「がんサポート」創刊4周年記念シンポジウム パネルディスカッション「再発・転移を生きる」詳細報告

総合司会:渡辺 亨 浜松オンコロジーセンター長
パネリスト:
山口俊晴 癌研有明病院消化器センター長・消化器外科部長・院長補佐
山本信之 静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科部長
鈴木厚子 肺がん患者、元看護師
発行:2008年1月
更新:2019年7月

薬物治療の選択

医師への質問は絞って箇条書きにして

質問
骨転移で現在ゾメタ(一般名ゾレドロン酸水和物)とロキソニン(一般名ロキソプロフェンナトリウム)、ホルモン剤のアロマシン(一般名エキセメスタン)の治療をしていますが、少しずつ骨転移が広がっています。今後抗がん剤治療を続けるとしたら、症状の緩和を目的にすればよいでしょうか?(女性、55歳)

渡辺 個別的な治療の中でも、工夫や選択肢はいっぱいあると思います。ホルモン療法が効くタイプの乳がんでも、ホルモン剤には4タイプあってどう選択していくかが問題です。
ゾメタは骨には有効なので続けることが大切でしょう。担当の先生にもう1度よく相談してください。
ただそうした場合でも、聞き方が問題です。医師は多忙であり、後ろにたくさんの患者さんが待っています。聞きたいポイントを3つくらいに絞って箇条書きにして持っていくとよいでしょう。自分では10も20も疑問があるように感じていても、だいたい3つくらいに集約できるものです。

進行乳がん用の分子標的薬が登場

質問
乳がん患者の術前化学療法でEC→タキソテール(一般名ドセタキセル)で治療しましたが、術後1年で肺転移し、ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)+タキソール(一般名パクリタキセル)で治療。いったんがんは消えたものの、1年後に肝転移しました。次に使える薬はどのようなものがありますか?(女性、43歳)

渡辺 使える薬はいろいろ考えられます。たとえばハーセプチン+ナベルビン(一般名ビノレルビン)、ハーセプチン+ゼローダ(一般名カペシタビン)など。08年以降になれば分子標的薬のラパチニブという薬が使えるようになります。
この薬はハーセプチンの飲み薬版みたいもので、商品名はアメリカで「タイケルブ」、日本では「タイケルブ」です。ほかにも使える薬はいろいろ出てきます。

骨転移にはビスフォスフォネートを

質問
大腸がんから骨に転移して抗がん剤が効かなくなってきました。これからどんな治療があるでしょうか?(女性)

渡辺 血管新生阻害剤のアバスチン(一般名ベバシズマブ)やアバスチン+5-FUなどの選択もありますが、すでに検討されたのでしょうか?
また骨転移に対しては、原発巣がどこであろうとビスフォスフォネートのゾメタの有効性は確立されているし、放射線照射による治療法もあり���す。担当の先生に、「ゾメタというお薬について聞いたのですが、どうでしょうか」、「放射線という選択はありませんか?」というふうに聞いたらどうでしょうか?

タキサン系とプラチナ系がキードラッグ

質問
卵巣がん手術の後、パラプラチン(一般名カルボプラチン)+タキソールの治療を6回受けましたが、最近また腫瘍マーカーが上がってきました。どんな治療がいいでしょうか。できるだけ副作用の少ない治療を希望しています。(女性、64歳)

渡辺 一般論として卵巣がんの場合、タキソールやタキソテールなどのタキサン系とシスプラチンやパラプラチンなどのプラチナ系というのはキードラッグです。ですから、どうにかこの2つの系統の抗がん剤を使い続けたいということになります。前回の治療が効いているようで、それから6カ月あるいは1年経過して再発してきたならば、もう1回この組み合わせを使いたいところです。
また、これらの治療に反応せず、セカンドラインやサードラインとなったらジェムザール(一般名塩酸ゲムシタビン)という選択が考えられます。この抗がん剤はいまは肺がん、膵臓がん、胆道がんにしか保険承認がされていませんが、卵巣がんにもかなりよく効く薬です。脱毛が少なく、吐き気も少ないので、有望だと思います。

治療の合併症と副作用対策

アロマターゼ阻害剤は骨折対策を

質問
乳がんのアロマターゼ阻害剤の治療を受けていますが、骨粗鬆症の心配が出ています。圧迫骨折になったときの治療法を教えてください。(女性、48歳)

渡辺 乳がんの多くは女性ホルモンを餌にして成長するがんです。アロマターゼ阻害剤は女性ホルモンの融合を防いで血液中の濃度を下げることによって乳がんの餌を取り除くことでがんを兵糧攻めにする役割を持ちます。
ところが女性ホルモンは骨の健康を維持するのに役立っているので、アロマターゼ阻害剤を飲むと骨粗鬆症になりやすいのです。乳がんのホルモン剤治療による骨粗鬆症に対しては、ASCO(米国臨床腫瘍学会)の治療ガイドラインができていて、骨密度の状態を測ってそれに応じた治療を行うよう指針が出ています。そう心配しなくても適切な治療が受けられるでしょう。

*骨転移に対する治療(ASCO)

薬剤の種類に対応した副作用対策を

質問
10年前に卵巣がんの手術をして抗がん剤治療を受けたのですが、その後リンパ節と大腸がんに転移し、これも手術しました。昨年肝臓にも転移、手術ができないといわれ、抗がん剤の治療を受けていますが、副作用がひどくて悩んでいます。何か副作用を抑える方法は?(女性)

渡辺 切実な問題でしょうが、どんな薬剤の投与を受けてどんな副作用が出ているかがわからないとお答えのしようがありません。卵巣がんで長く使い続けるとしたら、たとえばタキソールなどの薬剤が考えられますが、その場合は手がしびれるといった副作用が考えられます。「がんサポート」誌上には読者からの質問にお答えするコーナーもありますので、もっと具体的な内容の質問をお寄せください。

副作用コントロールにステロイド剤がポイント

質問
抗がん剤治療で体力の回復ができず、だるさのため寝たり起きたりの生活で、食事つくりなどに苦労をしています。元気が出る食べ物などあったら教えてください。(女性、62歳)

写真:パネルディスカッションの風景
ちょっぴりユーモアを入れた流暢な司会で

山本 一般論でしか話せませんが、肺がんの場合は通常寝たり起きたりしなければならない状況では抗がん剤治療はしません。現在抗がん剤を使用しているところなら抗がん剤を少し休んでみるべきでしょう。また、抗がん剤治療が終わったあともずっとそうした状態が続くならステロイド剤を使うことで食欲を出すという対応も考えられます。ただし、ステロイドは気付け剤のようなものですから、使いすぎると害が出る可能性もあります。期間とか量を調節することが必要です。

渡辺 たとえばタキソテールという抗がん剤などは、使用中にどうしても全身倦怠感などが出てきます。薬の種類や時期によって違いますが、ステロイド剤などは抗がん剤の副作用をコントロールする上でかなりポイントになる治療です。
ただ、倦怠感や疲労感などはたんにビタミンが足りないだけという可能性もあります。ですから、市販のビタミン剤などを飲んでみるということもいいかもしれません。それで改善すれば、抗がん剤の副作用ではなく、じつはビタミンBの不足だったということになるわけです。ですから、抗がん剤の副作用ということばかりに目をやらずに、もうちょっと総合的に考えてみるのが良いと思います。


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