マウスモデルで体重減少を抑制し、生存期間を延長 ナノ粒子を用いた光線力学療法による腹膜播種治療

監修●辻本広紀 防衛医科大学校上部消化管外科講師
取材・文●中田光孝
発行:2015年7月
更新:2019年7月


消化器がんのリンパ節転移や狭窄、乳がんにも応用の可能性有り

次に辻本さんに胃がん腹膜播種以外での診断・治療の可能性を聞いた。

「腹膜播種以外では胃がんのリンパ節転移もこの方法で転移の有無や程度を診断できますし、治療もできます。これは最近発表されました。そのほかにも、いろいろながん細胞で検討していますが、どのがん組織でもEPR効果はほぼ認められています。また、乳がんは体表近くにあるため体外から光を当てることができ、この治療法が適していると思います。同じ理由で体表がん(皮膚がんなど)も良い適応になります。

この方法で使っているのは800から1,000nmくらいの波長を持った光なので、だいたい1㎝から2㎝くらいまでの深さにあるがんが対象になります。また、この治療は完全にがんを死滅させるような根治的治療ではなく、生命を脅かさない程度に抑えておく姑息的治療です。ただ、抗がん薬と違って使っているうちに効かなくなってくる耐性を起こしませんから、繰り返し行うことができ、これは大きなメリットだと思います。

さらに、食道がんや胃がんでは食道や胃の入り口が狭くなる狭窄症状が付きものですが、狭窄症状に対しては胃カメラ内視鏡を使って光照射が可能ですから、この方法が使えます。

これまでは消化器がんに伴う狭窄症状に対し、ステント治療が行われてきましたが、光線力学療法を用いることで最後まで食事を摂れる可能性があります。また、腹膜播種があって腸管が狭窄しているような方にも使えますから、QOL(生活の質)の維持という点からもメリットがあります」と語る。

ただ、実際にヒトでこの治療を行う場合、お腹にごく小さな穴を開け、そこから腹腔鏡という内視鏡の一種を差し込んで、あらかじめ投与しておいたICGmにレーザー光を照射することになるが、その照射装置や、ICGmが発する光を検知するヒト用の装置がないため、現在、それらの装置の開発を急いでいるという。

また、今回実験に用いたマウス(ハツカネズミ)は小さすぎて腹腔鏡を使うことができないため、より大きなラットで腹腔鏡とICGmを使った光線力学療法を行い、本当に同じ効果が得られるかどうかを確かめる必要があると辻本さんは指摘する。

ステント=鋼製の網カゴのような形状で狭窄した血管や器官を拡げ、維持するための器具

腹膜播種に対するラクトソームICG-PDT 実用化は5年以内が目標

辻本さんによれば、今回の方法とは異なるが、光線力学療法によるがん治療は表在型���食道がん、胃がん、肺がんなどで既に認可され、健康保険の適用にもなっているという。

「しかし、実際には行われている医療施設が限られているのが現状です。その理由として光増感剤が腫瘍に集まる量に限界があったり、臨床に使いやすいレーザー装置が少ないといったことが挙げられ、がんに対するPDT自体は一般的とは言えない状況にあります」

最後に胃がん腹膜播種への臨床応用はいつ頃になるかを聞いたところ、今後はまずラットで同様の実験を行い、腹腔鏡検査・治療により、どのくらい効果が得られるかがわからないので、正確に予想することは困難と前置きしながらも、「5年以内の実用化を目指したい」とのことであった。

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