「がんサポート」創刊4周年記念シンポジウム パネルディスカッション「再発・転移を生きる」詳細報告

総合司会:渡辺 亨 浜松オンコロジーセンター長
パネリスト:
山口俊晴 癌研有明病院消化器センター長・消化器外科部長・院長補佐
山本信之 静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科部長
鈴木厚子 肺がん患者、元看護師
発行:2008年1月
更新:2019年7月

再発転移時になすべきこと

再発転移でもあきらめず

質問
再発転移を告げられた患者が、まずしなければならないことは?(女性、45歳)

写真:山本信之さんと質問に答える鈴木厚子さん
山本信之さんと質問に答える鈴木厚子さん

渡辺 私たちが再発転移の患者さんにまず伝えたいことは、「あせらず、あわてず、あきらめず」ということです。私が国立がん研究センターでトレーニングを受けていたころ、恩師である阿部薫先生が、「さまざまな治療法がある中で、医師はあきらめてはならないし、患者さんにもあきらめさせてはならない」とおっしゃいました。私はどんな状況でも、このことは真実に近いのではないかと思います。

鈴木 私は2006年に再発を告知されたときは、ちょっとあせったけれど、主治医には「すぐに抗がん剤を使いたくない。1カ月間の猶予が欲しい」と要請しました。その間に自分でどんな治療法があるかを調べたり、先生の意見を聞いたりしながら、どう闘病していくかを考えました。さらに旅行に出かけるなど、1カ月間は好きなことをして過ごしたのです。

医療者とのコミュニケーションが大切

質問
再発を告知されて大きなショックを受けています。この心の痛みを和らげることのできる方法と病院を教えてください。(女性、48歳)

山口 再発は患者さんもつらいけれど、担当医もほんとうにつらいことです。1人ひとりの患者さんについて「どのように告げようか」ということを考えなければなりません。ズバリ言ったほうがいい人とか、覚悟している人とか、場合によっては卒倒しそうな人もいます。その人によって、1人だけのときにはお話をしないとか、順番を追ってていねいに話すとか工夫が必要です。

渡辺 悪いニュースをどうやって伝えるかは、我々も気が重いことです。その中で患者さんがどこまで知りたいと思っているかに応じて話し方の技術があると思います。それからやはり重要なのは、「次にどうするか」というステップです。こういう治療もあるし、ああいうやり方もあるということを提示しながら、あわてず、あせらず作戦を考えましょう、という提案をしていきます。病院はどこがいいかということより、ドクターとのいいコミュニケーションがとれるかどうかということで考えたほうがいいでしょう。

山本 いちばん大事なのは医師と患者さんとの関係です。それまでごまかさずに患者さんにきちんとお話していれば、悪い話もあまり驚かずに聞いてもらえるものです。
また治療の選択肢を提示しても、患者さんはショックが大きいので、なかなか話が頭に入っていません。すぐに選択してもらうことは無理であり、「では来週また話をしましょう」と、しばらく時間を置くということが重要です。

鈴木 私はがんを知らされたときショックを受けましたが、その後私がしたことはおいしいものを食べにいったり、演劇を見に行くなど、好きなことをすることでした。もう1つは病気になる前にしていた生活に戻るということを心がけました。

初期治療と再発治療は目的が違う

質問
最初にがんが発見されたときの治療法と再発してからの治療法は違うのでしょうか。違うとしたらなぜ異なるのでしょうか。(男性、57歳)

[がんの薬物療法]

初期治療(術前、術後療法)
・Curative Chemotherapy→「治癒率向上」
・検証された投与量を厳密に守る必要がある

再発後治療
・Palliate symptoms,Prevent symptoms Prolong survival
・症状コントロールと副作用マネージメント
・QOLを保つためには投与量を減量することも許容


渡辺 最初に発見されたときの治療法は、肺がんなら「肺がん」と診断がついた時点に行う治療で初期治療といいます。初期治療の目的は「再発しないように完全治癒を目指す」ということで、検証された投与量を厳密に守ることが必要です。手術が適している場合もあれば、放射線照射や抗がん剤による治療が向いている場合もあるし、これらを適切に組み合わせたほうがいい場合もあります。
初期治療の段階で抗がん剤治療を勧められると、「手術はいいけれど、抗がん剤治療だけは絶対いや」と拒絶する人がしばしばいます。抗がん剤を使うと治療成績がよくなるケースはわかっているのですから、必要な治療はぜひ受けるべきです。
それでもがんは再発することがあります。たとえば膵臓がんなら初期治療の手術をしても、1年後の再発率は9割くらいです。一方、卵巣がんだったら治癒する可能性は25パーセントくらい、乳がんでも3~4割、胃がんのステージ1なら98パーセントくらいになります。疾患(がんの種類)、がんの性格、進行度によって治癒の割合は大きく異なるのです。
再発した場合、とくに遠隔転移した場合も、治癒は絶対無理ということではありません。「余命1カ月」と告知された方が1年、2年と延命される例も珍しくなくなってきました。
それでも多くの方が死という経過をとります。ですから、再発時の治療は治癒を目指したものではなく、ともかく症状を緩和し、毎日を充実して過ごしてもらうためにQOLを向上させるということです。

[がん診療の概観]
図:がん診療の概観

治療を考える上で大事なのは原発がどこか

質問
再発と転移は症状も治療法も違うような気がしますが、なぜ再発と転移は一緒に語られることが多いのでしょうか?(女性、50歳)

[再発と転移]

再発とは
時間的に後になって同じ病気がぶり返すこと
 ●他の臓器に再発する場合=遠隔再発
 ●同じ臓器に再発する場合=局所再発

転移とは
他の臓器に病気がぶり返すこと
 ●血行性転移
 ●リンパ行性転移


渡辺 言葉の定義からいえば、再発とは「時間的にあとになって、同じ病気がぶり返すもの」です。同じ臓器に再発するものを「局所再発」、他の臓器に再発するものを「遠隔再発」といいます。そして、転移には、病気が血行に乗って他の臓器にぶり返す「血行性転移」、リンパの流れに乗って転移する「リンパ行性転移」があります。ですから再発と転移は、同じような意味になることがあります。
たとえば胃がんが手術の半年後に肝臓にぶり返してきたとき、これを肝臓がんとは呼ばずに「胃がんの肝臓転移」と呼びます。乳がんが肺に転移しても肺がんではなく「乳がんの肺転移」です。
なぜこのように区別するかというと、がんは原発がどこかによって治療方法が全然違うからです。乳がんの転移がどの部位に出ようと、原発が乳がんなので乳がんの治療を考えるわけです。


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