再発・転移の基礎知識:まずは知ること 再発・転移はこう起きる、そしてこう対処する

監修●吉田和彦 東京慈恵会医科大学葛飾医療センター副院長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2013年5月
更新:2019年11月

Q9 手術はできないの?

大腸がんの肝転移や肺転移、肉腫の肺転移などは、例外的に手術を行い、転移巣を切除することにより、再度根治が得られることがあります。

一方、ほとんどのがんは転移巣を切除しても、他の部位に再発することが多いので、「モグラたたき」となり、切除しても意味がないということになります。

延命を目指した手術としては、卵巣がんの腹膜転移に対する減量(がんの細胞数を減らす)手術がありますが、例外的です。

緩和を目的として、痛みを和らげたり、一時的に食事を取れるようする手術などが行われることがあります。

Q10 転移・再発したときに医師には何をたずねればいい?

再発や転移と告げられれば、患者さんも家族もそうとう動揺なさるはずです。このとき、最も重要なことは、治療に対して何を望むかということです。完治が難しいという現実を受け入れたうえで、苦しさを伴う治療でできる限りの延命を求めるのか、それよりもQOL(生活の質)を優先させたいのか、といったことなどです。

次のようなことを確認するのがその方針を決めることに役立つと思います。

・どこに転移し、どのくらい進行しているのか

・現在ある症状と転移の関係は、今後転移により生じうる症状は

・治療により延命効果は期待できるか、症状緩和が得られるか

・どんな治療が考えられるか

・効果と副作用

・治療費はどれくらいかかるのか

・臨床試験への参加はありうるか

・(緩和ケアを受ける場合)どの医療機関で受けるのが適切か

などです。

別の医師の意見(セカンドオピニオン)を求めることもできます。より納得した治療を受けることにつながります。

 

転移がんを制覇しなければがんは撲滅できない

吉田和彦 東京慈恵会医科大学葛飾医療センター副院長

転移がんを制覇できなければ、がんを撲滅することはできません。
米国のニクソン大統領が、「月を征服した後は、がんを制覇する」と、National Cancer Actに署名したのは1971年でした。その後、莫大な研究費がつぎ込まれましたが、あれから40年を経た今、確かにがんの遺伝子学や分子生物学の理解が進んだことは確かですが、「がん撲滅」にはほど遠いのが現実です。
遠隔転移が生じた場合には根治することが困難なので、生存率を向上させるには、手術や放射線治療後の抗がん薬やホルモン薬による補助療法の重要性が増しています。補助療法は受ければ必ず助かるものではありませんが、再発した際の患者さんの後悔の気持ちを考えると、医療者側は1%でも生存率を上げる可能性を示唆するエビデンス(科学的根拠)がある治療を勧めざるを得ない立場にあります。

継続検査に疑問の意見も

術後の画像診断や腫瘍マーカー測定を定期的に行うサーベイランスに関しても、議論があります。遠隔再発した場合には根治することが困難なので、症状が出るまでは検査をおこなっても仕方がないという考え方が、欧米を中心にあるのです。サーベイランスは患者さんの不安をあおり、むだな検査を強いることが背景にあります。
一方で、大腸がんのようにこの10年間の新たな抗がん薬の導入により、転移再発がんの生存期間が6~12カ月から、36カ月ほどにまで伸びたがんもあります。QOL(生存の質)を維持しながらの延命も可能な時代になりつつあります。
遠隔再発した場合には、「根治することは困難である」という前提のもとで、医師と率直で綿密な話をする必要があります。

全人的苦痛に十分配慮を

根治が困難となった場合には、「延命」と「緩和」が中心になります。確かに「延命」は大切ですが、「残された時間をいかに有効に使うか」という命題が第一に来ます。QOLを考えながら抗がん薬の効果と副作用を勘案しながら、1次治療、2次治療、3次治療と進んでいきます。最近では「がん病変の治療」を開始すると同時に緩和ケアを開始する「包括的がん医療モデル」が推奨されています。身体的苦痛だけではなく、精神的苦痛、スピリチュアルな苦痛、社会的苦痛など、全人的苦痛に対しても、十分に配慮された医療を受けることが肝要です。

■がん患者さんの抱える痛み

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