脳転移に威力を発揮するサイバーナイフ 技術革新により原発肺がんも保険で治療できる

監修●佐藤健吾 日本赤十字社医療センターサイバーナイフセンター(脳神経外科)
取材・文●町口 充
発行:2014年6月
更新:2020年3月


1回でだめなら分割して照射

どのような患者さんがサイバーナイフ治療の対象になるのだろうか?

1回の照射で終了する場合は、原則として腫瘍サイズ3㎝以下、転移個数3~4個以下が対象となっているが、佐藤さんは、腫瘍サイズが6㎝ぐらいまでなら分割照射が可能という。ただし、腫瘍はまん丸ではないので必ずしも直径だけでは大きさを表せず、佐藤さんは体積(ml)で表現している。だいたい直径2㎝の球が8mlぐらいというから、6㎝というと24mlぐらいの計算だ。

これぐらいの大きさだと1回での治療ではなく、分割して照射したほうが確実で、より安全だという。なお、1回の治療時間は30分~90分。

70歳代の男性の例(図4)。肺がんが脳に転移し、40mlの大きさがあった。普通なら手術による切除が勧められるが、合併症を持つ高齢の患者さんだったためサイバーナイフを選択。分割治療することにし、3日連続で同じ治療を繰り返し、4カ月後には腫瘍が消えた。

図4 肺がんの脳転移症例への治療(70歳代男性)

サイバーナイフのデメリットは?

治療にあたっては全脳照射とサイバーナイフの使い分けも考慮されるという。

「腫瘍の数や大きさをみて判断しますが、個数が多い場合は先に全脳照射によって腫瘍を叩いておいて、あとからサイバーナイフで治療することがあるし、その逆もあります。例えば、最初は腫瘍が1、2個しかなかったのでサイバーナイフで治療したところ、あとから腫瘍がたくさん見つかり、全脳照射に切り換えるケースがあります」

こう語る佐藤さんによると、その理由の1つはイレッサなど分子標的薬の登場と関係があるという。一般的に抗がん薬は脳転移には効きにくいのだが、イレッサは劇的に効くことがあるという。それでもイレッサは長く使い続けるうちに効果がなくなって、投与を止めると一挙に転移が進むケースがあるのだ。

ただし、今まで述べたのは肺がんで多い非小細胞肺がんについてであり、小細胞肺がんの脳転移は進行が早いため、最初に全脳照射を行うのが基本という。

もちろん、サイバーナイフにもデメリットはある。「それはサイバーナイフというより放射線治療そのものの問題」と佐藤さん。「どうしても放射線治療に���限界というものがあり、正常組織を傷つけないようにしようとしても、過剰照射により脳にダメージを与えることがあります。一番心配されるのが脳細胞を死滅させる放射線壊死です。むくみなどを生じさせて痙攣や麻痺を起こしたりするので、より慎重さが求められます」

イレッサ=一般名ゲフィチニブ

08年から原発性肺がんにも保険適用

表1 保険適用となる主な疾患

それでも、進化し続けているのがサイバーナイフだ。従来、適応対象は転移性を含め脳腫瘍や頭頸部がんの患者さんに限られていたが、08年に体幹治療器として承認され、原発性の肺がんを始め、脊髄、肝臓、膵臓、前立腺など体幹でできる固形がんにも保険が効くようになった(表1)。

肺は呼吸によって動いている。このため、肺の動きを追尾する「呼吸動態追尾システム」があり、そこで用いられるのが1.5㎜大の純金のマーカーだ。
これを腫瘍の近辺に入れて、留置する。マーカーは取り出すことなく体内に残るが、純金なので体に害を及ぼすことはない。ただし、現段階では保険が効くのは原発肺がんの場合、直径5㎝以下の腫瘍で、転移がないケースに限られている(図5)。

図5 原発肺がんへの治療(CT画像)

佐藤さんは、「転移したがんだけでなく、原発がんに対しても外科手術と遜色ないものになっています」と述べており、〝痛くないナイフ〟による治療が今後、肺がん治療の主流の1つになっていくかもしれない。

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