進行別 がん標準治療 手術療法が中心だが、第2の選択肢の可能性も

監修:斎田俊明 信州大学皮膚科教授
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2005年5月
更新:2013年9月

進行・再発がん

これといった決定打はなく、さまざまな治療法を試行錯誤中

すでに、遠隔臓器への転移などがある場合は、化学療法を検討することになります。しかし、メラノーマは抗がん剤が効きにくいがんの1つ。斎田さんが1994年から2003年に報告された論文を、EBM(科学的根拠に基づく治療)の手法に基づいて検討した結果、残念ながら生命予後を有意に延長させる化学療法はなかったそうです。

「現状では、ダカルバジンが標準薬とされていますが、奏効率は20パーセント。がんが全て消えた人はほとんど0という結果です」。奏効率とは、がんが50パーセント以上縮小した人の割合です。複数の抗がん剤を併用することで奏効率は上がりますが、「延命効果はなく、有害反応、つまり副作用が増強する」だけだそうです。

ダートマスレジメンといって、ダカルバジンとランダ(もしくはブリプラチン、一般名シスプラチン)、BCNU(ニトロソウレア系薬剤)の3剤併用にノルバデックス(一般名タモキシフェン)を加えた治療法が、奏効率40~50パーセントと報告され、大きな注目を集めたこともありました。

ノルバデックスは、乳がん治療でよく使われるホルモン剤です。これが、抗がん剤の耐性を打破するのではないかと言われたのです。しかし、その後ノルバデックスのあるなしで比較試験が行われた結果、治療成績に差がないことが明らかにされています。

そこで、期待されたのが生物化学療法です。ランダなどを主体とする化学療法にインターロイキン2(IL2)やインターフェロンαを加え、化学療法でがんを叩く一方、生物学的製剤で免疫を高めようというわけです。これも当初は大きな期待が集まりましたが、結局有意差なしという結果に終わっています。

今のところ、ランダとエクザール〔一般名ビンブラスチン〕、ダカルバジンの3剤にIL2とインターフェロンαを組み合わせた治療が、抗がん剤のみより効果が高いという報告が1つ見られるだけです。また、米国からIL2の大量投与によって、奏効率は16パーセントと低いものの、効果があった人の中に70~150カ月もの延命を得たという報告があり、注目されているそうです。

「もっとも、これは体重あたり60万単位のIL2を1日3回、1週間続けて投与するというもの。日本人が耐えられるか否か疑問」だといいます。

進行期にはこれという方法はありませんが、さまざまな治療法の研究が進んでいます。

再発の場合は、日本ではDAVFeron療法が効かなかったということを意味します。そこで、斎田さんらはダートマスレジメンに準じてダカルバジン、ニドラン、ラン��にノルバデックスを加えたDACTam療法を試みています。しかし、「時には肺や肝転移が消えることはありますが、他に方法がないので使われるという程度」が現状だそうです。

新しいメラノーマの治療法

樹状細胞療法、遺伝子治療、分子標的治療の可能性も

メラノーマは、今のところ手術で治らないと、あまり芳しい成績があがっていません。そこで、さまざまな治療法が研究されています。

メラノーマには、特異的な抗原が多くあることが知られています。そこで、この抗原分子を改変し、T細胞に提示するHLAとの親和性を高めて、IL2とともに投与したところ、42パーセントの奏効率が得られたと報告されています。つまり、より免疫系に認識されやすくしておいて生物学的製剤で免疫を制御してがんを攻撃しようというわけです。

また、同じく免疫系で重要な働きをする樹状細胞にメラノーマの抗原ペプチドを作用させて体内に戻し、メラノーマを攻撃させる樹状細胞療法も期待されています。

「大きな転移が消えることもありますが、新しい転移巣も出てくるので、まだ限界があります」と斎田さん。さらに、斎田さんはインターフェロンβの遺伝子をリポソームにくるんで病巣に注入する遺伝子治療にも取り組んでいます。まだ、3例の治験段階ですが、「遺伝子を打った部位のみでなく、一部で打たないところでもリンパ球が増えて、がん細胞が消えた患者がいた」といいます。

