「がんサポート」創刊4周年記念シンポジウム パネルディスカッション「再発・転移を生きる」詳細報告
口内炎が続くなら抗がん剤の休薬も
質問
1年中抗がん剤のために口内炎に苦しんでいます。痛くてなかなか物も食べられません。いい治し方はないでしょうか?(女性、56歳)
渡辺 口内炎は抗がん剤治療の3割くらいに現れるといわれますが、いちばん多いのは大腸がん治療などによく用いる5-FU系の薬です。ただ1年中抗がん剤を続けるということはあまりないことなので、そんなに口内炎が続くなら抗がん剤を休薬してみてもよいでしょう。
また、ビタミンAが足りなくて口内炎になっている場合もないとはいえません。それから痛風治療に飲み薬として用いるザイロリックという薬を、粉にしてとろみをつけた液体と口に含んで用いるとよくなる場合もあります。
なかなか難しいFOLFOXの副作用対策
質問
大腸がんが再発しFOLFOX(オキサリプラチン、ロイコボリン、5-FU)の治療を受けているのですが、副作用に苦しんでいます。治療後1週間はだるくてたまりません。何とかこの苦しみを軽くする方法はないでしょうか?(男性、61歳)
渡辺 FOLFOXの場合、全身の倦怠感とか、冷たいものに触れると知覚神経障害が誘発されるなどの副作用が知られています。2週間ごとの点滴を8クールくらい行うことが多いのですが、最初の1週間くらいはどうしてもだるさが伴いがちですが、後半の1週間はそれが抜けるのが普通です。そこで前半1週間はなんとか副作用を我慢し、後半1週間でばりばり食べて元気を取り戻すというふうに治療の周期をうまく使っていく方法もあるかと思います
山本 FOLFOXは大腸がんの抗がん剤治療としては、世界でいちばんいい方法として確立されているわけで、その上で何かを工夫することは限度があります。なるべくこれを続けるようにして、その上でどうしてもだめなら、たとえばFOLFIRI(カンプトまたはトポテシン、ロイコボリン、5-FU)という方法なども検討できると思います。
貧血は原因を探ってそれに応じた対策を
質問
貧血に対する対策は何かありませんでしょうか?(女性、59歳)

スライドを説明する渡辺亨さんに山口俊晴さん
渡辺 血液が薄くてヘモグロビンなどの血液中の成分が少ないことを貧血というのです。なぜこうしたことが起こるかという���原因は様々です。
たとえば出血がある場合もあるし、血液の材料が不足している場合や、骨髄という血液を作る工場の稼動状態が悪い場合もあります。出血があればそれを止める治療、材料が足りない場合は鉄やビタミンなど足りない物質を探してそれを追加する治療を行います。一般の人は立ちくらみのことを「貧血」というふうに間違えている場合もあるので、注意してください。
山口 胃の手術をすると鉄分やビタミンB12の吸収が悪くなり、どうしても貧血になりがちです。血液の中の成分を測定して注射したり飲み薬などでどういう成分が不足しているかという貧血のパターンをみながら治療の対策を立てます。
山本 鉄分やビタミンの不足など、原因がわからない貧血の根本対策は輸血しかありません。抗がん剤治療の貧血は、ある程度まで我慢をして限界に達したら輸血をするというのが現状です。また透析の患者さんに使っているエリスロポエチンという赤血球の産生を促進するホルモンが、がんの患者さんの貧血を改善するのではないかということで臨床試験が進められています。
造影剤アレルギーに対する代替策
質問
造影剤などに対するアレルギーがあってCT検査が受けられない場合、他にどんな方法がありますか?。(男性、49歳)
渡辺 1~2パーセントの患者さんにヨード系造影剤に対するアレルギーがありますが、軽症ならかゆみが出る程度です。ただ、0.1パーセントくらいの患者さんにはアナフィラキシーショックといって、血圧が下がったり息が苦しくなるなど重篤な症状が起こることがあります。アレルギーがある場合はMRI、骨シンチ、PETなどの検査法で代用できるので、ご安心ください。
山口 ヨード系造影剤は昔より格段によくなっているので、一般にアレルギー症状の程度は小さくなっています。一方、造影剤がなくても受けられる検査がありますので、苦しい思いをしてまでCT検査を受ける必要はありません。
痛みに対応できない医師は交代すべき
質問
直腸がんで痛みのためずっと苦しんでいますが、主治医から「痛くなるわけがない」と言われています。緩和ケアという治療があるそうですが、どんな治療でどこへ行けば受けられますか。(男性、64歳)
渡辺 痛みというのは本人にしかわからないものですから、医師が「痛くなるわけがない」と言ったりするのはあってはならないことです。症状を和らげるというのはがん治療の基本であり、抗がん剤治療をしているときでも患者さんが「痛い」と訴えれば医療用麻薬のモルヒネなどを処方します。一般に緩和ケア=終末期医療というふうに考えられがちですが、実際は緩和ケアは終末期の治療とは限られていません。がん治療全体が緩和ケアといえます。
山口 「痛い」という訴えに対応できない担当医は、いくら付き合ってもだめです。緩和ケアは緩和ケア病棟だけで行われるわけではなく、一般の内科医でも腫瘍内科医でも取り組むべきということになっています。早くそういう意識を持っている医師に交代したほうがよいでしょう。
不安や苦しみを和らげるコーピング
質問
大腸がんが転移してラジオ波で治療し消えたのですが、心の不安はいつまでも消えません。家に1人でいるとか夜中になるととくに不安になって眠れないのですが。(女性、44歳)
鈴木 私も同じです。検査の結果を聞く前などは夜中に目が覚めたりします。家に1人でいて寂しいとか、不安に押しつぶされそうなとき、外へ買い物に出かけたり公園を散歩したりしました。検査の結果がもしよければ、「執行猶予が3カ月できた」というふうに解釈し、その間は元気に過ごすことができます。
渡辺 この患者さんに対しては「ラジオ波の治療でがんが消えたのだからいいではないか」という言い方もできます。ものごとを何でも悲観的に見る人がいますが、自分の中で将来の不安などのストレスに出会ったとき、意識的に働きかけて心の苦しさを和らげる方法が知られるようになりました。
このような方法をコーピングといいます。がん専門病院などでは、患者さんのコーピングに取り組むサイコオンコロジスト(精神腫瘍医)という専門医を配置するようになってきました。サイコオンコロジストは患者さんの心の悩みについて、「あなたはこんなことにこだわっているのでは?」というふうに提示し、「自分ではわからなかったけれどそうだ」と気づいてもらうことによって苦しみを和らげるといった仕事をします。
不安の強い患者さんは、こうした専門医に話を聞いてみるのもいいでしょう。
山本 私は積極的にサイコオンコロジストに関わってもらうようにしています。我々が気づかないことで解決策を見つけてくれたり、薬の量を減らしたりできることが少なくありません。
山口 患者さんの不安は主治医の「がんは消えたから、治りましたよ」という1言でかなり片付くはずですが、医師の中にも悲観的なものの見方をする人がいるので、必ずしもそうはいかない場合もあります。1つの方法としては同じような病気、病状の人と話し合うとか、『がんサポート』のような雑誌を読むとかで不安を和らげられるのではないでしょうか。
(「がんサポート」創刊4周年記念シンポジウム第2部・パネルディスカッション「再発転移を生きる」より)
(構成/林義人)
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