患者に優しいラジオ波焼灼術が治療の主流 変わりつつある転移性肝がんの最新治療
切除の対象となる症例が少ない胃がんの肝転移
胃がんの肝転移では切除の対象となるのは10パーセント以下である。胃がんは大腸がんと比べて悪性度が高いため、肝転移を切除しても予後が改善するとは限らないためである。このため、肝転移が1個の症例のみを切除対象としている施設が多い。
「ラジオ波の場合は手術と比べて体の負担が少ないため、手術よりも適応を広くすることができます。ただし、肝臓内でがんが2~3個発見される場合は、その時点で目に見えないがんが、いくつも散らばっていると考えるべきでしょう。つまり、発見されているがんを叩くだけでは治療の意味がない。ラジオ波後の全身化学療法が必要不可欠となります」(椎名さん)
この場合には5-FUを基本に、シスプラチン(商品名ランダなど)、タキソール(一般名パクリタキセル)、タキソテール(一般名ドセタキセル)、トポテシンなどの薬剤を組み合わせた併用療法が行われることが多い。
全身病の一部としての乳がんの肝転移
乳がん肝転移の予後は不良であり、肝転移発見後の平均生存期間は1年弱とされている。
乳がんは全身病といわれ、肝臓に転移した時にはすでに、肺やリンパ節、骨など他のいくつもの部位にがんが広がっていることが多い。当然、手術が行われるケースはほとんど皆無といっていい。
ラジオ波による治療も、全身化学療法と平行して行われることになる。
しかし、抗がん剤に対する感受性の高いがんであるため、肝臓に大部分のがんが存在する症例では、ラジオ波による肝転移の治療と全身化学療法を併用することもある。
化学療法では分子標的薬のハーセプチン(一般名トラスツズマブ)とタキソールの2剤併用療法が行われるのが一般的で、ホルモン剤が用いられることも少なくない。
ラジオ波を受けるなら十分な経験を持った施設で
ラジオ波焼灼術は全国約1400の医療機関で導入されている。
しかし、毎週何例かの治療を行う施設から年間数例しか治療を行わない施設まであり、その経験や技術により、治療成績には外科手術以上に施設間格差があるといわれている。
転移性肝がんは病変の境界が不明瞭であり、病変を完全に壊死(細胞や組織の死滅)させることは原発性肝がんよりも困難である。ラジオ波で転移性肝がんの治療を行うためには十分な経験が必要なようだ。
ラジオ波は簡単に見えるが、確実に行えないと、がんが残存したり合併症や術死が起こったりする治療でもある。十分な経験を持った施設で治療を受けることが勧められている。
治療成績の一層の向上に期待
ここまで見てきたように、同じ転移性肝がんといっても原発がんの種類によって、患者さんがおかれている状況はまったく違っており、さまざまな治療の効果にも大��な差異が生じている。
しかし、ラジオ波焼灼術の登場により、負担の少ないやさしい治療でありながら、確実な局所効果が得られるようになったことは確かだ。
また、新しい抗がん剤が次々と開発され、化学療法もどんどん進歩している。
転移性肝がんの治療成績は今後さらに向上していくだろう。
症例 2
四国在住の田村昌和さん(仮名、当時65歳)は03年2月にS状結腸がんと1個の肝転移に対し手術を行っている。04年9月に肝転移再発に対し再切除。05年6月になり肝転移だけでなく腹腔内にもがんが広がっているのが発見された。

東大病院を受診したが一旦は全身化学療法を勧められた。しかし、化学療法だけではがんがどんどん進行するため、ラジオ波で肝転移や脾転移、腹腔内播種を焼灼してがんを減量し、その後に新しい化学療法をすることとした。05年10月の最初の入院で肝転移7カ所、脾転移1カ所、腹膜播種14カ所を焼灼し、がんが明らかに残っているのは腹腔内の脂肪組織深くに埋もれて超音波で確認できない1カ所のみとなった。
その後は新しい化学療法FOLFIRI を外来で行いながら、新しい病変がCTで確認されるたびに入院しラジオ波を行っている。現在までに12回入院しているが、治療の合間には、会社社長として全国を飛び回り、休暇にはアジア、アフリカにも出かけている。
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