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ASCO-GI2013の成果を中心に SOX療法の有効証明で、広がる進行・再発胃がん治療の選択

監修●山口研成 埼玉県立がんセンター消化器内科科長兼部長
取材・文●町口 充
発行:2013年9月
更新:2019年8月

腎毒性が強いシスプラチン

■図5  血液毒性の比較

 SOX(症例数=338)  SP(症例数=335)
全グレード
症例数(%)
グレード3以下
症例数(%)
全グレード
症例数(%)
グレード3以下
症例数(%)
白血球
減少
 205
(60.7)
 14
(4.1)
 247
(73.7)
 64
(19.1)
好中球
減少
 233
(68.9)
 66
(19.5)
 265
(79.1)
 139
(41.5)
貧血  185
(54.7)
 47
(13.9)
 246
(73.4)
 106
(31.6)
血小板
減少
 264
(78.1)
 32
(9.5)
 230
(68.7)
 35
(10.4)
発熱性
好中球
減少
 3
(0.9)
 3
(0.9)
 23
(6.9)
 23
(6.9)

シスプラチンもオキサリプラチンも、いずれも白金製剤(プラチナ製剤)に分類される薬。名前の通り金属の白金を含んでいて��がん細胞のDNAと結合することでDNAの複製を妨げ、細胞の分裂・増殖を抑えてがんを死滅に導く作用を持っているといわれている。

同じ系統の薬でも、その働きには微妙な違いがあり、シスプラチンは高い腫瘍縮小効果を持つ一方で、副作用も強いのが特徴だ(図5・6)。

副作用で一番問題になるのは腎臓に対する毒性の強さで、それは今回の試験結果でも明らかになっている。

腎臓は体の中の老廃物を排泄したり、必要なものは再吸収して体内に留める働きをするなどの重要な機能を持っており、腎毒性により腎臓の機能に障害が起これば、命にかかわる事態にもなってしまう。

■図6  非血液毒性の比較

SOX(症例数=338) SP(症例数=335)
全グレード
症例数(%)
グレード3
症例数(%)
全グレード
症例数(%)
グレード3
症例数(%)
ビリルビン 131(38.8) 6
(1.8)
74
(22.1)
4
(1.2)
ブルタミン酸
オキサロス酢酸
トランスアミナーゼ
203
(60.1)
10
(3.0)
76
(22.7)
4
(1.2)
グルタミ酸
ビルビン酸
トランスアミナーゼ
135(39.9) 10
(3.0)
78
(23.3)
3
(0.9)
アルカリホスファターゼ 115(34.0) 4
(1.2)
65
(19.4)
2
(0.6)
クレアチニン 29
(8.6)
1
(0.3)
130(38.8) 6
(1.8)
低ナトリウム血症 74
(21.9)
15
(4.4)
152(45.4) 44
(13.1)
下痢 180(53.5) 20
(5.9)
203(60.6) 26
(7.8)
吐き気 207(61.2) 13
(3.8)
231(69.0) 13
(3.9)
嘔吐 115(34.0) 2
(0.6)
118(35.2) 5
(1.5)
口内炎 105(31.1) 5
(1.5)
136(40.6) 4
(1.2)
食欲不振 250(74.0) 50
(14.8)
270(80.6) 62
(18.5)
疲労 193(57.1 21
(6.2)
202(60.3) 29
(8.7)
神経障害 289(85.5) 15
(4.4)
77
(23.0)
0
(0)
体重減少 166(49.1) 11
(3.3)
169
(50.4)
18
(5.4)
色素沈着 131(38.8) 0
(0)
135
(40.3)
0
(0)

シスプラチンによる腎臓障害は尿の量が減少したときにあらわれやすいことから、その予防として、尿量を確保するためシスプラチンを投与する前に大量の電解質補液(生理食塩水やカリウム製剤など)を点滴で補わなければいけない。

また、吐き気や嘔吐、食欲不振などの消化器症状もほかの抗がん薬と比べても強く現れやすい特徴を持っている。

これに対して、補液の必要がなく消化器毒性も比較的弱いのがオキサリプラチン。

それでも今回の試験で、吐き気などの消化器症状についてはそれほどの有意差はなかった。この点について山口さんは、「シスプラチンによる吐き気などの消化器症状に対しては、副作用マネジメントの技術が上がったことや強力な制吐剤が出てきたおかげで、かなり症状が抑えられるようになってきてはいます。しかし、効果の高い制吐剤は値段が高いのも難点です」と話している。

