診療ガイドラインの解説:リスクの高いがんを選んで治療し、リスクの低いがんに不要な治療をしないことが重要 「前立腺癌診療ガイドライン」をわかりやすく解説する
普及が進むロボット手術

さらに、昨年保険で認可され、急速に普及が進んでいるのがロボット手術。正確には、腹腔鏡下手術を支援するロボット・ダヴィンチだ(写真7)。
腹腔鏡下手術は器具の操作が難しく、習得に時間がかかるのに対し、ロボット手術は同じ腹腔鏡下手術でもロボットのアームが自在に動き、見たい部位を拡大して繊細な操作ができるなど、利点も多い。習熟が早いのも利点だ。そのため、今やアメリカでは「前立腺がんの手術は、9割がロボットで行われている」そうだ。
開腹、腹腔鏡、ロボット、いずれも治療成績に大差はないとみられているが、荒井さんによると「最近、排尿障害や性機能障害などの合併症は、繊細な操作ができる分、ロボット手術のほうが少し良さそうという報告も出ている」という。東北大学でも、2012年2月にロボットを導入、患者さんはすでに数カ月待ちの状態だという(図8)。
開腹手術 | 腹腔鏡手術 | ロボット手術 | |
手術時間 | 短い | 長い | 中間 |
出血量 | 多い | 少ない | 少ない |
合併症の割合 | 多い | 中間 | 少��い |
回復期間 | やや長い | 短い | 短い |
技術の難易度 | ロボット手術と同等 | 難しい | 開腹と同等 |
操作性 | 中間 | 不良 | 良好 |
「中途半端なリンパ節郭清をするのが嫌なので、ここでは低リスク群と中リスク群をロボット手術の対象にしています。しかし、アメリカは経験数が多いので、高リスク群でもロボットを使ってリンパ節郭清まで行っている」という。
今、日本にあるロボットは70台ほどでアメリカに次ぐ数だが、おそらく今年は100~150台に達するだろうと荒井さんはみる。開腹手術が無くなることはないが、前立腺がんの手術はロボットが主流になる日も遠くはなさそうだ。
局所進行がんにはホルモン療法を

前立腺の外に浸潤した局所進行がんの場合は、放射線療法とホルモン療法の併用、骨など遠隔転移があればホルモン療法が標準治療になる。
しかし、ここにも新世代の治療薬が登場しようとしている。これまでは、LH-RHアゴニストと抗アンドロゲン薬の単独、併用治療が基本だったが、新たにGn-RHアンタゴニスト(商品名ゴナックス)が昨年登場した。
「評価はこれからですが、それほど大きく治療成績を変えることはないと思います。ただ、LH-RHアゴニストが一時的に男性ホルモン(テストステロン)を上げてがん細胞を増やすのに対し、アンタゴニストは一直線に男性ホルモンを低下させるのが利点。ただし、この作用機序の違いが治療成績に結びつくかどうかは現時点ではよくわかっていません」と荒井さんは語る(図9)。
第3世代のホルモン薬も登場予定

さらに、ここ数年の間に新薬が続々登場するという。
「男性ホルモンの分泌や作用にもいろいろなルートがあり、これまではその一部しか抑えられませんでした。しかし、そのルートが解明されてきて、副腎から分泌される微量の男性ホルモンを抑えたり、受容体をブロックするなどいろいろな方向から、男性ホルモンを抑える薬が研究されています。そのなかには、すでに臨床試験を終えたものも試験中の薬もあります。アメリカではすでに認可された薬もあるのです」と荒井さん。
こうしたいわば第3世代の強力なホルモン薬が、今後いくつも出てくるというのである(図10)。
前立腺がんの薬物療法は、ホルモン療法が基本だ。抗がん薬ではタキソテール*が唯一効果を認められているのみ。
LH-RHアゴニストと抗アンドロゲン薬を単独、あるいは併用しても、数年で効かなくなり、がんが再燃する。そこで、タキソテールを使って効果が無くなれば後はなかった。
しかし、今後こうした新規ホルモン薬が登場すると「今、腎がんではいくつも分子標的治療薬が登場し、それに乗り換えながら長く延命することができるようになっています。前立腺がんも同じように、去勢抵抗性になっても次々にホルモン薬を変えてこれまでより長く延命できるようになるでしょう」と荒井さんは語る。
また、緩和治療も進歩している。前立腺がんは骨に転移しやすく、それが痛みや寝たきりなどの原因になり、合併症を引き起こす。しかし、今はビスホスホネートのゾメタ*やランマーク*という骨折予防に効果のある薬が登場し、末期までQOLや活動を維持することが可能になってきた。
「やっと、ラインナップが揃ってきたところです。ここ2~3年の間に前立腺がんの治療は大きく変わるはずです」と荒井さんは語っている。
*タキソテール=一般名ドセタキセル *ゾメタ=一般名ゾレドロン酸 *ランマーク=一般名デノスマブ
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