日常生活に注意して、リンパ浮腫や腸閉塞を防ごう! リンパ節を広く郭清することの意義と合併症対策

監修:加藤友康 国立がんセンター中央病院婦人科医長
取材・文:池内加寿子
発行:2007年11月
更新:2019年7月

手術手技が難しいリンパ節拡大郭清

実は、大動脈周囲リンパ節郭清を行うかどうか、あるいは適応範囲をどうするかについては、病院や医師によっても見解が異なり、それぞれの施設に任されているのが現状です(大動脈周囲リンパ節に転移していれば全身的にも微小転移があると考えられ、リンパ節郭清を行っても治療的な意味はないとする意見、大動脈周囲リンパ節郭清の代わりに、抗がん剤で代用するほうがよいとの意見もあります)。

また、大動脈周囲リンパ節郭清に慣れていない婦人科医も多く、手技の難しさや、リンパ浮腫や腸閉塞などの合併症の頻度が高いことから、敬遠している医師もあるようです。同郭清術では、切開する範囲が下腹からみぞおち近くまでと広く、傷も大きくなり、術中は限られたスペースの中で、血管、尿管や自律神経などの密集する中、リンパ節と脂肪組織を、指とハサミの感触を頼りに血管からはがして切除するため、出血が多くなったり、他の組織を傷つけたりする懸念があります。また、静脈はもろいので、傷つけると大出血になりやすく、縫合時の糸結びも難しいものです。

このように手術そのものが難しく、合併症のリスクもあるなかで、治療の意義については賛否両論、混沌としているのが現状ですが、加藤さんの見解はこうです。

「私の経験では、大動脈リンパ節転移が1個のみの5例はリンパ節転移病巣を除去し、術後化学療法を行い、現在3年以上の無病生存を継続中です。リンパ節転移が少数であれば郭清によって予後を改善することができると考えています。抗がん剤では、リンパ節転移を抑えきることはできません。必要な症例に対して、医師も手技の工夫を重ね、安全に行う努力をすることが必要ですね。
進行卵巣がんを対象とした無作為化比較試験によると、大動脈周囲リンパ節を含む後腹膜リンパ節の系統的郭清(すべてきれいに切除)をしたグループと、リンパ節の腫れがある部分を中心に、選択的に切除したグループでは、全生存期間には差がないとの結果が出ています。
そこで、当院では、術前にリンパ節転移の有無をCT検査などでできる限り確認し、転移と思われる症例を選んで、手技等の工夫をして安全性を高め、リンパ節の腫れている部分を中心に選択的に郭清しています」

写真:大動脈周囲のリンパ節郭清の様子
大動脈周囲のリンパ節郭清の様子
写真:大動脈周囲のリンパ節郭清の様子

治療的リンパ節郭清の完成図
治療的リンパ節郭清の完成図

起こりや��いリンパ浮腫、腸閉塞

大動脈周囲リンパ節郭清を行った場合、術中の合併症として、出血、深部静脈血栓、まれに肺塞栓などが起こることがあり、輸血が必要になる例もあります。術後の合併症・後遺症としては、一般に、下肢のリンパ浮腫(5~15パーセント)やリンパ管炎、リンパ嚢腫、腸閉塞などが起こりやすいといわれています。

大動脈周囲リンパ節+骨盤リンパ節郭清を行ったグループと、骨盤リンパ節郭清のみ行ったグループでは、リンパ浮腫の発生率が20パーセント対12パーセントで、前者のほうがリンパ浮腫の頻度が高い傾向があります。術後に浸出液を排出するドレーンの留置の仕方を、腟から入れる腟式ではなくお腹の横から入れる経腹式にすることにより、リンパ浮腫の発生率が低くなり両者の差はなくなる、と加藤さんらは報告しています。

リンパ嚢腫は、骨盤内にリンパ液がたまるために起こる合併症ですが、後腹膜を縫わずに開放し、リンパ液が腸の表面から吸収されるようにすると防げるとのことです。

「リンパ浮腫や腸閉塞は、患者さん自身が日ごろからセルフケアを行ったり、食事等の日常生活に注意していただいたりすることで軽減できます。なお、肥満の方は、リンパ浮腫やヘルニア等を発症しやすい傾向があります。肥満防止に努めることも大切です」

日常的な努力が合併症を防ぐ

リンパ浮腫

リンパ節の切除をするとリンパ液の流れが悪くなり、リンパ液が皮下にたまってリンパ浮腫とよばれるむくみを起こすことがあります。術後早期から3年目くらいに発症しますが、10年以上たってから起こることもあるので、油断できません。ひどくなると、左右の足の太さや靴のサイズが違ってしまうこともあります。

対策

リンパ管の一部が滞っても、周りにバイパスがつくられリンパ液を戻してくれます。リンパ浮腫予防の基本は、日ごろからマッサージをしてリンパ液を流すことと、リンパ液が下肢にたまらないように、休息時や就寝時、むくみを感じたときには、クッションや枕を使って心臓より足を高く上げておくことです。足になるべく負担をかけないように、仕事中は時々足を休ませ、同じ姿勢を避けて、屈伸を行います。

傷から細菌が入って、リンパ浮腫や蜂か織炎の原因になることがあるので、皮膚を傷つけないことも大切です。切り傷、ペットの引っかき、トゲ、やけど、ホットカーペットやカイロでの低温やけどなどに注意し、日焼けも避けましょう。もし傷ができたら消毒し、感染を防ぎます。飲酒も血管が拡張してむくみの原因になるので、控えめに。

「水虫や脱毛が原因となったり、退院後、急に激しい運動を始めて脚がむくんだ人もいたりします。軽い運動や加圧される水泳はおすすめしますが、激しい運動や脚の付け根をしめつけるような衣服は避けましょう」

リンパ浮腫が起こったら、マッサージ、弾性ストッキングの着用などで積極的に治療をします。国立がん研究センターはじめ各地にリンパ浮腫外来や治療院が開かれているので、まずは受診して、適切なアドバイスを受けることをおすすめします。早めに治療を開始すれば、元に戻ることも期待できますし、少なくともそれ以上ひどくせずにすみます。

腸閉塞

「腸閉塞は、開腹手術後によく起こる合併症ですが、大動脈周囲リンパ節郭清術では手術範囲が広いため、腸管の癒着が起こりやすいといえます」

症状は、激しい腹痛、吐き気などです。小腸がむくみ、上にガス、下に液体がたまるので、レントゲンやCT検査の画像に水平のライン(鏡面像)が現れます。

対策

腸閉塞は、食べすぎや早食い、消化の悪いもの(繊維質の多いワカメ、ゴボウ、コンニャク、シイタケ、トウモロコシ、蜜豆等)が原因で起きることが多いものです。快気祝いで食べ過ぎて発症した人もいますから、注意しましょう。腸の動きをよくするためには、起床時にコップ1杯の水を飲む、適度な運動をして体を温めるなどの方法も効果的です。

[術後に起こった腸閉塞]

腹部単純X線立体写真

腹部単純X線立体写真。拡張小腸ガスと鏡面像が確認できる
腹部 CT像

腹部 CT像。上にガス、下に液体がたまっているのが分かる


ヘルニア

肥満傾向のある人は腹筋が弱いので、開腹時、真ん中から縦に切開した腹筋の繊維を寄せて閉じた後、縫合部が左右に開いて閉じなくなり、隙間から腸が脱出することがあります。

「腹帯かコルセット、ガードルなどで抑えておくと元に戻りますから、常時着用することをおすすめします」


1 2

同じカテゴリーの最新記事