前立腺がんの骨転移治療:骨転移には早期発見・早期治療が大切 骨の健康を保ちながらがん治療を!
骨転移の早期発見がポイント
“bone health”というコンセプトに基づいた治療を進めていくためには、骨転移をできるだけ早く見つけ、治療に結びつけていくことが大切です。
その第一歩は血液検査。PSAやALP(アルカリホスファターゼ)を定期的にチェックするようにします。これらの上昇が認められれば、転移が疑われます。痛みやしびれなどの自覚症状も目安になりますが、前立腺がんの場合、転移していても初期には症状が出ないケースも多いので、注意が必要です。
転移が疑われた場合は、まず骨シンチグラフィや単純X線で転移の有無を検査します。そこで転移が見つかればCT、MRIを撮り、転移の程度や広がりを詳しく調べ、それに基づいて治療方針を立てます。
前立腺がんでは骨転移がない状態でも、骨密度が少し低下します。転移するとそのスピードはいっそう速まり、骨関連事象のリスクが増します。「それを防ぐためにも、骨転移を早期に発見し、治療することが重要」と佐藤さんは指摘します。
新薬に手ごたえ

では、骨転移が確認された場合、どう治療を進めていくのでしょう。佐藤さんによると、がんそのものに対する治療と、骨転移の進行を抑える治療の2本立てになるといいます。さらに、痛みなどがある患者さんには、症状を緩和する治療も行われます。
がんそのものに対する治療の基本はホルモン療法です。前立腺がんは男性ホルモン(アンドロゲン)が刺激となってがんが増殖しますので、ホルモン療法によって男性ホルモンの分泌を抑えます。
現在は、LH-RHアゴニストと抗アンドロゲン薬を併用するMAB(マキシム・コンバインド・アンドロゲン・ブロッケイド)療法が主流です。ただ、ホルモン療法は長期に用いていると次第に効かなくなり、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)という状態に陥ります。その場合には化学療法が検討されます。
一方、骨転移の進行を抑える治療では、ゾメタ*やランマーク*という薬剤を用います。ゾメタは骨粗鬆症の治療に使われるビスホスホネート剤の仲間で、骨を壊す細胞(破骨細胞)の働きを抑えて骨を守り、骨病変の進行を遅らせる効果が実証されています。
ゾメタの登場で、骨転移の治療は大きく前進しましたが、これを超えると���待されているのが、2012年に承認されたばかりのランマークです。骨にがんが転移すると、骨芽細胞を刺激してランクルという物質を分泌させます。このランクルは、骨を溶かす破骨細胞を作ったり、活性化する作用があります。このためランクルが増えると、骨がどんどん溶け出し、もろくなっていきます。ランマークは、このランクルの働きをブロックして、破骨細胞が増えるのを抑え、骨の破壊が進行するのを阻止する薬です(図4)。
骨転移した前立腺がん患者さんを対象とした比較試験でも、ランマークはゾメタに比べ、骨関連事象の発生を有意に遅らせることが証明されています。
北里大学でもすでにこの薬を導入しており、佐藤さんは「切れ味がよく、手ごたえを実感している」といいます。
*ゾメタ=一般名ゾレドロン酸 *ランマーク=一般名デノスマブ
骨転移を防ぐための検討も

ゾメタやランマークは骨転移の治療薬なので、現在は転移が起こってからしか使えません。しかし、ホルモン療法を続けていると、骨がもろくなって転移しやすくなり、ホルモン療法が効かなくなると、80%の患者さんに骨転移が起こるといわれます。そこで、転移を防ぐために、これらの薬を予防的に使うことも検討されています。
事実、米国での臨床試験では、ホルモン療法が効かなくなったもののまだ転移していない患者さんにランマークを投与したところ、プラセボ(偽薬)群に比べ転移が起きるのが遅くなることが確かめられています(図5)。
予防投与の是非についてはいろいろ意見がありますが、佐藤さんは「早めの投与が望ましい」という考えです。
一方、骨転移の治療中、注意しなければならないのは副作用です。たとえばランマークの場合、投与早期から血液中のカルシウムが下がり「低カルシウム血症」が起こることがあります。これを防ぐには、カルシウム製剤やビタミンDの補充が大切です。
また、あごの骨が壊死する「顎骨壊死」という副作用もまれにみられます。しかし、薬にはリスクとベネフィットがつきもの。佐藤さんは「骨転移治療薬をうまく使い、骨転移やそれに伴う骨関連事象をコントロールしていくことが、前立腺がん患者さんのQOLの維持につながる」と話しています。
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