ゆっくり時間をかけた治療で延命を図る 論理的に組み立てられた隔日FP・タキソール療法

監修:山光進 札幌月寒病院院長
取材・文:菊池憲一
発行:2005年7月
更新:2019年7月

「隔日FP・ウイークリータキソール療法」のさらなる可能性

隔日FP療法を始めて4~5年で、山光さんは可能性を感じ始めた。隔日FP療法による入院治療とTS-1とブリプラチンの併用療法などの外来治療を続けた患者の中に、画像診断上でがんが消えた状態を1年以上維持できる症例が現れ始めたからだ。しかし、約半分の進行・再発がんの患者に有効でないのも現実だった。

そこで、山光さんは、隔日FP療法よりもさらに有効な化学療法を模索し続けた。その結果、隔日FP療法にタキソール(一般名パクリタキセル)を加えた「隔日FP・ウイークリータキソール療法」を開発し、その治療を始めた。山光さんは、次のように語る。

「数多くの文献、研究論文を調べた結果、タキソールとブリプラチンには相乗効果があることがわかりました。ブリプラチンは5-FUの効果を増強させるようにタキソールの効果も増強させる役割があるのです。また、タキソールと5-FUはそれぞれ作用機序と効能が異なり、相加作用があります。5-FUとタキソール、ブリプラチンの3剤による併用療法は、科学的、論理的に裏付けられた最高の組み合わせなのです」

つまり、5-FUとブリプラチン、タキソールとブリプラチンという2つのバイオケミカル・モジュレーション療法(前出)を重ね合わせて誕生したのが「隔日FP・ウイークリータキソール療法」なのである。化学療法では作用機序、効能の異なる薬を足し算し、相加作用を狙った併用療法が盛んだが、隔日FP・ウイークリータキソール療法は足し算ではなく、掛け算的な相乗作用を持つのが大きな特徴である。

山光さんは、02年から「隔日FP・ウイークリータキソール療法」をスタートし、その治療効果に手ごたえを感じている。実際のケースを紹介しよう。

Bさん(30代)は、1年前、激しい腹痛に襲われて、救急車で同病院に運ばれてきた。精密検査の結果、進行した大腸がんによって腸の中を便が流れなくなる腸閉塞を起こしていることがわかった。肝臓に多発性の転移も見つかった。緊急手術で腸閉塞の起きている場所を切除して、残りの腸をつないだ。肝転移の治療も必要だった。Bさんは専業主婦で育ち盛りの子供と夫との3人暮らし。「できるだけ自宅で子育て、家事をしたい」との希望もあり、長期の入院はできなかった。

そこで、入院1カ月間に、隔日FP・ウイークリータキソール療法を受けた。1週間に1回、3時間かけてタキソールの静脈の点滴注射を受けた。1回の投与量は体表面積あたり60~90リグラムで通常より少ない量だ。このほかに、隔日FP療法が行われた。幸い、副作用はほとんどなく、食事ができるまでに回復し、退院した。その後、Bさんは育児と家事に励みながら外来通院で、飲み薬のTS-1の服用(隔日)とブリプラチンの併用療法を続けた。外来通院を半年続けてから、育児・家事を休んで再入院。1カ月間、再び、隔日FP・ウイークリータキソール療法を受けた。退院後は、TS-1とブリプラチンの併用療法を続ける。

「8個の肝転移はやや縮小したものの、画像診断上は消失までは至っていません。しかし、1年を経過して肝転移の増大もなく、元気で治療を続けています。家族の状況を考えて、入院したり、外来での治療に切り替えたりしています。入院治療のほうが治療効果は高いのですが、患者さんの人生の希望、目的、生活を聞きながら治療を行っています。また、がん治療では同じ抗がん剤がずっと効くわけではありません。効かなくなるときがあります。そのため、途中で治療内容を替えて、化学療法を継続できるようにしています」と山光さん。

余命半年の患者が1年以上生存

[食道がんに対する隔日FP・ウィークリータキソールによる症例]
写真:食道がんに対する隔日FP・ウィークリータキソールによる症例

左:治療前 矢印の部分ががんで完全に狭窄している
右:治療後 治療により消失したがん
(白い部分は造影剤で染まっている心臓および背骨)

[表3 進行・再発がんに対する隔日FP・ウィークリータキソール療法の奏効率]

  著効 有効 不変 進行 奏効率(%)
咽頭がん 2       100.0
食道がん 4 3     100.0
膵がん   2 1   66.7
大腸がん 1 2   1 75.0
肺がん   3 1   75.0
子宮がん   1     100.0
7 11 2 1 85.7
(04.9.30.)

同病院では、膵臓がんや食道がんの進行・再発がんにも隔日FP・ウイークリータキソール療法を行っている。進行・再発した膵臓がんには8人に実施し、かなりの延命効果があった。残念ながら8人のうち3人は亡くなったが、治療期間は631日、520日、360日で、3人とも1年以上の延命効果があった。

「昔なら余命4~7カ月という膵臓がんの患者さんでも隔日FP・ウイークリータキソール療法を受けた場合、みなさん1年以上生きられるようになっています」(山光さん)

隔日FP・ウイークリータキソール療法は02年から「局所療法が適応にならない進行・再発がん」の患者約50人に行っている。治療成績(途中経過)は、奏効率約85パーセントで、隔日FP療法を上回っている(表3)。

「今後、治療数の増加とともに奏効率は多少減って60~70パーセントほどになると予測しています。隔日FP療法よりも奏効率は高くなると思います。そこで、現在、進行・再発がんの第1選択は、がんの種類を問わず、隔日FP・ウイークリータキソール療法にしています。患者さんの病状、生活の状態に合わせて、隔日FP療法や外来通院用のTS-1(隔日)・ブリプラチン併用療法などを組み合わせて、治療を行っています」と山光さん。

がんの化学療法は、ここ10数年間で大きな進歩を遂げた。今後、さらなる進歩が期待できる。「1年間生存できれば、次の扉が開く可能性があります」と山光さんは語る。同病院が取り組む「隔日FP・ウイークリータキソール療法」は、次の扉を開く可能性のある治療法の1つと言える。

プライバシー保護のため、ここでご紹介したAさん、Bさんのケースは、実際の症例とは変えてあります。


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