自分にとってベストの治療法をどう選ぶか 選択肢の多い前立腺がん治療

監修●上村博司 横浜市立大学付属市民総合医療センター泌尿器科・腎移植科診療教授
取材・文●柄川昭彦
発行:2025年2月
更新:2025年2月


手術ができない場合や望まない場合は?

手術ができない場合や、患者さんが手術を望まない場合には、放射線療法が行われます。放射線療法にはいろいろな種類がありますが、現在、最もよく行われているのはIMRT(強度変調放射線治療)です。体の周囲から放射線を照射し、前立腺全体に放射線を集中させる治療法です。

放射線療法の合併症としては、頻尿、血便、血尿などがあります。また、再発が起きてしまうと、もう放射線療法は行えませんし、基本的には手術もできません。手術ができる場合もありますが、まだ試験的な治療法です。

「初期治療に手術を選択した場合には、再発しても放射線療法が行えます。手術には、そういった利点もあります」

体の外側から放射線を照射する外照射だけでなく、体の内側から照射する内照射療法もあります。密封小線源療法は、放射線を出す小さな線源を前立腺内に埋め込み、それによってがん細胞を死滅させます。

「密封小線源療法が適しているのは、グリソンスコアが7点以下の場合です。8点以上の悪性度が高い場合には、密封小線源療法に放射線外照射とホルモン療法を併用する治療が行われます」

また、前立腺がんの放射線療法には、重粒子線や陽子線を照射する粒子線療法もあり、現在は保険が適用される治療となっています。ただし、これらの治療を行う施設は限られていて、全国どこでも受けられるわけではありません。

局所浸潤がんや転移がんには?

局所浸潤がんで転移がなければ、放射線療法(外照射)+ホルモン療法の併用療法が行われます。多くの場合、放射線療法としてはIMRTが行われています。

「局所浸潤がんの治療はこれだけで、選択の余地はありません。なかには、ホルモン療法を受けたくないので放射線療法だけにしたいという患者さんがいます。そうすることで性機能は維持できますが、残念ながら進行してしまうケースが多いようです」と上村さん。

転移がんに対してはホルモン療法が行われます。男性ホルモンの働きを抑えることで、前立腺がん細胞の増殖を抑える治療です。10年ほど前から新しい第2世代の新規ホルモン薬が登場し、強力なホルモン療法が可能になっています。それにより、転移がんの予後が延びたといわれています。とくに去勢抵抗性前立腺がんになってから予後が延びているのが特徴です。

ホルモン療法に、抗がん薬を併用する場合がありますが、新規ホルモン薬に最初から併用することで、予後が延びるとされています。

「転移がたくさんある転移症例では、新規ホルモン薬、LH-RH製剤、抗がん薬ドセタキセル(一般名)の3剤を同時に投与するトリプレット療法を行うこともあります。抗がん薬は6サイクル行い、それ以降はLH-RH製剤と新規ホルモン薬をずっと使っていきます。それにより、転移がたくさんある患者さんの生存期間が延びています」(図4)

抗がん薬は、一般的には、去勢抵抗性前立腺がん(ホルモン療法を行っているのに進行する状態)になってからで、ドセタキセル、ジェブタナ(一般名カバジタキセル)の順に使います。

ホルモン療法の副作用としては、筋力が落ちる、精神的に萎える、気力が落ちる、皮下脂肪がつきやすく体重が増える、といったことが知られています。

比較的安全な治療と言われていましたが、最近になって、心臓血管障害が起きやすいことがわかってきました。

「高血圧になりやすく、それに付随して狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患や、脳血管障害も起きやすいとされています。ホルモン療法は長年続けるので、影響が現れやすいのです。ホルモン療法を受けるときには、心臓や血管をきちんとフォローしていく必要があります」と上村さんは指摘します。

去勢抵抗性前立腺がんにはコンパニオン診断を

ホルモン療法を行っていて、去勢抵抗性前立腺がんになった場合には、遺伝子変異の有無を調べるコンパニオン診断を行います。患者さんの血液を採取して、体細胞のBRCA1やBRCA2の変異を調べます。BRCA1/2の変異は、卵巣がんや乳がんの発症に関わる遺伝子変異としてよく知られています。前立腺がん患者さんの陽性率は15%程度ですが、陽性の場合には、リムパーザ(一般名オラパリブ)、ターゼナ(一般名タラゾパリブ)といった薬剤を使用できます。どちらもBRCA1/2変異陽性のがんを治療するPARP阻害薬です。

「これらの薬を使うと、PSAはよく反応して下がります。ただ、ずっと効き続けるわけではなく、だいたい1年間ほどで効かなくなってきます。最近は新しい治療法も登場しています。リムパーザだったら新規ホルモン薬のザイティガ(一般名アビラテロン)を併用し、ターゼナだったらイクスタンジ(一般名エンザルタミド)を併用します。それにより、効果のある期間が延長する、というデータも出てきました」(図5)

さらに、DNAが複製されるときに生じるコピーミスを修復して正常な遺伝子情報を維持する機能MMRに変異が生じるとMSI-high(高頻度マイクロサテライト不安定性)になりがん化すると考えられています。それを調べるMSI検査が行われる場合があります。その結果、MSI-highが認められた場合は、免疫チェックポイント阻害薬のキイトルーダ(一般名ペンブロリズマブ)を使用することができます。ただし、前立腺がんの陽性率は低く、5%以下とされています。

節目ごとに医師とよく相談して治療選択を

前立腺がんの治療は選択肢が多いため、患者さんが悩んでしまうこともあります。主治医に選択できる治療法のメリットとデメリットを説明してもらい、ご自身の希望と照らし合わせて決定するとよいでしょう。進行度や悪性度によって選べる治療法に違いはありますが、「私はこういう治療を受けたい」という希望を大切にしながら、治療法を選択していくことが勧められます。

「治療法の選択が必要なのは、前立腺がんと診断がついたときだけでなく、再発したとき、治療薬が効かなくなったときなど、何回かあります。そうした節目ごとに、主治医とよく相談してください。医師と患者さんがお互いに意見の一致点を見つけ、治療を決めていきましょう。そうすることで、後悔しなくて済みますし、患者さんの治療満足度も高くなります」と上村さん。

前立腺がんは経過が長いので、こうした節目が何度かやってきます。納得できる治療法選択のためにも、基礎的な知識をもっておくことは大切です。

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