ステージⅣでもあきらめない 切除不能進行胃がんに対する新しい手術法 化学療法の進化で可能となったコンバージョン手術
転移の状態や副作用も考えて
治療の流れを見てみよう。「我々の病院を訪れる患者さんは、手術でがんをとれば大丈夫と思っている方が多いのですが、進行度でそれが難しい場合には『がんを小さくしてから手術しましょう』と説明しています」と福地さん。
ステージⅣだと治療ガイドラインでは、化学療法、放射線治療、緩和手術、対症療法とされている。緩和手術とは根治を目指すのではなく、症状の緩和を目指した減量手術などを指す。
一方、理想はすべての患者さんをコンバージョン手術に導くことだが、体の状況などにより、それは難しいのが現状だ。腹膜播種がある場合は根治が得られないこともあり、その場合は化学療法になる。肝転移の度合いにもよる。強い抗がん薬を使うので副作用も大きな考慮点だ。福地さんらの症例では145例のうち、手術までもっていけたのは40例だった。
使われる抗がん薬は、各施設で多少の違いはあるが、TS-1をベースにシスプラチン、タキソールを組み合わせることが多い。*ハーセプチンを用いる施設もある。「シスプラチンが一番効果的とされていますが、強力なぶん副作用も強いので60歳までとされています。タキソールは70歳から使っても同じくらいの効果が見込まれます。副作用という点での選択も重要です」
*ハーセプチン=一般名トラスツズマブ
「6カ月以内の手術が望ましい」

手術前の化学療法期間は薬の選択や治療効果で変わるが、福地さんらのデータでは、TS-1+シスプラチンの中央値が20週、TS-1+タキソールが24週だった。
「6カ月以内に手術するのが望ましいですね。この間になんとかR0を目指します。この時期を超えると、がんが強くなってきます。2次治療に入ると、コンバージョン手術にはもっていくのは困難です」
画像検査でR0手術の範囲、ステージⅢになれば手術を考える状況になるという(図5)。
手術では、原発部位を想定して切除する。全摘出したほうがいいケースもある。
福地さんによると、「途中、レジメンの変更や、どのような手術がいいのかという判断、副作用の影響なども常に考慮されます」
手術をしたあとの再発は、ほかの手術と同じようにありうる。そのときは、また抗がん薬��療が必要となる。
抗がん薬の進歩が生んだ集学的治療
コンバージョン手術が注目されるまでの道のりを聞いた。「昔は胃がんのステージⅣというと、とても大変だというイメージが強かったのですが、それが変わってきました。何より、化学療法の効果を得られるようになったことで、治療が変わっています。今は目標を持って治療に臨めます」
福地さんは、抗がん薬の進化がなければ生まれなかった集学的治療だと話した。「TS-1が出てから変わりました。胃がんに対する抗がん薬の王様とも言えるでしょう。胃癌治療ガイドラインは術後補助化学療法(アジュバント療法)としてのTS-1と、切除不能なものに対するTS-1とシスプラチンしか掲載されていません。しかし、TS-1だけでよいということではなく、コンビとなる薬が登場したことも重要です。ほかにもよく効く薬があり、ガイドラインも変わっていくのではないでしょうか」
外科医たちの意識も変わった。「抗がん薬が効くことがわかって、ステージⅣでは外科の役割は小さいと思っていのが、『がんを小さくしてから切除』という概念に代わった。予後に差があるということがわかるようになると、さらに推進すべきという医師が増えました」
生存延長に寄与できる療法
「常にコンバージョン手術を目指しています。化学療法が効いているときに手術をするタイミングを逃さないことも大切です。画像や腫瘍マーカーによる診断が第一ですが、我々が見ていても、抗がん薬が効いている人はわかります。食事をよくとるようになり、目に見えて元気になる人もいます。外科としての役割はその次の段階にあります」
今後の課題を聞いた。「今はステージⅣでも、根治を求めた治療ができる時代です。5年の生存を得られる人もいます。患者さんにとってはとても明るい情報になります。課題は、コンバージョン手術にもっていくためのさらなる工夫でしょう。TS-1やシスプラチンがあるので、それよりもっと有効な薬や化学療法のレジメン、転移部位による抗がん薬の選択などということになりますが、すでにその分野で検討がなされていると思います。手術ができる状態になれば、あとは我々外科医が、最善の切除手術をして患者さんの予後に貢献したいと思っています」
福地さんは、集学的治療の意義を改めて強調した。
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