治療やケアを受けられる医療環境を事前に、自ら整えよう これだけは知っておきたい再発・転移の基礎知識

監修:岩瀬哲 東京大学医学部付属病院緩和ケア診療部副部長
取材:「がんサポート」編集部
発行:2010年2月
更新:2013年6月

がんは新しく血管をつくり、栄養を取り込んで増殖する

がんの種類やタイプによって、再発・転移がある程度予測できるくらいですから、最近では「どのがんがどこに転移をしやすいか」もある程度わかってきています。例外は多いのですが、たとえば乳がんならわきの下のリンパ節、肺、肝臓、骨などに転移をしやすいことが知られています。肺がんの場合は縦隔のリンパ節や肺内のほか、脳にも転移しやすいとされます。

一般に、最初に発生した部位のがんが転移しやすいとされる臓器を上表に掲載しましたが、血管が多く、体内の血流が集まる肺や肝臓に転移し、脳や骨に転移していくものが多いようです。

がんは血液やリンパ液の流れに乗って別の臓器にたどり着くと、そこで転移がん(続発腫瘍とも呼ばれます)として増殖・発達していきます。このとき、みずから生き延びるために、手近な血管と自分とをつなぐ毛細血管をつくり出します。この過程を血管新生といい、血管新生は原発がんにも見られる現象ですが、がんはこうして栄養を確保すると同時に、全身の血液循環に入り込んでいくのです。

最近では、血管新生を妨げればがんの成長を抑えられるとの考え方から、血管新生阻害剤と呼ばれるがん治療薬の開発もさかんに行われています。あとで解説しますが、代表的な血管新生阻害剤であるアバスチン(一般名ベバシヅマブ)は今日、手術できない進行再発大腸がんや進行再発肺がんの治療薬として、多剤併用の抗がん剤治療にも組み込まれつつあります。

[がんはどこへ転移するか?]

原発性腫瘍 一般的な転移部位*
乳房 腋窩リンパ節、対側の乳房、肺、肝臓、骨、脳、副腎、脾臓、卵巣
結腸 局所リンパ節、肝臓、肺
腎臓 肺、肝臓、骨
局所リンパ節、胸膜、横隔膜、肝臓、骨、脳、副腎
卵巣 腹膜、局所リンパ節、子宮、網(腸につく脂肪組織)、腸、肺、肝臓
前立腺 椎骨、骨盤、局所リンパ節
局所リンパ節、肝臓、肺
精巣 局所リンパ節、肺、肝臓
膀胱 局所リンパ節、骨、肺、腹膜、胸膜、肝臓、脳
子宮 局所リンパ節、肺、肝臓
この表には、原発部位から直接広がったがんに侵される可能性のある臓器は含まれていない
出典:『がん』(保健同人社)

「再発・転移がんは治らない」は必ずしも正しくない

今日では、再発・転移したがんでも、がんによってはたくさんの手を打てる可能性があります。

しかしながら再発・転移後に抗がん剤治療を行っても、効果がなくなると治療の適応がなくなってきます。「もう打つ手はありません」と主治医から言われ、患者さんは行き場を失って途方に暮れることがあります。

こうした患者さんは「がん難民」と呼ばれ、金持ち国ニッポンの不思議な現象として世界にも紹介されました。これは海外の先進国と日本の医療制度の違いから起こる現象で後ほどお話いただく東京大学医学部付属病院緩和ケア診療部副部長の岩瀬哲さんも、「患者さんは専門家と相談して自分の医療環境を整えることが必要です」と語ります。

それでも、最近は再発・転移がんに対しても、さまざまな薬を組み合わせた抗がん剤治療や、放射線治療を行うことが、標準治療になりつつあります。

たとえば、先にふれたアバスチンを加えた多剤併用療法です。大腸がんの進行再発ケースでは、5-FU(一般名フルオロウラシル)、エルプラット(一般名オキサリプラチン)の抗がん剤2剤に、薬の効果を増強する薬剤アイソボリン(一般名レボホリナートカルシウム)を加えた通称「FOLFOX療法」が進行再発大腸がんで抗がん剤治療をはじめて受ける患者さんに対する世界的な標準治療となっています。

さらに、これにアバスチンを加えた「FOLFOX4+アバスチン療法」、また、ゼローダ(一般名カペシタビン)とエルプラットの抗がん剤2種を併用する「XELOX療法」にアバスチンをプラスした「XELOX+アバスチン療法」は、いずれもアバスチンを加えない併用療法より、がんが進行せずに生存できた期間を延長することが確認されています。

また、日本で承認されていない抗がん剤を、保険診療の外で組み合わせ、延命効果を高めている患者さんも少なくありません。たとえば、TS-1などとともにすい臓がんに使われるジェムザール(一般名ゲムシタビン)を、アバスチン、オキサリプラチン、アルブミン結合パクリタキセル(商品名アブラキサン)などと組み合わせ、延命効果を得ている患者さんがいると考えられます。

さらに、最近は緩和ケアが重視されるようになり、薬剤や放射線治療によって痛みやつらい症状を十分に和らげることで、患者さんが与えられた時間をより楽に、有効に過ごせるようになりました。たとえば、脳転移した腫瘍に放射線をピンポイントで照射することで、一時的とはいえ、腫瘍がほとんど消えたということも、今ではよく見られるケースです。全身にがん細胞が広がった再発・転移がんでは、根治の可能性はあまり望めませんが、延命効果、それも、痛みやつらさを感じずに少しでも長生きすることが、今日では可能になっているのです。

PET検査画像a

a)PET検査画像。双方の胸壁に黒く示されているのが乳がん
PET検査画像b

b)化学療法後、縮小した乳がん




出典:Cases Journal 2009(写真)

写真a
a)前胸壁の皮膚に転移した乳がん病変
写真b
b)化学療法後、転移病変が縮小


PET-CT検査画像

PET-CT検査画像。前胸壁(a)と肝臓(b)の部分に検査薬のFDGが集積している。
化学療法後、前胸壁(c)と肝臓(d)の部分にFDGの集積はかなり減少していた


同じカテゴリーの最新記事