「がんサポート」創刊4周年記念シンポジウム パネルディスカッション「再発・転移を生きる」詳細報告
たちの悪いがん、たちの良いがん
質問
再発転移までに時間がかかった例では、その後の過程も時間がかかると考えることができるのでしょうか? 急に大きくなったり、命の長さに関係することがありますか?(女性、45歳)
渡辺 がんにも性格があって、たちの悪いがんやたちの良いがんがあります。たとえば乳がんのがん組織を顕微鏡で見ると、明らかです。
たちが良いがんの組織は、ちくわの輪切りのように管がはっきり見えます。乳房はお乳を作る臓器なので、乳腺の管がたくさん走っているのです。たちの良いがんではこの管の形がはっきり残っていて、管の周りにある細胞も1個1個が似たような大きさをして粒ぞろいになっています。
一方、たちが悪いがんは管の構造もよく見えません。まわりの細胞は大きくて濃く見えるもの、小さくて薄いものとバラバラです。肺がんでも胃がんでも大腸がんでも同じようなことがあって「分化度が高い・低い」とか「悪性度が高い・低い」とかいろいろな表現を使います。
たちの悪いがんと良いがんは、「ウサギとカメ」のようなものです。ウサギ型のがんはいっきに再発、いっきに悪化するし、カメ型のがんは再発までに時間がかかり再発してからもゆっくり進行することが多いのです。
また、がんの性格は餌にする物質で決まってくることがあります。たとえば乳がんの中でホルモンを食べて成長する種類があり、「ホルモン依存性」と呼びます。こうしたタイプの乳がんの治療は、ホルモンを取り除くことによって兵糧攻めにするわけです。
このようにがんの性格、悪性度は、だいたい最初にできたときの条件で決まっています。それによって治療対策なども異なってくるわけです。

山口 一般に乳がんなどは7年も8年もかかって再発しますが、膵臓がんなどは半年くらいで再発するのが普通です。がんの種類によっても、性質がぜんぜん違います。
複合がんも前向き姿勢を大切に
質問
2006年5月、胆嚢がん、同年9月、肺がんと2度の手術をしました。3カ月ごとの検査外来の度に再発転移が発見されないかといつもビクビクです。再発を防ぐいい治療はないでしょうか。(男性、75歳)

山口 胆嚢がんは一般にあまり予後のよくないがんで、術後すぐに再発することも珍しくありません。しかし、患者さんは1年を過ぎているのですから、かなり希望が持てるのではないでしょうか。
山本 肺がんの術後抗がん剤治療は、手術の2~3カ月以内にやると効果が出やすいことがわかっています。逆に患者さんのお年を考えれば、現時点では抗がん剤治療はしないほうがよいでしょう。通院しながら定期的検査を受けることをお勧めします。
鈴木 実は私も毎日ビクビクしているのです。同じ肺がんの人たちが集まったメーリングリストで患者同士のコミュニケーションをとっていますが、患者同士の情報交換は少し安心できる機会になっています。
「手術不能」といわれたらセカンドオピニオンを
質問
大腸がんで肝臓に転移し、「手術は不可能」といわれたのですが、何かほかによい方法はないものでしょうか?(男性)
山口 このケースはセカンドオピニオンを聞いたほうがよいかもしれません。化学療法が有効である可能性はあるし、あとは必ずしも有効性を証明されたものではありませんが、動注化学療法という方法が有用かもしれません。
施設間格差もあって、ある施設では簡単に手術できるものでも、ある施設では「だめ」といわれる可能性もあります。ちょっとほかの施設を受診してみたほうがよいでしょう。
適度な有酸素運動は効果的
質問
乳がんで骨に遠隔転移してホルモン療法を2年続けています。痛みも消えていて通常の生活をしていますが、食事や有酸素運動などの効果はどの程度あるのでしょうか?(女性、50歳)
渡辺 よく乳がんの患者さんで「お肉はだめ」、「乳製品はよくない」、「大豆はいけない」という人がいますが、すべて間違いです。食べ物の品目は何でもかまいません。ただ分量はコントロールして太り過ぎに気をつけてください。適度な有酸素運動は効果的です。欧米のガイドラインには必ず「適度な運動をしましょう」ということが推奨項目の筆頭に挙げられています。誰でも安上がりにできるという点で、エビデンス(科学的根拠)といったこと以前に文句なくすばらしい効果を上げられるものです。
山口 胃の手術を受けた患者さんの中には「先生、何か食べていけないものは?」と聞くので「何もないよ」というとがっかりする人がいます。こうした人は「何か指導してほしい」と願っているわけです。しかし、気をつけるべきなのはいっぺんにたくさん食べないということくらいで、原則は人間の食べられるものなら何を食べてもよいのです。がんになったからといって人生の楽しみを失う必要は何もありません。
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