進行前立腺がん治療のカギを握るホルモン療法 放射線と手術のどちらが優れているか、ホルモン剤は何がよいか、様々な疑問に答える
手術と放射線、どちらが優れているか
ステージ3の前立腺がんでも、手術が向いている例がある。それなら、そうした例では本当に手術を選択すべきなのか、放射線治療がいいのかが問題になってくる。
じつは赤倉さんは91年にスタートした厚生労働省の班研究で、ステージ2bと3の前立腺がんを対象に、手術+ホルモン療法と放射線治療+ホルモン療法を永久的に観察する臨床試験を行ったことがある。すなわち手術と放射線のどちらが優れているかを調べた試験だ。
「5年後くらいの時点では手術のほうが明らかに非再発率、生存率などの治療成績が良かったのですが、10年後くらいになると有意差はなくなりました。そして、QOLから見ると手術のほうが尿失禁の率が高く、この点では放射線のほうがいいことがわかったのです」
もっとも当時は手術による尿失禁発生率は40パーセントくらいに及んでおり、現在ではこれが5パーセントくらいまで改善されている。一方、当時の放射線治療では、線量が66グレイ程度と低過ぎて治療効果が上がりにくく、これも現在では標準的には72グレイ以上に高められるようになった。そこで、現在の技術レベルに置き換えて、手術と放射線治療のどちらを選択すべきかというと、判断はなかなか難しい。
手術には放射線治療にはないメリットも
「手術の場合も、術前にホルモン療法を併用すれば、がんを縮小できてきれいに切除でき成績が向上するのではないかと考え、多くの試験が行われてきました。が、そこからは術前ホルモン療法を行うべきだという証拠は得られていません。一方、術後のホルモン療法に関して私の考え方では、せっかく手術で病理細胞を採取できるのだから、がんの悪性度や浸潤度、リンパ節転移の有無を調べたり、術後のPSAをチェックしながら行うかどうかを決めていいのではないかと思います」
赤倉さんは、手術の利点の1つは、このように病理検査の結果を見て、早く次の対応が取れることだとしている。また、治療効果もすぐにPSAに現れるので、再発してもチェックしやすい。
「放射線の効果は、場合によって1年も2年もかかってPSAが下がることで示されます。さらにホルモン剤を併用するとPSAは一挙に下がるので、どこまでが放射線の効果かわかりにくいのです。再発して初めて有効ではなかったことがわかることになります」
手術のもう1つの利点は、局所に再発したとき、「次は放射線」というカード(選択肢)を持てる可能性があるという点だ。一方、放射線から始めた場合は癒着が起こりやすいため「次は手術」というカードを持つのが非常に難しい。放射線治療のあとの手術では、尿失禁や直腸損傷などの合併症ははるかに多くなってしまう。
「ステージ3の中でもより早期で、60代くらいで比較的体力があり、手術がいやでないといった人には手術を勧めてもいいと思います。一方、もっと高齢者に対しては、手術より楽な放射線のほうがよいでしょう。放射線は現在では技術も進んでいて、それほど副作用もありません」
ホルモン療法は転移巣の症状も改善

転移を来たしたステージ4の前立腺がんに対しては基本的にはホルモン療法が行われる。前立腺がんはホルモン療法の有効性がきわめて高く、患者の95パーセント以上はホルモン療法に感受性を持つ。そのためまず抗がん剤ではなく、ホルモン療法が選択されるのだ。
ステージ4のホルモン療法としては去勢術に抗アンドロゲン剤を併用したMAB(=Maximum Androgen Blockade)という治療法が採用される。去勢術としては、両精巣(睾丸)を手術で摘出する外科的去勢(両精巣摘除術)、あるいはLH-RHアゴニストの皮下注射=内科的去勢が用いられる。両者の成績はほとんど変わらないが、日本では圧倒的にLH-RHアゴニストが使用されている。
「以前は単独のホルモン剤とMABを比較して有意差が出なかったのですが、最近はわずかですが有意にMABのほうがいいという結果が出ています。日本では、費用も高く抗アンドロゲン剤の副作用のリスクもありますが、やはりMABが採用されているケースが多いと思います」
前立腺がんは、骨やリンパ節への転移が多い。ホルモン療法の効果は転移巣にも波及し、骨転移の痛みなども改善される。
前立腺がんのホルモン療法に反応しない症例に対して、タキソテール(一般名ドセタキセル)による抗がん剤療法の有効性が世界的に証明された。ただし、日本ではまだ承認・保険適用がされていない。
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