排尿障害:骨盤底筋体操や失禁バンドなど、患者さん自身でできる対処法も 前立腺がんの排尿障害にどう対処する?
治療による後遺症
一方、がん治療による後遺症として失禁や頻尿といった症状を訴える患者さんも多い。
「放射線治療では、前立腺だけでなく尿道や膀胱も影響を受けます。低温やけどと同じ状態になるので、膀胱に尿が溜まるだけで刺激になり、頻尿や失禁、血尿などの症状が出ることがあります。最近ではIMRT(強度変調放射線治療)が普及し、ピンポイント照射ができるようになったため、軽度の症状が出る人が3割程度で、それも1~2カ月でおさまるのが普通です。尿が垂れ流しになる重症のケースは1%未満です」
対策1 薬物療法で対応
前立腺がんの外照射では、1回2グレイずつ週5回、計39回ほど照射するのが標準的だが、治療半ばの20回目あたりから頻尿や失禁がみられることがあるという。
「治療終了後2~3カ月たっても症状がおさまらないときには、膀胱の筋肉をゆるめて蓄尿能力を増す抗コリン剤(ポラキス*、バップフォー*など)を使います。尿が出にくく、なおかつ頻尿や失禁もある場合には、α1ブロッカーと抗コリン剤を注意しながら併用することもあります」
対策2 重症例には導尿処置
「万一、重症の尿失禁になった場合は、導尿処置などで対応します。また膀胱や直腸からの出血がひどく、輸血が必要なほどの重症例は0・01%未満とごく稀ですが、救済措置として高圧酸素療法を行うこともあります」
高圧酸素療法とは、放射線治療によってダメージを受けた細胞に、足りなくなった酸素を供給することで、組織の再生を促す方法。基本的に患者さんは密閉された室内に入って、酸素マスクをつけて酸素を吸っていればいいという。
対策3 前立腺が大きい人は
「前立腺が大きい場合に小線源療法*を行うと、埋め込む線源の数も多くなり、むくみが出て尿道が圧迫され、排尿困難になりがちです。もし排尿が難しくなった場合、前立腺内に線源が入っているため、2年間は尿道を広げる手術などはできず、カテーテルを使って導尿するしか方法はありません。ですので、前立腺が大きい患者さんの場合、なるべく違う治療法を検討したほうがよいでしょう」
なお、前立腺の標準的な体積は20cc程度。前立腺が50~60cc以上と大きい場合には、小線源療法以外の治療法を選択したほうが良さそうだ。
*ポラキス=一般名オキシブチニン
*バップフォー=一般名プロピベリン
*小線源療法=粒状の小さな線源(放射性物質)をがんがある部分に挿入し、内部から放射線をあてる方法
手術後は高頻度に失禁が
前立腺がんの手術後は、1週間で導尿カテーテルを抜き、自力排尿に移行する。
「カテーテルを抜いた直後は、膀胱に尿が溜まった感じがわからないという人が多く、7~8割の人に一時的な失禁の症状が見られます。
前立腺の摘出手術では、膀胱頸部(膀胱の出口)を切除して縫い縮めるので、膀胱の体積が一時的に縮小し、尿を止める尿道括約筋や、前立腺周囲の神経や血管が多少なりとも傷つくために、失禁や頻尿につながるのです。ただし多くの人が次第に通常の排尿状態に戻ります。術後3カ月後も失禁が残り、紙オムツが必要な人は2~3%程度です」
なお、腹腔鏡手術やロボット手術でも、後遺症の発症率はほぼ変わらないという。
対策1 骨盤底筋体操を実施
「手術後は、肛門をギュッと締める骨盤底筋体操を行い、尿道括約筋を強化しましょう。肛門の筋肉と尿道の筋肉は8の字になっているので、肛門を閉めれば、尿道括約筋も鍛えることができます」(図4)

対策2 薬物療法で対処する
「手術後半年~1年たっても頻尿や失禁が改善しないときは、膀胱を広げる抗コリン剤や尿道括約筋を緊張させるβ2刺激剤(スピロペント*)などの薬物療法で対処します」
膀胱が過敏になり、尿意を感じると我慢できない「切迫性尿失禁」や、膀胱の容量が小さく頻尿の場合は抗コリン剤、くしゃみをしたときに漏れる「腹圧性尿失禁」ならβ2刺激剤を使うとよいそうだ。
対策3 バンドを用いる手も
「外出時の失禁に困るようなときは、ペニスに巻きつけて漏れを防ぐ専用のバンドを使う方法もあります。ペニスの下側にある尿道を圧迫するのがコツです」
失禁防止バンドは、調剤薬局などで入手できるそうだ。
対策4 人工尿道括約筋手術
重症の尿失禁対策として、アメリカで開発されたのが人工尿道括約筋の手術。陰のうに埋め込んだコントローラーのボタン操作で、尿道を締め付けるリングがゆるんで排尿できる仕組みだ(図5)。

日本でも高度先進医療として限られた施設で行われていたが、手術費用は自費診療となり、高額な費用が必要だった。現在、薬事承認に向けて申請中で、その結果が注目されている。
「保険が適用されれば、普及するかもしれません」
対策5 紙オムツで対処
最近では紙オムツの機能が向上し、ペニスを包み込むタイプもある。尿失禁パンツと組み合わせて使えば、漏れやにおいも気にならないほど、性能も優れてきているそうだ。
尿に関するトラブルは毎日のことだけに、悩んでいる患者さんにとっては深刻な問題。原因によって対処法も異なるので、恥ずかしがらず主治医にぜひ相談してみよう。
*スピロペント=一般名クレンブテロール
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