罹患数増加が予想される食道胃接合部がん 手術での胃全摘は極力避ける方向へ
治療ガイドラインに初めて掲載
診断から治療までの流れを見ると、内視鏡検査と病変部の顕微鏡検査で診断が付けられ、食道寄りか胃寄りかによって振り分けられ、治療に進む。しかし、これまでは医療界に、切除術式の選択とリンパ節郭清範囲に関する共通認識がなかった。このため、日本胃癌学会と日本食道学会では、長径4cm以下の食道胃接合部がんにおけるリンパ節転移について全国調査を行い、273施設から3,177例のデータを集積した。
その調査結果をもとに、食道胃接合部がんにおけるリンパ節郭清の暫定的基準としてのアルゴリズム(診断基準)が作成され、2014年5月に発行された「胃癌治療ガイドライン改訂 [第4版]」に掲載された。食道胃接合部がんが治療ガイドラインで取り上げられたのは初めてだった。両学会ではその後、縦隔などのリンパ節転移に関する前向き第Ⅱ(II)相試験も行っている。
胃の全適は必要ない
「大き過ぎる(拡大)手術は必要ないのではというのがポイントです」と瀬戸さん。
アルゴリズムを見ていこう。がんの大きさと部位、組織型、早期か進行か分かれていて、転移があるかないかに関係なく、どこまでリンパ節を取るのがよいかを示している(図4)。

長径4cm以下のがんに対して、胃側と食道部側に分け、胃側の早期がんならば1, 2, 3, 7番という病変部に近いリンパ節を切除する。胸の中の食道に手を付けなくてもよいし、胃の下部も残してよい。進行がんなら、それに加えて8a, 9など遠隔部にあるリンパ節も切除する。
食道側に中心があった場合には、扁平上皮がんか腺がんかを組織学的に診断して、腺がんで早期ならば胃上部の周りのリンパ節を切除するとともに、胸の下縦隔のリンパ節も取ることが1つのオプションになる。進行がんなら肝動脈や脾動脈に沿ったリンパ節も切除する。
一方、扁平上皮がんでは、早期は胃上部周辺のリンパ節に加えて中縦隔と下縦隔のリンパ節を切除。進行がんなら胸の中の上縦隔まで切除することが推奨されている。
「食道側に中心があれば胸のリンパ節も取ったほうがいいというニュアンスです。しかし、どこにも胃下部のリンパ節を切除するという推奨が���いのです。これは、『胃の全適は必要ない』ということです」と瀬戸さん。
これまでなら、長径4cm以下の食道胃接合部がんが胃がんとして扱われた場合には胃の全摘が行われていたが(図5)、そのような大きな手術は必要ないと判断されたことを示しているという。

瀬戸さんによると胃がん全体でも全摘手術は減っていて、瀬戸さんの施設では3年ほど前は約4割の手術で全摘をしていたが、今では2割ほどになったという。
なお食道胃接合部がんにおいて化学療法が必要な場合には、腺がんならば胃がんに準じて*TS-1や*シスプラチンが、また扁平上皮がんならば食道がんに準じて*5-FUやシスプラチンが用いられる。
*TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム *シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ *5-FU=一般名フルオロウラシル
「本当の接合部を見つけ出したい」
治療ガイドラインというお墨付きもあり、認知度を上げてきた食道胃接合部がん。瀬戸さんのところにも「境目にがんができたらしいんです」と訪れる患者もいるという。しかし、まだまだ未知の部分のあるがんなので、今後の研究が待たれる。
「私は、胃にも食道にも分類できない、本当の意味での接合部がんがあると思います。しかし、まだ証明する手立てがありません。胃がんは減るだろうが、食道胃接合部のがんは増えるだろうとみな予想しています。本当の接合部を見つけ出して、特徴を見極めたいです」
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