エルプラット、サイラムザと新たな治療選択肢も登場 進行・再発胃がんに新しい治療法。着実に広がる治療の選択肢

監修●朴 成和 国立がん研究センター中央病院副院長/消化管内科科長
取材・文●町口 充
発行:2015年7月
更新:2019年8月


大規模臨床試験でも有効との結果

日本を含む世界規模で行われた第Ⅲ相の「RAINBOW」と呼ばれる臨床試験では、ファーストラインで治療を行ったあとに増悪した進行性の胃がん患者さんに対して、サイラムザ+タキソールによる治療と、プラセボ(偽薬)+タキソールによる治療を比較したところ、サイラムザ併用群のほうが治療成績が良いという結果が示されたのだ。

「全生存期間と無増悪生存期間(PFS)の両方で、サイラムザ併用群で有意な延長効果が見られました」(図3、4)

図3 進行・再発胃がんに対するサイラムザの効果
(全生存期間、RAINBOW試験より)

出典:Wilke H,et al:Lancet Oncol 2014;15:1224-35
図4 進行・再発胃がんに対するサイラムザの効果
(無増悪生存期間、RAINBOW試験より)

出典:Wilke H,et al:Lancet Oncol 2014;15:1224-35

こうした結果を受けて、今後は、進行・再発胃がんのセカンドラインとしては、サイラムザとタキソールの併用療法が推奨されるようになるとの見方は強い。

他にもサイラムザに関しては、単剤としても良好との臨床試験結果が得られている。日本人は参加していないが、海外では「REGARD試験」と呼ばれる、1次治療で増悪が認められた、進行性の胃がん患者さんを対象に、サイラムザ単剤とプラセボを比較した第Ⅲ相試験も行われており、全生存期間、無増悪生存期間ともに有意な改善がみられたという。

ところで、血管新生阻害薬にはアバスチンにみられるように血栓症、消化管穿孔といった副作用が心配されるが、サイラムザではどうだろうか?

朴さんによれば、血栓症や消化管穿孔などの重篤な副作用は確かにあるが、アバスチンと同様に頻度もそれほど多くはないとのこと。他にも高血圧やタンパク尿といった副作用が出る場合があるが、サイラムザ特有の副作用というのは現時点で明らかになっているものはなく、アバスチンを使用する際と同様の注意が必要だという。

アバスチン=一般名ベバシズマブ

免疫チェックポイント��害薬への期待

エルプラットやサイラムザが進行・再発胃がんに使えるようになり、他にも新薬の臨床試験がいくつか行われている中、今後進行・再発胃がん治療は、大きく変わっていくかというと、過大な期待は禁物のようだ。

「新しい薬が出てきたことで、確かに成績は良くなりましたが、患者さんの命を数カ月延ばしただけで、決して満足できるものではありません。治癒できるようになるかと聞かれれば、まだまだ遠い先のことです。それでも、20年ぐらい前は半年位しかなかった生存期間が、今は1年を越えるのは普通になって、この数年の間に1年半位に延びるでしょう。20年前と比べれば3倍にも延長したことになります。それは、画期的な薬が現れたからではなく、色々な薬が出てきて少しずつ積み重ねていった結果です。今回出てきた新しい薬もその1歩であり、1歩1歩の積み重ねこそが重要です」

このように語る朴さんだが、今後、大いに注目したいものとしては免疫チェックポイント阻害薬をあげる。

私たちの体の免疫システムには、免疫の暴走を防ぐためブレーキ役として働く仕組みが備わっている。これが免疫チェックポイントと呼ばれるもので、がん細胞はこの仕組みをうまく利用して免疫からの攻撃を逃れている。そこで、この免疫チェックポイントの働きを阻害する薬の開発が進められており、既に日本では、14年9月に根治切除不能な悪性黒色腫(メラノーマ)に対して、オプジーボという抗PD-1抗体が承認されている。

「免疫チェックポイント阻害薬には、胃がんでも効果があるのではないかと期待をしています。結果次第ではありますが、胃がんの治療体系に大きな変化が訪れるかもしれません」と朴さん。現在、胃がんに対してオプジーボや同じく免疫チェックポイント阻害薬としていくつかの薬剤の臨床試験が行われているという。

過大な期待は禁物だが、徐々に進化している進行・再発胃がんの薬物療法。治療選択肢が増えたという点では、患者さんにとって朗報と言えるだろう。

オプジーボ=一般名ニボルマブ

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