リムパーザとザイティガの併用療法が承認 BRCA遺伝子変異陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がん

監修●大家基嗣 慶応義塾大学医学部泌尿器科学教室教授
取材・文●柄川昭彦
発行:2023年12月
更新:2023年12月


リムパーザ+ザイティガ併用療法の有用性が証明された

2023年8月に、リムパーザとザイティガの併用療法が、BRCA遺伝子変異陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がんの治療薬として承認されました。

「去勢抵抗性前立腺がんの治療で行われていたのは、これまでは逐次療法でした。1つの薬を使って治療し、それが効かなくなったら、次の薬を使うという流れの治療です。それが大きく変わり、併用療法が登場してきたことになります」

リムパーザとザイティガの併用療法が承認されたのは、「PROpel試験」のサブグループ解析によって、有用性が証明されたためです。

まず、PROpel試験がどのような臨床試験だったかを説明しておきましょう。

試験の対象となったのは、転移性去勢抵抗性前立腺がんで、1次治療として化学療法または新規ホルモン療法薬による治療歴のない患者さんです。この人たちを無作為に「リムパーザ+ザイティガ併用群」と「プラセボ+ザイティガ併用群」に分け、有効性と安全性を調べました。ザイティガはステロイド薬を併用する必要があるため、両群ともプレドニン(一般名プレドニゾロン)を併用しました。

その結果、rPFS(画像診断に基づく無増悪生存期間)は、「プラセボ+ザイティガ群」に比べ、「リムパーザ+ザイティガ群」が統計学的に有意に延長していることが明らかになったのです。しかし、この結果によって、リムパーザとザイティガの併用療法が承認されたわけではありませんでした。

「PROpel試験には、BRCA遺伝子変異が陽性の人も陰性の人も含まれていましたが、それでも併用療法の有効性が示されたわけです。ただ、リムパーザはBRCA遺伝子変異陽性の場合によく効くことがわかっているので、遺伝子検査を行わずに転移性去勢抵抗性前立腺がんなら誰でも使用できる、という形での承認はしなかったのでしょう」

そこで、BRCA遺伝子変異陽性の患者さんだけに絞って、サブグループ解析が行われたのです。その結果は素晴らしいものでした。「リムパーザ+ザイティガ群」が、「プラセボ+ザイティガ群」と比較して、主要評価項目のrPFSでも、副次評価項目のOS(全生存期間)でも、臨床的に意義のある延長を示したのです。rPFSのハザード比は0.23で、病勢進行リスクが77%も低減していました。

「プラセボ+ザイティガ群」では、rPFS中央値が8.4カ月、OS中央値が23.0カ月でしたが、「リムパーザ+ザイティガ群」では、増悪したり死亡したりする患者さんが少なく、それぞれ中央値の検出基準に達していませんでした。

サブグループ解析でこのような結果が得られたことで、リムパーザとザイティガの併用療法は、BRCA遺伝子変異陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がんの治療薬として承認されることになったのです(図4)。

どのような患者さんが治療の対象となるのでしょうか?

サブグループ解析の結果からもわかるように、リムパーザとザイティガの併用療法はとてもよく効きます。ただ、この併用療法の対象となる患者さんは、実際にはあまり多くないと考えられています。なぜなら、PROpel試験の対象となったのは1次治療として新規ホルモン療法薬を使っていない患者さんです。ところが、そういう患者さんが、現在ではあまり多くないと考えられるからなのです。

「ザイティガやイクスタンジといった新規ホルモン療法薬は、もともとは去勢抵抗性前立腺がんの治療に使われていました。ところが数年前から、アップフロント治療といって、これらの薬剤を前立腺がんが発見された時点から使うようになっています。そのほうが予後(よご)がよいとわかってきたからです。そのため、すでに新規ホルモン療法薬を使っているため、リムパーザとザイティガの併用療法の適応とならない患者さんが増えているからです」

新規ホルモン療法薬は、1つが効かなくなると、他の新規ホルモン療法薬に変えても、ほとんど効かないことがわかっています。イクスタンジとザイティガはほぼ同時期に承認され、イクスタンジが効かなくなったらザイティガにスイッチする、あるいはザイティガが効かなくなったらイクスタンジにスイッチする、ということが行われていました。

「ところが、これはあまり効かないのです。とくにイクスタンジが効かなくなった後のザイティガは、ほとんど効きません。つまり、新規ホルモン療法薬を横並びで使っても効果がないことは、すでに常識になっていたのです。ですから、新規ホルモン療法薬を使って効かなくなった患者さんには、ザイティガの併用療法を行っても、あまり効かないだろうと考えられるわけです」

では、どのような患者さんが対象となるのでしょうか。

去勢抵抗性となるまで、リュープリンやゴナックスといった古いタイプのホルモン療法を受けていて、新規ホルモン療法薬を使っていない人です。そういう患者さんが、去勢抵抗性となった時点で、BRACAnalysisなどによるコンパニオン診断を受け、BRCA遺伝子変異陽性だった場合に、リムパーザとザイティガの併用療法を受けることができます。

「こういった治療の流れできた患者さんにとっては、非常に有用な併用療法だと思います。今まで新規ホルモン療法薬を使っていない患者さんに、リムパーザとザイティガを併用で使うのですから、それはよく効きます。また、いずれ効かなくなったとしても、ドセタキセルやジェブタナを使うことができます。そうやって逐次療法を続けていくことで、大きな恩恵が得られると思います」

数は決して多くありませんが、この併用療法の恩恵を受けられる患者さんがいることは確かです。これまで新規ホルモン療法薬を使ってこなかった人が、転移性去勢抵抗性前立腺がんになった場合には、遺伝子検査でBRCA遺伝子変異の有無について調べてみるとよいでしょう。

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