1. ホーム  > 
  2. 各種がん  > 
  3. 胃がん
 

SOX療法と腹腔内投与の併用など、更なる展開・可能性も 有効・安全性の高い治療成績、胃がん腹膜播種の腹腔内併用療法

監修●石神浩徳 東京大学医学部附属病院外来化学療法部特任講師
取材・文●柄川昭彦
発行:2013年9月
更新:2019年8月

手術できた患者さんの生存期間は約3年

■図5 腹腔内併用療法後の手術の効果(全生存期間)

腹膜播種が起きた胃がんは、従来は手術の対象にはならなかった。しかし、この腹腔内投与併用療法により腹膜播種を抑えられた場合には、手術を行う試みもされている。

「腹膜播種を抑えることができないため、胃を取っても意味がない、というのが一般的な考え方です。しかし、腹膜播種を抑えることができた場合には、原発巣を切除することにより、出血や狭窄を予防したり、他の臓器への転移を抑えたりする効果が期待できます。そこで、腹膜播種が抑えられた患者さんには、胃を切除する手術を行っています」

同院では、2011年までに腹腔内投与併用療法を行った100人のうち、62人に手術が行われた。そのデータがまとめられている。

手術ができた62人の生存期間中央値は、34.5カ月だった。手術できなかった38人のそれは、13.0カ月。腹膜播種が抑えられ、原発巣を手術で取り除けた場合には、3年近い生存期間が期待できるのである(図5)。

ただ、手術をしても、多くの患者さんに再発が起きてしまう。再発が起きるまでの期間の中央値は、19.6カ月だった。再発が起きてから、2次治療、3次治療を行うことで、生存期間が34.5カ月まで延びているのである。

「再発の半分は腹膜に起きていますが、半分は他の臓器でした。つまり、治療を開始する時点で、腹膜にしか転移がないように見えても、他の臓器にも目に見えない微小転移が起きていた、ということなのです」

腹膜だけでなく他の臓器にも転移が起きるのであれば、治療成績を向上させるために、腹腔内の化学療法も全身化学療法も、どちらも強化していく必要がある。そのうちの全身化学療法の強化として、新たな試みが始まっている。

腹膜播種の患者さんに適しているSOX療法

現在の腹腔内投与併用療法では、全身療法として、TS-1の内服とパクリタキセルの経静脈投与が行われている。代わりに、TS-1の内服とオキサリプラチンの経静脈投与を併用するSOX療法を採り入れたらどうなるか、という研究が始まっている。

「現在、手術できない進行再発胃がんの標準療法は、TS-1とシスプラチンを併用するSP療法ですが、2013年のASCO(米国臨床腫瘍学会)で、SOX療法がSP療法に対して劣らないというデータが報告されました。

このような結果が予想されましたので、2011年にSOX療法とパクリタキセル腹腔内投与の併用療法について、第Ⅰ相試験を行いました。安全性について問題ないことがわかっています」

SP療法ではシスプラチン、SOX療法ではオキサリプラチンが使われるが、腹膜播種のある患者さんには、オキサリプラチンのほうが使いやすいという。シスプラチンは腎毒性が強く、投与するときには、腎臓を守るために大量輸液が必要になる。ところが、腹膜播種で腹水がたまっている患者さんには、大量輸液をできないことがあるのだ。

「シスプラチンを投与する際には大量輸液が必要ですので、3~4日程度の入院が必要ですが、オキサリプラチンは外来で投与できます。また、従来のTS-1+パクリタキセル経静脈投与の併用と比べると、SOX療法併用のほうが、原発巣やリンパ節転移が早く縮小する印象があり、手術前に行う治療として適していると思います」

ただ、オキサリプラチンには末梢神経障害という副作用があり、治療を長く継続するのは難しい。そこで、途中で治療法を変える戦略が考えられている。

「まずSOX療法とパクリタキセル腹腔内投与の併用療法を行って、腹膜播種が縮小した場合に手術を行い、手術後は、現在行っているTS-1とパクリタキセルの腹腔内投与併用療法に切り替える方法です」

SOX療法とパクリタキセル腹腔内投与の併用療法については、今後、臨床試験が進められることになっている。

オキサリプラチン=商品名エルプラット 末梢神経障害=しびれや痛み、感覚障害などの症状が発現する薬剤による副作用。神経軸索の微小管の傷害や神経細胞の直接傷害などが原因

軽い腹膜播種なら治癒の可能性もある

ひとくちに腹膜播種と言っても、軽い腹膜播種もあれば、重い腹膜播種もある。腹膜に播種が見つからなくても、腹水の細胞診でがん細胞が見つかった場合(CY1=腹腔内洗浄細胞診陽性)は、ステージⅣ期と診断され、手術の対象からはずれる。

しかし、パクリタキセル腹腔内投与の併用療法を行えば、高い効果が期待できそうだ。

前述した手術が行われた62例の分析では、2年生存率は、軽い腹膜播種(6人のCY1を含む計11人)が81%、重い腹膜播種(51人)が53%となっている。また、軽い腹膜播種の患者さんたちは、5年生存率でも50%に達しているのだ。

「症例数が少ないのではっきりしたことはわかりませんが、軽い腹膜播種ならば、治る可能性があるということです。今後の臨床試験で、この点についても明らかになってくるでしょう」

さらに、今後の展開としては、腹膜播種の予防も視野に入ってくる。胃がんが胃壁の外側の膜にまで浸潤している場合、手術しても、腹膜播種が起こる危険性がある。

そこで、術前あるは術後の補助化学療法として、腹腔内投与の併用療法を行ったらどうか、と考えられているのだ。現在、そういった治療の臨床試験も計画されているという。

また、膵がんの腹膜播種に対しても、腹腔内投与併用療法の研究が始まっている。この治療にも大きな期待がかけられている。

1 2

同じカテゴリーの最新記事