一方、分子標的治療としては、メラノーマの増殖シグナルの伝達に重要な働きをする系が発見され、これをブロックする分子標的治療薬が開発され、すでに欧米では治験に入っているそうです。「この系の異常はメラノーマの8割に見つかり、薬でブロックするとがんがおとなしくなって増殖が抑えられる」そうです。

まだ、いずれも研究段階ですが、この中から将来メラノーマの治療を変えるような薬が出てくる可能性もありうるのです。

その他の皮膚がん

有棘細胞がん

問題は、遠隔臓器への転移がある進行がん

皮膚の有棘細胞がん(扁平上皮がん)には、発生しやすい前駆状態があるそうです。(1)ひどいやけどの痕や放射線の暴露による皮膚炎、慢性的な化膿、床擦れなど、(2)日光角化症、ボーエン病など表皮内がんの病変、(3)先天性の色素性乾皮症や慢性砒素中毒など全身的な問題がある場合などに分けられます。

疑わしい病変は、バイオプシーを行って確定診断を行います。

治療はやはり手術が基本です。表皮内にとどまれば5ミリ、がんの広がりが2センチまでならば1~2センチ安全領域をとって切除します。この段階ならほとんどの人が治癒しています。「2期までならば、割合治療成績はいいです」と斎田さん。これが、3期になり、骨まで深く浸潤するようになったり、リンパ節転移を伴うようになると、治療成績が低下します。遠隔臓器への転移がある進行がんには放射線治療や化学療法がある程度は有効です。

斎田さんによると、「エビデンスレベルは低いのですが、ランダとアドリアシン、パラプラチン(一般名カルボプラチン)とファルモルビシン(一般名エピルビシン)、ペプレオ(一般名ペプロマイシン)とマイトマイシン(一般名も同じ)、それらが効かない場合はカンプトテシンなどが使われている」そうです。

[有棘細胞がんの病期分類と治療指針・予後]
病期 UICC定義 治療指針 5年生存率
Tis SCC in situ 5mm離して切除* ~100%
1 T1(~2cm) N0 M0 1~2cm離して全摘 ~99%
2 T2,3(2cm~) N0 M0 2~3cm離して全摘 ~85%
3A T4(deep inv) N0 M0 2~3cm離し、深部
断端を含めて全摘
~65%
3B anyT N1 M0 同上切除+所属
リンパ節郭清(症状によっては
術前・術後の補助療法)
~55%
4 anyT anyN M1 化学療法and/or
放射線治療
~38%
(4年生存率)
*症状によっては凍結療法などでも可

基底細胞がん

命を落とすことはないが、顔面再建が重要

基底細胞がんは、メラノサイトのがんではないのに、黒や焦げ茶色を呈することが多く、ホクロやメラノーマと間違えられることがもあります。

このがんは、転移を起こすことはないので、「切除すれば治るがん」です。基本的にはがんの病巣から5ミリ離して全摘を行えば、治療は終了です。基底細胞がんは、多くが顔、とくに目の縁や鼻、上唇などにできます。そのため、切除後の再建が問題になります。

しかし、ここで重要なのは、完全に取りきることです。「病巣の摘出が不十分だと再発して、皮膚に深く浸潤し、難治になりやすい」といいます。

再発すると何度も再発を繰り返し、そのたびに、顔の深部にがんがしみ込んで破壊されていくのです。

あまりに深くて取りきれないような場合や、高齢で手術ができない場合は、ランダとアドリアシンなどの化学療法や放射線治療も行われています。「基底細胞がんで命を落とすことはありませんが、小さいうちにきちんと摘出しておかないと、顔が破壊されて悲惨なことになります」と斎田さんは語っています。

乳房外パジェット病

インキン、タムシと間違えて放置しない

最近、日本でも増加している皮膚がんです。これは、高齢者の男性に多いがんで、外陰部などに、じくじくした赤や茶色っぽい病変ができます。軽いかゆみを伴うことも多く、インキンやタムシ、湿疹と思って放置、進行してしまう例が多いそうです。

手術による摘出が原則ですが「外陰部のため、腟や尿道などに浸潤すると摘出が難しくなることもある」そうです。


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