患者に優しいラジオ波焼灼術が治療の主流 変わりつつある転移性肝がんの最新治療

監修:椎名秀一朗 東京大学医学部付属病院消化器内科講師
取材・文:常蔭純一
発行:2007年11月
更新:2019年7月

ラジオ波の適応

「ラジオ波焼灼術は日本では主に原発性の肝がんに用いられてきました。当科では延べ3600例にラジオ波焼灼術を行ってきましたが、その95パーセントは原発性の肝がんで、転移性の肝がんは延べ180例にすぎません。しかし、欧米では原発性の肝がんが少ないため、転移性の肝がんに多く用いられてきました。今後は日本でも転移性の肝がんの割合が増えていくと考えられます」(椎名さん)

ラジオ波で根治を目指せる転移性肝がんは一般的に次のような症例だ。

1 がんが肝臓だけに存在する

2 病変が3センチ以内で3個まであるいは5センチ以内で単発

しかし、この条件を満たさない場合でも、

a 大部分のがんが肝臓に存在する

b 全身化学療法を今まで受けていない、あるいは全身化学療法がある程度効いている

これらの症例では、ラジオ波焼灼術で効率的にがんの量を減らし、その後に全身化学療法を行うことにより、予後の改善が期待できると考えられる。

[ラジオ波焼灼術の適応]

  • 肝がんが切除不能または切除を希望しない
  • 血小板数5万以上、PT50%以上
  • コントロール不能の腹水なし
  • 3cm以内3個以下または5cm以内単発
PT:プロトロンビン時間

では、これらの治療内容は具体的にはどのようなものだろう。転移性肝がんの多くを占める大腸がん、胃がん、乳がんのケースを見てみよう。

予後改善が期待できる大腸がんの肝転移

[大腸がん肝転移60例全例の生存率]
図:大腸がん肝転移60例全例の生存率

一般的に大腸がんは、他のがんに比べると悪性度の低いケースが多い。そのためがんが肝臓に転移している場合でも、外科手術の対象になることが少なくない。

患者の全身状態がよく他の部位への転移がなければ、大きさにかかわらずがんの個数が4個までなら手術が適応されることが多く、大腸がん肝転移の患者さんでは20~30パーセントが手術を受けているそうだ。

大腸がん肝転移の手術後の5年生存率は25~50パーセントと報告されているが、ステージ4という進行度からすると良好な成績と考えられる。

しかし、原発がんの手術から日が浅かったり高齢であったりで体力が十分でない場合には、次の選択肢としてラジオ波焼灼術がクローズアップされることになる。

ちなみに東京大学消化器内科の大腸がん肝転移患者さんのラジオ波後の5年生存率は45パーセントである。

「従来、転移性肝腫瘍治療の第1選択は肝切除とされてきました。その根拠は外科的切除以外の治療では、長期生存が得られないためといわれていたのです。
しかし、大腸がんの肝転移に対する私たちのラジオ波のデータを解析したところ、多くの症例が手術不能であるにもかかわらず、5年生存率は45パーセントと、肝切除と同等あるいはそれ以上と思われる治療成績を達成しています。5年以上の長期生存例も少なくありません。」(椎名さん)

なお、手術やラジオ波後には化学療法が行われることも少なくない。

具体的にはロイコボリン(一般名ホリナートカルシウム)と5-FU(一般名フルオロウラシル)持続静注の併用療法にエルプラット(一般名オキサリプラチン)の2時間点滴を追加するFOLFOXあるいはトポテシン(一般名イリノテカン)を1時間半点滴するFOLFIRIと呼ばれる治療法が広く行われている。

本年6月からは、さらに今までの抗がん剤とは異なる作用機序をもつ分子標的薬のアバスチン(一般名ベバシズマブ)も大腸がんの治療に加わってきた。

また、QOL(生活の質)を保ちながら全身化学療法ができる経口抗がん剤TS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)も使われている。

症例 1

東京在住の竹内雅子さん(仮名、当時83歳)は96年7月に直腸がん手術を受けたが、97年7月に肝転移が発見され再び手術を行っている。だが、さらに1年後に再び肝臓に1センチの転移が見つかった。再切除は可能だったが、2度の手術で治療の苦しさを実感している竹内さんは年齢を理由に手術を断っていた。

1年8カ月後に、ラジオ波焼灼術を別の医師から勧められ東大病院を受診した。「病変は4.3センチとかなり大きくなっていました。高齢でもあり5セッションに分けてラジオ波を実施しました。その後7年以上経過し、現在90歳ですが、無再発生存中です」と、椎名さんはこの症例について語る。

竹内さんの話では、手術と比べると体の負担は10分の1以下、90歳になった今、がんが見つかればもう1度ラジオ波を受けたいという。

ラジオ波焼灼術施行前のCT像

ラジオ波焼灼術施行前のCT像。矢印の部分に径4.3センチの肝転移が認められる
ラジオ波焼灼術施行後のCT像

ラジオ波焼灼術施行後のCT像。がんの部分よりひと回り大きな部分の血流が消失し、黒く抜けて見える



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