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免疫チェックポイント阻害薬の開発も進む 治療薬が増え、選択肢が広がった進行・再発胃がん最新治療

監修●設楽紘平 国立がん研究センター東病院消化管内科
取材・文●柄川昭彦
発行:2016年10月
更新:2019年8月


2次治療の標準治療にサイラムザが加わった

1次治療後に病状が進行した場合、2次治療が行われる。従来の標準治療は、タキソール単剤療法(週1回法)、タキソテール単剤療法、イリノテカン単剤療法だったが、これに分子標的薬のサイラムザが加わることになった(図2)。

図2 進行・再発胃がんに対する標準治療

「日本人も含めたRAINBOW試験という国際的な第Ⅲ(III)相試験が行われ、サイラムザとタキソールの併用で、タキソール単剤療法より生存期間が延長することが明らかになったのです」

RAINBOW試験では、「サイラムザ+タキソール」群と「プラセボ(偽薬)+タキソール」群が比較された。その結果、全生存期間(OS)は9.63カ月と7.36カ月で、サイラムザを併用することで、2.27カ月延長することがわかったのだ(図3)。

図3 進行・再発胃がんに対するサイラムザの効果(全生存期間、RAINBOW試験より)

また、日本人患者140人について分析したところ、無増悪生存期間(PFS:がんが増悪するまでの平均期間)は、サイラムザ併用群が5.6カ月、タキソール単独群が2.8カ月だった。腫瘍が50%以上縮小した人の割合も、41%と19%と大きな差がついていた(図4)。

図4 日本人患者における進行・再発胃がんに対するサイラムザの効果(無増悪生存期間、腫瘍縮小効果 RAINBOW試験より)

「サイラムザは血管新生阻害薬で、がんに栄養を送る血管が新生されるのを阻害します。がんを兵糧攻めにして治療効果を発揮するのですが、その一方で、出血を来たしやすい、血栓症が増加する、血圧が上昇する、尿タンパクが増える、といった特徴的な副作用が現れることがあります。そうした点を十分に考慮し、安全に投与することができる全身状態や臓器機能であれば、サイラムザとタキソールの併用療法が勧められます」

サイラムザとタキソールの併用療法が標準治療に加えられても、タキソール、タキソテール、イリノテカンの単剤療法という選択肢も残されている。日本では比較的タキソールが使われることが多いが、それぞれ副作用の発現の仕方に違い���ある。タキソールでは末梢神経障害によるしびれ、タキソテールでは発熱性好中球減少症(FN)、イリノテカンでは下痢などの消化器症状が問題となることが多く、そういった副作用の点から薬を選択することもあるという。

「サイラムザの単剤療法も、症状コントロールだけの治療に比べて生存期間を延ばしたという臨床試験結果があり、選択肢となります。タキソールやイリノテカンでは脱毛が起きますが、サイラムザでは脱毛が起きないため、脱毛は絶対に嫌だという患者さんにとっては、選択肢の1つになるかと思います」

タキソール=一般名パクリタキセル タキソテール=一般名ドセタキセル イリノテカン=商品名カンプト/トポテシン サイラムザ=一般名ラムシルマブ

アブラキサンも治療選択肢の1つとして加わる見通し

2次治療では、アブラキサン(週1回法)が、タキソール(週1回法)に非劣性を示す臨床試験結果が、今年(2016年)7月に発表された。

「アブラキサンは、タキソールをナノ粒子化した薬剤です。抗腫瘍効果を発揮する成分はタキソールと同じですが、溶解するのにアルコールを使いません。そのため、アルコール不耐症の患者さんにも使えますし、点滴後に車の運転をしても問題ありません」

さらに、タキソールの投与時には、アレルギーを防ぐために前投薬(ステロイド薬と抗ヒスタミン薬)の点滴が必要だが、アレルギー症状の出ないアブラキサンでは、これが必要ない。

「タキソールの点滴時間は、前投薬も含めて1時間30分ほどですが、アブラキサンは30分で終わります。アブラキサンによる治療は、タキソールと比べて、アルコール不耐症の患者さんにも使える、治療に際して患者さんの拘束時間が短くなった、この2つの点でメリットがあると考えられます」

今回の臨床試験結果が出たことで、今後アブラキサン(週1回法)が、2次治療の選択肢の1つとして加わる見通しだ。一方で、現在承認されているアブラキサン(3週に1回投与法)は非劣性が示せず、また神経障害などの有害事象も増加していた。

アブラキサン=一般名ナブパクリタキセル

臨床試験が進んでいる免疫チェックポイント阻害薬

免疫チェックポイント阻害薬のオプジーボは、胃がんでの第Ⅲ(III)相試験が日本で進行中だ。また、keytruda(キイトルーダ)についても、2次治療でのタキソールとの比較試験が行われており、1次治療の試験も始まっている。

「オプジーボについては、今年中に結果が報告される可能性があります。keytrudaについても、今後1~2年の間に結果が報告されるかもしれません。もちろん結果はわかりませんが、どちらの臨床試験も、第Ⅱ(II)相試験の結果などから、現在使われている抗がん薬に劣らない治療効果を示すだろうと考えられています。他のがん種でも証明されているように、がんが小さくならなくても、長期生存につながる可能性があるのが魅力です。悪性黒色腫(メラノーマ)や非小細胞肺がんのように治療薬として承認されれば、標準治療の1つに加わることが期待されます」

他にも、新たな薬剤の開発が行われており、今年のASCO(米国臨床腫瘍学会)では、IMAB362(抗claudin18.2抗体)という、細胞接着に関わるタンパク質を標的にした抗体製剤についても、良好な治療成績が報告されているという。

たとえ、進行・再発したとしても、確実に選択肢が増えている胃がん治療。今後も新たな薬剤の登場が期待できそうだ。

オプジーボ=一般名ニボルマブ keytruda(キイトルーダ)=一般名pembrolizumab(ペムブロリズマブ)

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