治療法別QOL:迷える患者さんに、効果とQOLの観点から選び方を伝授 どれがよいか、前立腺がんの治療法

監修●篠原信雄 北海道大学大学院医学研究科腎泌尿器外科准教授
取材●「がんサポート」編集部(構成/柄川昭彦)
発行:2013年2月
更新:2019年12月

手術も放射線療法も著しく進歩

■図5 RT-IMRT(動体追跡強度放射線治療)

積極的に治療しようという場合、手術と放射線療法という2つの選択肢がある。

「手術を受けると尿失禁が起きやすいとか、性機能障害が起こると言われます。しかし、手術の技術は格段に進歩し、かつてのこうした評価は当てはまらなくなっています。そのくらい神経を温存する技術が進歩しているのです」

開放手術と腹腔鏡手術の治療成績には差がなく、どちらもよくなっている。具体的には、MRIによる診断が行われるようになったことで、神経を温存しやくすなっている。また、腹腔鏡手術により解剖学的理解が高まったことも、成績を向上させることに貢献した。

「ロボット手術はまだ新しい技術なので、開放手術や腹腔鏡手術と、そのまま比較することはできません。ただ、この方法が急速に普及し、その一方で、腹腔鏡手術が行われなくなっていくと予想されています」

進歩したのは手術だけでなく、放射線療法も着実に進歩し、それに伴って有害事象が起きにくくなっている。

放射線療法の中でもとくに進歩した治療法は、RT-IMRTである。IMRT(強度変調放射線治療)は、がんの形に合わせ照射角度や強度を調節し、がんに放射線を集中させる治療法。臓器が動くと、がんに正確に照射するのが難しかった。そこで、がんの周囲に金の球体を3つ埋め込み、その位置をエックス線で確認しながら、がんに放射線を正確に集中させるのがRT-IMRTである(図5)。

その他、前立腺に放射線の小さな線源をたくさん埋め込み、内部から放射線を照射する小線源療法などもある。

「RT-IMRTや小線源療法など、新しい放射線療法は、がんに放射線を集中させ、周囲への影響を極力防いでいるので、治療効果に優れ、有害事象は少なくなっています。RT-IMRTのデータは、神経温存手術と変わらない治療成績で、手術以上のQOLを示しています」

手術と放射線療法は、状況によって、手術のほうがいい場合と、放射線療法のほうがいい場合がある。

「手術のほうがいいのは、もともと前立腺肥大で尿の出が悪い人です。このような人に放射線療法を行うと、治療後に排尿障害が起こりやすく、手術のほうが問題は起きにくいといえます」

手術がいい場合と放射線がいい場合

■図6 治療法別の性機能への影響がなかった割合
タテ軸は最高のQOLの状態を100点とした場合の割合

一方、放射線療法が勧められるのは、性機能を残したい場合である(図6)。

「勃起障害に関しては、北大のデータでは、放射線療法のほうがいいという結果になっています。両側の神経温存手術を受けた人と、RT-IMR Tを受けた人で、勃起機能を比較したところ、1年後も5年後も、放射線療法を受けた人のほうがよかったのです」

軽く考えてはいけないホルモン療法の副作用

ホルモン療法は、手術や放射線療法に比べ、副作用が強くない治療と言われてきた。しかし、実際には、ホルモン療法の副作用に苦しんでいる患者さんは少なくない。

「勃起障害や性欲低下といった性機能障害はもちろん、更年期障害で見られるようなホットフラッシュもありますし、筋力の低下、骨粗鬆症、関節痛などもあります。男性ホルモン欠乏による抑うつ状態も大きな問題です。こうした副作用は、あまり問題にされてきませんでしたが、患者さんの悩みは深刻です。たとえば、ホットフラッシュがあると、人前でいきなり流れるような汗が出てきたりします。そんなことが繰り返されれば、精神的にも大きな負担になります。また、いったん抑うつ状態に落ち込んでしまった患者さんは、なかなかそこから抜け出せません」

ホルモン療法にこうした副作用がある一方で、手術や放射線療法の進歩が著しい進歩を見せている。こうした現状を考えれば、副作用が強くないからと、安易にホルモン療法を選択するのは賢明ではない。

「ホルモン療法を受けるとしても、その期間があまり長くならないようにするのが、治療選択の際に注意すべき点です。高齢だからホルモン療法という考えは、改める必要があると思います」

QOLの面からも、ホルモン療法を長く続けるのは問題がある。治療を選択する際に考慮したいポイントだ。

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