外来でできるSOX療法

オキサリプラチンに補液の投与は必要ないが、この違いは治療する上での大きなメリットを生んでいる。

TS-1は経口薬のため自宅でも飲めるが、シスプラチン投与は補液の点滴が必要なため、埼玉県立がんセンターでは患者さんに入院してもらい、3日ほどかけて行っているという。吐き気が強い人は4日かかることもあるという。

「水分摂取のためには点滴を減らして、飲む水で補てんしてもいいのですが、シスプラチンは吐き気の副作用が強いため経口で水をたくさん飲むことが難しく、結局、点滴に頼らざるを得ません」

これに対してオキサリプラチンは3~4時間の点滴投与ですむため、入院の必要はなく、外来で治療できる。

「抗がん薬のメリットは、手術と違ってがんを根治させることはできなくても、長生きしてもらうことはできます。副作用とつきあいながら上手に抗がん薬を使い、できるだけ病院に閉じ込めないようにしてあげたい。治療が終わったら、すぐに家族の元に帰れる。それができるのが、オキサリプラチンだといえます」

シスプラチンも、補液の点滴を減らしてシスプラチンの投与を外来でできないかとの検討は行われている。「OS-1」などの経口補水液があり、シスプラチン投与時に点滴の代わりにこれを飲むことで、入院しないでも治療できるようにして、患者さんのQOL(生活の質)向上にも寄与できないかと試行が続けられているという。

寒冷刺激で起る末梢神経障害

オキサリプラチンにも問題がないわけではない。とくに、患者さんのQOL低下を招く原因となり、治療の継続が困難になるケースがあるのが、末梢神経障害の副作用だ。

「寒冷刺激によっておこるといわれますが、たとえば冬に冷たいドアノブに触れたときに痛みが走ったり、夏に冷たい飲み物を口につけたときにしびれがきたりします。これがさらに進むと、指先で触る感触が落ちてボタンがかけにくくなったり、箸が持ちにくくなる、履いていたスリッパが落ちるなどの症状が現れるようになったら、医師に相談してオキサリプラチンを中断する必要がでてきます。がんに対する効果があっても患者さんの生活に障害がでては困るので、悪化する前に薬を中断することが大事です」

蓄積性のしびれであるため、我慢していればすぐに収まるものではないという。症状がひどくなる前にオキサリプラチンの投与をやめて、TS-1単独の治療に切り換えるなどの対応が必要という。

予防法としては、飲み物はできるだけ温かいものにして、氷やアイスクリームなど冷たいものは避ける、冷たいものには直接素手で触れないようにする、夏はエアコンの冷気に当たらないようにする、冬場はなるべく温かくし、外気が冷たいときはマスクをする、などが挙げられる。

承認されるのは来年以降?

オキサリプラチンの登場で、治療はどう変わるか?

「1つの有力なオプションができたことは間違いない。点滴が少なくてすむことは高齢者には福音だし、TS-1は経口薬ですから、在宅での投与を望む患者さんには喜ばれるでしょう。がん性腹水などおなかに水が溜まっている患者さんも、シスプラチンは不向きだがオキサリプラチンは向いているといわれています」

問題は、厚労省の承認がいつになるかだが、早くても来年以降になりそうだ。

今回の試験ではPFSの非劣性を証明したが、今後、全生存期間(OS)の最終解析を2013年10月頃までに終える予定で、製薬会社の承認申請はその結果を受けたのちになる。

それでも今後、進行胃がんの治療の選択肢が広がっていくのは確かで、山口さんは次のように語っている。

「分子標的薬の開発が進んでいる中で、胃がんはこの点でもほかのがんと比べて遅れています。SOX療法などで治療の選択肢が広がる一方、有効な分子標的薬が導入されて、適切な分子マーカーによって患者さんの選択が行われるようになれば、延命期間はもっと延びていくに違いない、と思っています」

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