新薬で全生存期間延長という臨床試験結果も! 骨転移と併せて骨粗鬆症対策が重要。前立腺がんの骨転移治療

監修●鈴木啓悦 東邦大学医療センター佐倉病院泌尿器科教授
取材・文●伊波達也
発行:2016年1月
更新:2020年3月


骨粗鬆症対策も重要

2014年には、前立腺がんに対する新たな治療薬である、イクスタンジ、ザイティガ、さらに抗がん薬のジェブタナがお目見えした。前立腺がんに対する生命予後はますます延びつつある。これらの薬は投与時にステロイドを併用することが多い。ステロイドの投与は骨粗鬆症を確実に引き起こすため、骨転移と同時に、骨粗鬆症に対する対策も非常に重要になってくると、鈴木さんは強調する。

「まさに、骨の健康"Bone health"という考え方が重要です。男性は女性に比べ、骨折による死亡率が高いというデータもあります。ステロイド以外でも、前立腺がんで長期間ホルモン療法を行うと、男性ホルモンが低下して骨粗鬆症で骨折リスクが高まることも考えられます。

その点、ランマークの成分『デノスマブ』は、骨粗鬆症治療薬としても使われる薬剤なので、骨転移治療はもちろんのこと、骨塩量を上げる意味でも、がんに対する治療と並行して用いることが重要です」

骨転移と併せて、骨粗鬆症に対する対策も、骨の健康"Bone health"という意味では非常に重要と言えるだろう。

イクスタンジ=一般名エンザルタミド ザイティガ=一般名アビラテロン ジェブタナ=一般名カバジタキセル

期待の新薬で良好な結果も

骨転移に対する治療薬として、新たに期待されている薬剤もある。それが、放射性医薬品である塩化ラジウム-223(一般名)だ。第Ⅲ(III)相臨床試験「ALSYMPCA」での良好な成績に基づき、現在製薬企業が承認申請中の段階だという。

臨床試験は、症状のある骨転移を有する去勢抵抗性患者を対象に行われ、標準治療下で塩化ラジウム-223投与群とプラセボ群との比較を行ったところ、塩化ラジウム-223が全生存期間(OS)を有意に延長。全生存期間中央値は、塩化ラジウム群14.9カ月対し、プラセボ群は11.3カ月という結果だった(図3)。

図3 前立腺がん患者に対する塩化ラジウム-223の効果
(ALSYMPCA試験:全生存率(OS))

Parker C, et al. N Engl J Med. 369:213-223, 2013

「骨転移にフォーカスした薬で、初めて全生存期間を改善しました。ゾメタやランマーク��同じタイプの放射性医薬品であるメタストロンも骨関連事象は抑制しましたが、全生存期間は改善していませんでしたから、画期的なことです」

塩化ラジウム-223の特徴は、骨代謝の激しいところに取り込まれて、骨転移巣を主な標的として放射線の一種であるα(アルファ)線を放出する。このα線は、エネルギーが高く、腫瘍細胞に対して高頻度にDNAの2重らせん構造の2本鎖を切断し、DNAの複製を阻害、抗腫瘍効果を発揮する。

一方、従来のメタストロンの場合、放出するのはα線よりもエネルギーが低いβ(ベータ)線で、DNAの2重らせん構造のうち、1本鎖しか切断できないため、DNA複製を阻害することはできず、がんを完全に叩き切ることは難しかった(図4)。

図4 塩化ラジウム-223(α線)とメタストロン(β線)の違い(DNAへの作用)

1. Hall E, Giaccia A. Radiology for the Radiologist. 6th Ed. Philadelphia: Lippincott William & Wilkins; 2006;
2. Bruland Ø, et al. Clin Cancer Res. 2006;12:6250s-6257s.

また、副作用が少ないというのも、塩化ラジウム-223の特徴の1つ。塩化ラジウム-223が放出するα線は放射範囲が100μm未満と狭く、メタストロンと比べて正常組織や骨髄に対する影響も少なく、骨髄抑制等の副作用もほとんどないという。

メタストロン=一般名ストロンチウム-89 μm=マイクロメーター

骨転移しても諦めない

新薬について鈴木さんはこう語る。

「今後、治療のどのタイミングで使えるようになるかわかりませんが、ゾメタ、ランマークとともに骨転移治療に塩化ラジウム-223が併用できる可能性があります。骨の中には骨芽細胞と破骨細胞がありますが、ゾメタとランマークは破骨細胞に作用する薬に対し、塩化ラジウム-223は骨芽細胞と破骨細胞の両方に作用する薬であるため、あくまでも理論上の話ですが、併用すれば相乗効果が期待できると考えられます」

また、現在、ザイティガといった去勢抵抗性前立腺がんの新規薬剤との併用など、新たな臨床試験も行われているという。

ただし、「どんな人にも使える夢の薬ではないことも十分に認識する必要があります」と鈴木さん。というのも、この薬剤は現在申請中の段階であり、どういった患者が適応となるのかまだ定かではなく、また良好な結果だった臨床試験も、対象となったのは、骨転移が2個以上、内臓転移がない、去勢抵抗性の状態など、いくつかの条件に合致する患者で使用されており、骨転移があれば全ての人に使える薬剤ではないと鈴木さんは話す。

前立腺がんは骨に転移しやすいという特徴があるが、たとえ転移したとしても、日々治療は進歩しており、決して諦める必要はない時代になってきた。

「患者さんにはできるだけQOLを保って、予後を少しでも延ばしてもらいたいと考えています。ある海外の患者さんに対するアンケートでは、骨の痛みを回避できるなら、生命予後が3~6カ月縮まってもいいという回答すらあります。それだけつらい症状ですから、うまく薬を使いながらQOLを保ちつつ、日々の生活を送っていただければと思います」

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