いかに手術に持ち込めるかがカギ 大腸がんの肝転移治療戦略 肝切除においては肝臓の機能、容積の確保が重要
再発しやすい同時性両葉肝転移は 2回に分けて手術

さらに吉留さんは、再発しやすい大腸がんの同時性両葉肝転移に対しても、様々な検討を行い、手術に当たっている。
「中には、大腸がんが見つかった時点で、すでに左右両方の肝臓に転移が見られる同時性の多発転移の患者さんもおられます。この場合、以前は大腸がんの手術と同時に肝切除を行っていたのですが、すぐに再発してしまうのが問題でした。そこで私たちは、肝切除の時期を原発巣の切除時期から2カ月ほど経って手術をしたところ(待機的切除)、早期の肝再発が抑えられ、治療成績も良いことがわかりました」(図4)
これは、原発巣の手術前のCTと手術後のCTを比較してみると、3割位に肝臓への微小転移があることが分かっており、「例え原発巣と同時に肝臓の転移巣を切除したとしても、その後の肝再生とともに、微小転移巣が大きくなっていると考えられる。そうであるならば、待機期間を設けてから手術をしたほうが、顕在化した転移巣をきちんと切除することができ、早期の再発を抑えられるのではないか」(吉留さん)と考えられたためだ。
同時切除による合併症を避けるという意味ではなく、あくまで早期の肝臓への再発を抑えるためだと、吉留さんは説明する。
「一般的に、肝臓への転移数が単発もしくは2~3個で、大きさも2~3㎝であれば、原発巣と同時に肝切除を行ってもいいと思いますが、肝臓の両葉に多発している場合には、同時ではなく時期をずらして手術を行ったほうが、より肝臓の根治的切除ができると考えています」
大腸がんが肝転移しても決して諦めないで
このように、大腸がんの肝転移は、様々な方法を組み合わせることで、できるだけ肝切除に持ち込み、生命予後を延ばす取り組みがなされている。
吉留さんは、大腸がんの肝転移に対する治療のポリシーをこう話す。「まず、術後死亡率を限りなくゼロに近くするということを肝に命じています。これは1番大事なことだと思っています」
実際、吉留さんたちは、1993年以来、転移性肝がんの肝切除については、死亡率0%だという。
「そして、化学療法単独での治療よりも、生命予後を2年は上乗せできるようにするということを目指しています。昔ですと、化学療法を行ったとしても、生命予後はせいぜい半年か1年程度でした。しかし、昨今では分子標的薬などの登場により、30カ月くらいの予後が期待できるようになってきました。転移があっても薬物療法で長生きができると、患者さんやご家族には喜ばれています。ですから、手術をするのであれば、さらにそれを凌ぐ生命予後を提供できなければ、手術をする意味はなくなってしまうと思います」
例え大腸がんが肝臓に転移したとしても、決して諦める時代ではなくなってきた。
「大腸がんは、抗がん薬や分子標的薬が効きやすいがんであること。また、他のがん種と比べても、がんの性質自体もそれほどたちが悪いものではありません。ですので、例えⅣ(IV)期と言われても、決して諦める必要はありません」
吉留さんはそうアドバイスをくれた。
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