転移・再発とは、体の中で何が起こっているのかを知るために これだけは知っておこう!再発・転移の基礎知識と考え方
微小転移から再発へ
では、転移と再発はどう違うのでしょうか。ここからは、目に見える転移や再発の話です。吉田さんによると「結果的には、転移と再発は一致して“転移再発”になることが多い」といいます。簡単にいえば、転移して息をひそめていた微小ながんが、やがて再発という形で現れてくるのです。
転移には、がん細胞がリンパ管に入って転移する「リンパ行性転移」、血管に入って転移する「血行性転移」、さらに腹腔や胸の中にバラバラとがん細胞が散らばる「播種」という転移の仕方があります(下図参照)。

がんは、発生した組織から次第に染み出すように周囲の組織に広がっていきます。これが、がんの浸潤という現象です。浸潤によって、近くの血管やリンパ管にがんが入り込み、転移が起こるわけです。よくリンパ節転移といいますが、リンパ節はリンパ管の所々にある小さな駅(ステーション)で、全身に張りめぐらされた免疫基地の1つといってもいいでしょう。
がん細胞の一部はリンパ節で増大し、そこからまた次のリンパ節へと転移していきます。リンパ管は静脈と有機的につながっているので、リンパ行性の転移も血管に入る可能性があります。血管に入ったがん細胞は、すみやかに全身を流れ、遠隔臓器にも転移を起こします。

一方、再発は文字通り「再び起こること」です。「最初の手術や術後補助療法で少なくとも目に見えるがんはなくなり、寛解状態に入っています。それが、数カ月から数年を経て、再び活動的になったのが再発です」と吉田さん。
手術や術後補助療法を行ったにもかかわらず、体のどこかに残っていた目に見えない小さながんの転移、つまり微小転移が再び息を吹き返して増大し、目に見える形になって現れたのが、再発なのです。
がんは、一般的に治療後2~3年以内に再発する率が高く、5年を経過すると再発率は非常に低下します。5年生存率が完治の指標になるのもそのためです。ただし、乳がんや腎臓がんのようにゆっくり成長するがんは、10年を経て再発することもありますので、この期間は定期的に検査を受ける���とが大切です。
転移しやすいがんと部位
また、がんの種類によって、転移しやすいがん、再発しやすいがんもあります。吉田さんによると「がんと一口にいっても、細胞の増殖によって起こる100種類以上の病気の総称」とのこと。ですから、転移・再発のしやすさや治療に対する反応もがんの種類によってそれぞれに違うのです。
一般的には、乳がんやメラノーマ(悪性黒色腫)などは早くから転移しやすく、卵巣がんやスキルス胃がんは周囲に浸潤しやすいがんです。転移、浸潤しやすいがんは、また再発しやすいがんでもあります。
肝臓がんも再発しすいがんですが、これは日本人の場合、C型などの肝炎ウイルスによる肝硬変や慢性肝炎という発がん母地に多源性に起こることが多いためで、がんの転移や浸潤速度とは意味が異なります。
一方、がんによって肝臓や肺、脳、骨など、転移しやすい臓器があるのはどうしてなのでしょうか。吉田さんによると、「機械説とシード&ソイル(種と土壌の理論)」という考え方があるそうです。機械説というのは、たとえば肝臓や肺は血管が多く、細い血管が網の目のように張りめぐらされており、解剖学的には「行き止まり」状態となっています。そのため、大腸や胃にできたがん細胞が血管に入ると、機械的に肝臓の毛細血管で行き止まり、結果としてそこで大きくなるという説です。
これに対して、乳がんは肺や骨、肝臓、脳などに転移しやすく、腎臓がんは肺と骨、前立腺がんは骨、というようにがんによって好んで転移する臓器があることが知られています。これは、必ずしも解剖学では説明がつきません。そこで、がんという「種」と環境など「土壌」の条件があったときに、転移が成立するのではないかといわれています。
なお、こうして別の部位や臓器に転移したがんも、元のがんの性質を持っています。そこで、肝臓に転移した大腸がんは「転移性大腸がん」とか「大腸がんの肝転移」と呼ばれます。
他の組織や臓器に転移・浸潤しやすいがん | |
---|---|
がんの種類 | 転移・浸潤先の部位 |
乳がん | 肺、肝臓、脳、骨 |
骨肉腫 | 肺、肝臓、脳、骨 |
卵巣がん | 子宮、大網、大腸、腹膜 |
膵臓がん | 十二指腸、胆管、肝臓、血管、神経、腹膜 |
メラノーマ | リンパ節 |
スキルス胃がん | 腹膜 |
再発しやすいがん | |
肝臓がん、膵臓がん、食道がん、膀胱がん(がんの組織のみを切除したとき)、直腸がん(手術で肛門の機能を残したとき) |
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