これだけは知っておきたい前立腺がんの基礎知識 自分のがんはどんながんか、どんな状態にあるか、正しく把握し、きちんと向き合う
放射線が注目されるが、根治めざすなら手術を
前立腺がんは下の表のように病期分類され、最も初期にあたるT1a期は経過観察のみの治療なしですが、それ以外は概ね何らかの治療を行います。主な治療法には、手術、放射線治療、ホルモン療法があります。
このうち、近年前立腺がんの治療で注目されているのは、放射線治療でしょう。原体照射や、IMRT(強度変調放射線治療)のように、体の外側から正確に、かつ強度を調節して、放射線を照射する方法が確立されたからです。
さらに、3年前に日本でも認可された密封小線源療法は、早期がんの治療法として急速に広がっています。放射線を発する小さな線源(小線源)を前立腺に埋め込み、臓器の内側から放射線を照射する画期的な治療法です。
改善されたとはいえ、前立腺を摘出する手術には、尿失禁や勃起障害などの合併症がともなう可能性があります。精度の高い放射線治療は、そうしたマイナス点の少ない療法として注目されましたが、がんを根治させたかどうか確認できないこと、長期的には放射線治療にも重い合併症が現れる場合があることは、放射線治療のマイナス点として知っておきたいものです。
もっというと、密封小線源療法を万能の新兵器と考えるのは危険です。がんが被膜を破り前立腺の外に広がっていたら、前立腺内のがんだけ治療するこの療法はまったく不十分で、再発する可能性がきわめて高いのです。
そうしたことを考えると、合併症の危険があっても、病巣をきっぱり切除する外科手術は、完治をめざす患者さんにとってもっとも有力な治療のひとつではないかと思います。腹腔鏡の普及で傷も小さくなりましたし、尿道括約筋の温存で排尿障害も軽くなっています。やみくもに放射線に走らず、双方の利点欠点を比べてみてください。
ただ、勃起神経は温存できないことが多いため、性機能障害はやむを得ず起こります。
どうしても温存したい人は医師と相談し、できるだけ再発の危険の少ない温存療法を検討しましょう。

効果も見込めるが副作用も。じょうずなホルモン療法とは
前立腺がんは抗がん剤の効きにくいがんとして知られていますが、かわりにホルモン療法(内分泌療法)がよく効きます。男性ホルモンの刺激で増殖するので、男性ホルモンの分泌をブロックしたり、女性ホルモンを投与することで、がんの増殖をとめる可能性が高いのです。
ホルモン療法は基本的に、転移のある患者さんの治療の第1選択として、または転移のないT3(ステージ3)の患者さんに対して、手術や放射線治療と組み合わせる形で行われます。まず数カ月~半年ほどホルモン療法を行い、少し小さくなったがんを手術で切除したり放射線を照射したりするわけです。が、いちばん多いのは手術や放射線の補助療法として投与し、効かなくなったら別のホルモン剤に換えて行く形でしょう。前立腺がんでは以前、男性ホルモンの影響を断つため、両側の精巣を摘出する手術が行われていましたが、LH-RHアナログ(アゴニスト)という注射にはこれと同等の効果があると考えられています。そのほか抗男性ホルモン剤という飲み薬や女性ホルモン剤の飲み薬や注射があります。状況に応じてこれらの薬剤を単独で、または組み合わせて治療していきます。
こうした治療が行われる際、大きな指標となるのがPSAです。たとえば、リンパ節や遠くの臓器に転移があるとき、最初に投与されるのはLH-RHアナログ剤です。これは精巣から分泌される男性ホルモンを、ブロックしてしまう薬です。投与し始めた当初はPSAが劇的に下がりますが、やがて効果が薄れ数値はじわじわと上がってきます。そこで次に、抗男性ホルモン剤を使い、さらに効かなくなったら、女性ホルモン剤を投与するというように、「手を変え品を変え」投与していきます。
ただし、ホルモン剤の副作用は決して小さくないということも、ぜひ知っておいてください。放射線、ホルモン剤、経過観察の3つの療法を比較した場合に、経過観察=何もしなかった人たちの長期成績が最もよく、最もたくさん亡くなったのがホルモン剤の人たちだったという論文もあるくらいです。とくに女性ホルモンは血液を凝固させるので、心血管障害を起こす確率が意外に高いのです。
放射線、ホルモン剤を使い、最後まで快適に過ごそう
3つの主な治療方法について、不利な点もあれこれ挙げましたが、それでも前立腺がんはやっぱり治療の手の多いがんということができると思います。
最後に前立腺がんの特徴をもうひとつあげると、骨転移をしやすいことです。事実、進行がんでは骨の痛みを訴える患者さんが増えますが、最近はそうした症状を和らげる方法もたくさんあります。患者さんは決してがまんをせず、使える限りの手段を使って、快適に過ごしてほしいと思います。使いやすいモルヒネ系統の痛みどめもありますし、いいタイミングで放射線をかけると、数カ月~半年くらい、痛みや排尿障害が和らぐことも知られています。この場合の放射線はがんを治すためではなく症状を和らげるための手段です。どうぞじょうずに利用し、貴重な時間を楽しんでお使いください。
(構成/半沢裕子)
同じカテゴリーの最新記事
- 放射性医薬品を使って診断と治療を行う最新医学 前立腺がん・神経内分泌腫瘍のセラノスティクス
- リムパーザとザイティガの併用療法が承認 BRCA遺伝子変異陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がん
- 日本発〝触覚〟のある手術支援ロボットが登場 前立腺がんで初の手術、広がる可能性
- 大規模追跡調査で10年生存率90%の好成績 前立腺がんの小線源療法の現在
- ADT+タキソテール+ザイティガ併用療法が有効! ホルモン感受性前立腺がんの生存期間を延ばした新しい薬物療法
- ホルモン療法が効かなくなった前立腺がん 転移のない去勢抵抗性前立腺がんに副作用の軽い新薬ニュベクオ
- 1回の照射線量を増やし、回数を減らす治療は今後標準治療に 前立腺がんへの超寡分割照射治療の可能性
- 低栄養が独立した予後因子に-ホルモン未治療転移性前立腺がん 積極的治療を考慮する上で有用となる
- 未治療転移性前立腺がんの治療の現状を検証 去勢抵抗性後の治療方針で全生存期間に有意差認めず