実績を参考にした。乳がんでは、従来の3週に1度投与するより、週1回投与するほうが有効性が高く、副作用が少ないという結果が出ている。これをもとに、西村さんは外来で安全に投与できる治療として、週ごとに投与するのを2週続けて行い、1週休薬するという方法を考え出した。
エストラサイトは、女性ホルモンのエストラジオールと抗がん剤のナイトロジェンマスタードを合剤にしたもの。
女性ホルモンの作用は一般的に男性ホルモンよりも強く、脳の下垂体や副腎に作用して男性ホルモンの作用を抑える。前立腺がんでは、この作用を利用して広く利用されてきた。
しかし、この女性ホルモンには血栓ができやすいという難点がある。血栓ができると肺塞栓という非常に重篤な合併症を起こす。脳梗塞や脳血栓、心筋梗塞のリスクも高くなる。そこで、西村さんらは、こうした合併症が致命傷になりかねないので前立腺がん治療には女性ホルモンは使わない方針をとっている。したがって、女性ホルモンの一種であるエストラサイトについても、「タキソテールの効果を上げるために使うが、合併症の危険性があるので最小限の量にしたのです」という。
デカドロンはステロイド剤の一種で、タキソテールの副作用を抑えるために使用する。「海外では副作用対策にはプレドニンを使うのが一般的ですが、デカドロンにはそれ以外に、われわれの経験上ですが抗腫瘍効果も持っていると考え、その効果もねらって、デカドロンを組み合わせたのです」(西村さん)
薬剤名(商品名/一般名) | 投与方法 |
---|---|
LH-RHアゴニスト剤 | |
リュープリン(酢酸リュープロレリン) | 3カ月ごとに皮下注射 |
ゾラデックス(酢酸ゴセレリン) | 3カ月ごとに皮下注射 |
抗アンドロゲン剤 | |
非ステロイド系 | |
カソデックス(ビカルタミド) | 内服 |
オダイン(フルタミド) | 内服 |
ステロイド系 | |
プロスタール(酢酸クロルマジノン) | 内服 |
女性ホルモン剤等 | |
エストラサイト(リン酸エストラムスチンナトリウム) | 内服 |
ステロイド剤 | |
デカドロン(デキサメタゾン) | 内服 |
プレドニン(プレドニゾロン) | 内服 |
PSA値が50%以下になるのが半分
というわけだが、この3剤併用の治療の結果はどうか。西村さんはこう答える。
「まだ結果をまとめていませんが、効果が出る人と出ない人とで個人差がありますね。効く人は3年以上効いていますし、効かない人では、2、3カ月で効かなくなる人もいます。効果の目安と言われている、治療前に比べてPSA値が50パーセント以下になる人が約半数ぐらいいます。ホルモン療法が効かなくなった患者さんに対する治療であることを考えれば、かなり有望とは思います」
ここで、タキソテールを用いた治療の1例を見ておこう。
前立腺がんになったことから精巣摘除術(去勢手術)を受けた65歳の男性の場合だ。手術後8年ぐらいは何もなかった。「もう大丈夫だろう」と思っていたところへ、骨転移が起こった。それも脊椎や肋骨などへの多発性骨転移だ。
すでに前記のエストラサイトを飲んでいたが、あまり効いていなかった。
そこで、西村さんは、タキソテールの少量投与を追加する治療を開始した。するとしばらくしてまず骨転移による痛みが消え、次いで転移巣の一部も消失した。50あったPSA値も一桁の1~2に下がった。すでに2年以上経過しているが、骨シンチグラフィ上では一部集積部分が見られるが転移巣は大きくなっておらず、元気に通院している。抗がん剤の副作用として、脱毛や涙が出る、爪が変形するなど出ているが、日常生活に支障を来すことはなかったという。
この1例を挙げるまでもなく、西村さんは「今やこのタキソテールが再燃前立腺がん治療におけるキードラッグになりつつある」という。もっとも、臨床試験の結果を見るかぎり、タキソテール単剤ではがんを消失させるほどの力はない。したがって他の薬剤と併用する上においてのキードラッグというわけだ。
このことは、海外での臨床試験の動向を見ればより明瞭になってくる。
海外ではサリドマイドやビタミンDも
日本ではまだ未承認で保険診療では使えないが、参考までに最近海外で有望視されている再燃前立腺がんに対する新しい治療法を2つ紹介しておこう。そのいずれにもタキソテールが併用されている。
まず1つは、サリドマイドとタキソテールの併用療法だ。
サリドマイドは、すでに血液がんの一種である多発性骨髄腫では標準治療薬の1つになっており、現在、海外ではさまざまながんで臨床試験が行われている。
前立腺がんでは、サリドマイド単独とタキソテールとの併用とを比較する臨床試験が行われた。サリドマイド単剤でも抗腫瘍効果が認められているが、十分ではないので、有効性のある抗がん剤との組み合わせを考えて出された治療法だ。その結果、併用療法で非再発期間と生存期間が延長したという報告があり、期待されている。
もう1つは、高用量ビタミンDとタキソテールの併用療法だ。
ビタミンDは、実験ではがん細胞の細胞周期を止めるとか、分化を誘導するなどの作用が明らかになっているが、本当の作用機序はまだよくわかっていない。ただ、海外の臨床試験では、この組み合わせの治療のほうがタキソテール単剤よりも非常によく効いたとの報告があるので、有望という。
ただし、ビタミンDには結石などの合併症が起きる恐れもあるので、注意する必要はある。
このように、ホルモン療法が効かなくなった再燃前立腺がんに対する治療は、まだ“混沌”としている。新しい治療法といっても、必ずしもいい効果ばかりとは限らない。その点を考慮・熟慮した上で、治療を選択する必要があることを付記しておきたい。
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