再発・胃がん/大腸がんの治療 最初に正しい治療を受けることが再発予防になる

監修・文●山口俊晴 がん研有明病院消化器センター長・消化器外科部長
構成●柄川昭彦
発行:2008年1月
更新:2020年3月

再発を予防するには最初にきちんとした治療を受ける

[図2 胃がんの手術成績(5年生存率)]
図2 胃がんの手術成績(5年生存率)
[図3 進行胃がん手術成績の国際比較]
図3 進行胃がん手術成績の国際比較
[図4 大腸がん手術成績の日米比較(5年生存率)]
図4 大腸がん手術成績の日米比較(5年生存率)

NCDB:National Cancer Database

できることならがんの再発は防ぎたいものです。そのための最良の方法は、最初にきちんとした治療を受けることに尽きます。手術であれば、がんを取り残さないことや、がんが転移しているかもしれないリンパ節をきちんと取り除くことが大切です。その上で、抗がん剤治療が必要ならばきちんと行い、放射線治療を加える必要がある場合には、これを加えるようにします。

きちんとした治療を受けたら、もうほとんど再発を心配しなくてもいい人もいます。図2は、胃がん手術後の5年生存率を、進行度別に示したものです。1期は早期がん、2期と3期と4期は進行がんと考えていいでしょう。グラフを見ると明らかなように、早期の胃がんであれば、手術を受ければほとんど再発しません。ゼロではありませんが、まず再発することはないのです。早期胃がんの手術後、再発を心配しすぎるのは無駄だといえます。胃がんの場合、再発を心配すべきなのは、2期以降の人たちです。

予防するためには、きちんとした治療を受けることが大切ですが、日本でレベルの高い治療が受けられるのだろうか、と心配する人がいます。

図3は、進行胃がんの手術成績を、日本、オランダ、イギリスで比較したものです。これによると、5年生存率は日本で70パーセントですが、オランダでは47パーセント、イギリスでは33パーセントとなっています。アメリカもイギリスと同じ程度でしょう。

手術死亡率は、手術したときに死亡する人の割合です。日本では100人に1人以下ですが、オランダやイギリスでは10~13パーセントもの患者が死亡しています。信じられないような話ですが、これらは信頼できる医学雑誌に報告されたデータです。

大腸がんの治療でも、同じようなデータが出ています。図4は、大腸がんの手術成績を日本とアメリカで比べたものです。これを見ると、どのステージでも、生存率は日本のほうが高くなっています。

日本のがん治療は、欧米よりも劣っていると思っている人が多いのですが、それは誤解でしかありません。少なくとも胃がんや大腸がんに関しては、日本のほうがレベルの高い治療が行われているのです。

日本と欧米では考え方が異なっている

日本と欧米で治療成績に大きな差が現れるのは、治療に対する考え方が異なっているためです。どのような違いがあるのかを、表1にまとめました。

日本の医療では、がんが治る可能性があれば、手術で徹底的に切除しようとします。これに対し、欧米では、徹底的に取るような手術にはこだわりません。取り残してしまったら、抗がん剤や放射線で治療すればいい、という考えで治療が進められるのです。

また、日本では、早期がんを早く発見して治療しています。早期に治療すれば、高い確率で完治させることが可能だからです。しかし、欧米では、早期がんは転移していなのだからがんではない、と考えます。そして、転移が起きてから、がんの治療が始まるのです。これでは、治療成績が日本に及ばないのは当然でしょう。

もう1つは保険制度の違いです。日本は国民皆保険制度によって、誰もが同じレベルの治療を受けることができます。生活保護を受けている人だから、手術の質を落とそうということは絶対にありません。

ところが、たとえばアメリカでは、さまざまなレベルの治療があり、治療費が大きく異なっています。高いレベルの治療を受けられるのは、お金を持っている人たちだけなのです。

アメリカで承認されている抗がん剤が、日本では承認されていないことがよく問題になりますが、これには保険制度の違いが大きく影響しています。アメリカで承認されているといっても、その薬を使えるのはごく一部のお金持ちだけ。その点、日本では薬を承認すれば、健康保険で誰もが使えるようになります。このような事情の違いがあることを、よく理解してほしいものです。

[表1 日本と外国の考え方の違い]

日本 欧米
がんは治る可能性があれば徹底的に取りきる がんは残しても、放射線や化学療法で補う
早期がんを早く発見して治す 早期がんはがんとはいえない
全ての国民が高度の医療を受けられる 高度の医療は一部の者しか受けられない

抗がん剤による再発予防が効果を上げてきた

[図5 胃がん手術後生存率(無再発)]
図5 胃がん手術後生存率(無再発)

再発予防で最も大切なのは最初にきちんとした治療を受けることですが、それに抗がん剤治療や放射線治療を加えることも、再発を防ぐのに効果があります。

たとえば、胃がんの手術後に、経口抗がん剤を服用した場合と、服用しなかった場合で、生存率がどのように異なるかを比べた研究があります。その結果をグラフにまとめたのが図5です。

3年生存率で比較すると、手術だけの場合が60.1パーセントなのに対し、TS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)という抗がん剤を加えた場合には、72.2パーセントになっています。抗がん剤を加えることで、約10パーセントの人の再発が抑えられたわけです。逆に考えれば、手術だけでは40パーセントが再発していたのに、抗がん剤を加えることで約30パーセントに減らせる、ということでもあります。

このほかに、直腸がんに対して、手術前に放射線治療を加えることで、局所の再発を防ごうという治療が行われています。こうした治療をきちんと受けることも、再発予防に効果的です。

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