渡辺亨チームが医療サポートする:前立腺がん編
迷った末に手術に挑んだ。再発率が低いと聞いて安心
赤倉功一郎さんのお話
*1 硬膜外麻酔
人間の脳と脊髄はクモ膜という薄い膜に包まれていて、さらにその外側を「硬膜」が包んでいます。脊髄は背骨の中の脊柱管を通っていますが、脊柱管の中で「硬膜」の外側の空間を硬膜外と呼ぶのです。この硬膜外に麻酔薬を注入し、痛みを抑えることを硬膜外麻酔といいます。硬膜外麻酔だけでは意識がなくなることはありません。前立腺全摘除術では、全身麻酔と併用するので、手術中は意識がないのが普通です。
硬膜外麻酔は、麻酔後の重篤な合併症がほとんどなく、痛いところだけに効かせられる「分節麻酔」ができるなどの長所があります。長時間にわたる手術などでは、「持続硬膜外麻酔」という方法を用います。ただし、この麻酔法は局所麻酔薬の使用量が多く、中毒発生の危険性もあって、手技が難しいため、熟達した麻酔医の手で行われる必要があります。

*2 術後の管理
前立腺全摘除術のあとには、鼻腔に酸素吸入用チューブ、栄養の点滴、硬膜外麻酔用チューブ、導尿用バルーンカテーテル、腹部ドレーンなどが施されます。
*3 PCAポンプ装置
PCAはPatient Controlled Analgesia(患者自己管理鎮痛法)の略。患者さんが痛みを感じたときにボタンを押すことで鎮痛薬が投与(静脈内、皮下、硬膜外などへ)される仕組みになっており、痛いときはすぐに鎮痛薬を使用できるとの安心感が生まれ、そのためむしろ鎮痛薬総投与量は減るといわれています。一定の時間に入る薬の限度を決めることで過量の薬は入らないようになっています。
早期前立腺がんの再発は2割
赤倉功一郎さんのお話
*4 リンパ節の組織診断
前立腺がんのリンパ節への転移は、術前の生検だけではわかりません。手術時に骨盤内のリンパ節を郭清して、病理医が顕微鏡で組織診断します。もしリンパ節転移が見つかれば、ホルモン療法を行うか、放射線治療にホルモン療法を加える治療が必要になります。

*5 術後の再発と対応
前立腺がんの外科療法を行った場合、PSAが再び上昇したり、リンパ節または他臓器に転移や新病変がみられたり、あるいは前立腺摘除部位にがんの増殖がみられたときも再発といいます。
九州大教授の内藤誠二さんを班長とする厚生労働省研究班が、早期の前立腺がんで摘出手術を受けた患者さんに関する全国調査を実施したところ、ほぼ2割が後にがんを再発していたことが、明らかになりまし���。この調査は早期がんと診断されて、1998年1月から02年6月にかけて前立腺の摘出手術を受けた男性1360人(47~83歳)の経過を追ったもので、大学病院や、がん専門病院など全国36施設が参加しています。そして、PSAが一定の値を超え、がん細胞の増殖を示す「生化学的再発」と診断された人が254人(18.7パーセント)いることがわかりました。再発までの期間は、1年以内の例が多く、4年以上たった例もあります。
PSAの上昇により前立腺がんが再発した場合、一般的な治療法として、(1) ホルモン療法、(2) 放射線治療などの対処を行います。
*6 外科手術の後遺症
前立腺全摘除術の合併症として、尿漏れ(尿失禁)、勃起障害(インポテンス)、尿道狭窄などが起こりがちです。
尿漏れは、尿道括約筋を傷つけることによって起こるもので、患者さんのQOLに最も深刻な影響を与える問題となっています。骨盤筋群の強化や、薬物投与などで対処しますが、回復の状態は個人差が大きく、5~10パーセントの患者さんは長引きます。
一方、勃起障害は手術操作中に神経を切断することにより起こるため、有効な治療法はありません。ただし、手術法として、勃起神経を温存し、性機能を保つ方法が開発されており、これを採用するケースが増えています。神経を切除しなければならない場合、性機能の温存のために足から神経を取って移植する方法が取り入れられる場合もあります。
尿道狭窄に対しては、尿道の切開や尿道を定期的に拡張することにより対処します。
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