ホルモン療法が効かなくなった前立腺がん 転移のない去勢抵抗性前立腺がんに副作用の軽い新薬ニュベクオ

監修●三宅秀明 浜松医科大学泌尿器科学講座教授
取材・文●柄川昭彦
発行:2021年1月
更新:2021年1月


去勢抵抗性前立腺がんをどう治療するか

近年になって新しい治療薬が登場してきた去勢抵抗性前立腺がんだが、その治療は、遠隔転移がある場合とない場合に分けて考える必要がある。なぜなら、遠隔転移の有無によって、使える薬と使えない薬があるからだ。

去勢抵抗性前立腺がんの治療に使える4種類の薬(ザイティガ、イクスタンジ、アーリーダ、ニュベクオ)は表4のようになっている(表4)。

実際の治療では、次のような薬を使用することになる。

「遠隔転移がない場合、ハイリスク例では、従来から行われているホルモン療法(ADT)に、イクスタンジ、アーリーダ、ニュベクオのいずれかを併用します。ハイリスク例以外に対しては、従来からのホルモン療法を行うことが多いですね。

遠隔転移がある場合には、従来からのホルモン療法に、ザイティガ、イクスタンジ、アーリーダのいずれかを併用することになります」(三宅さん)

遠隔転移がある去勢抵抗性前立腺がんには、アーリーダとニュベクオが使用できないため、ザイティガかイクスタンジ、あるいはタキサン系抗がん薬のタキソテール(一般名ドセタキセル)などで治療することになる。

遠隔転移がない去勢抵抗性前立腺がんのハイリスク例に対しては、イクスタンジに加えて、アーリーダとニュベクオも使用できるため、選択範囲が広がる。この3種類のアンドロゲン受容体阻害薬は、どのように使い分けるのだろうか。3剤を直接比較した試験は行われていないが、効果はほぼ同じで、大きな差はないと考えていいようだ。しかし、副作用については、それなりに違いがある。

副作用の少ないニュベクオ

「イクスタンジは、強い疲労や食欲不振といった副作用が出ることが知られています。その対応に漢方薬を用いることもあります。アーリーダにはそれほど強い副作用はありませんが、よく問題となるのは皮疹です。対応できる範囲の症状ですが、皮疹が出た場合、患者さんのQOL(生活の質)が低下することは避けられません。副作用が最も軽いのはニュベクオです。副作用の頻度も重篤度も共に非常に低く、疲労のみ10%を超える発症率です」(三宅さん)

3種類の薬が使用できるが、副作用の面から見ると、ニュベクオが最も扱いやすい薬ということのようだ。

新しく登場してきたアーリーダとニュベクオは、どちらもアンドロゲン受容体阻害薬でよく似た薬だが、効能・効果が少し違っている。承認されたときはどちらも「遠隔転移を有しない去勢抵抗性前立腺がん」だったが、その後、アーリーダには「遠隔転移を有する前立腺がん」が加えられた。つまり、遠隔転移があればホルモン療法未治療の前立腺がんにも使用できるということだ。このような前立腺がんを、「去勢感受性前立腺がん」と呼ぶことがある。

「言葉通りの意味ですと『去勢感受性』は、ホルモン療法に効果を示すがんということになりますが、実際には、ホルモン療法を開始する前の無治療の状態にあるがんのことを指します」(三宅さん)

去勢感受性前立腺がんの治療に使用できるところが、現段階でのアーリーダとニュベクオの大きな違いになっている。

去勢抵抗性になる前の治療が大切

去勢感受性前立腺がんの新薬が登場してくることで、治療が前進したことは確かで、治療の選択肢が増えたことにも意味がある。しかし、大幅な予後改善を考えるなら、もっと重要なのは去勢抵抗性となる前の治療だという。

「ホルモン療法が効かなくなってから、つまり去勢抵抗性になってからでは、新規薬剤を投与しても、大幅な予後改善は期待できません。それよりも、ホルモン療法が効いている段階で、ホルモン療法が効いている期間をできるだけ延長することが、大幅な予後改善を実現するのには重要です」(三宅さん)

そのために、最近では、ホルモン療法を開始するときに、新しい薬を組み合わせることが行われているという。

「従来から行われているホルモン療法を開始するのと同時に、アーリーダ、イクスタンジ、ザイティガのいずれかを併用することで、遠隔転移のある去勢感受性前立腺がんの予後延長効果が臨床試験で明らかになっています。そのため、これらの併用療法が盛んに行われています」(三宅さん)

去勢抵抗性となる前の治療も、新規薬剤の登場で大きく進歩しているようである。

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