不明確な点がまだ多い若年者胃がん 生存期間は通常年齢層と変わらず
予後だけで悪性度を判断することはできない
若年者胃がんには通常年齢層とは逆に女性患者が多いことについて、中山さんは「興味深いことですが、若年者を45歳で区切ると男性の比率が上がってきます。女性ホルモンとの関連を調べた報告もありますが、臨床に生かせる有用なデータとはなっていません。女性の発症は一定で、男性が増えて来ていると推測されるので、性差については男性に注目すべきかもしれないとも考えています」としている。
さらに中山さんは「若年者は一般的に主要臓器の予備能が高く、糖尿病や高血圧、心疾患などの併存症のない方も多いため、強度の高い治療が可能です。このため、高い強度の治療を行っているにもかかわらず予後が変わらないということは、腫瘍の悪性度そのものは高い可能性があるとも言えます。しかし、若年者内でも不均一性(heterogeneity)が存在しますし、分子異常などその根拠となる因子が同定されていないため、一般に信じられているように、若年者の胃がんは高齢者に胃がんに比べて進行が速いということを肯定あるいは否定することは難しい状況です。
現時点で言えることは、予後の点で年齢による明らかな違いはないということですが、予後とは患者さんの背景(全身状態 [PS]・臓器機能など)や治療内容(レジメン・強度)など、がんの持つ性質以外の因子が関与した、あくまでも総体としての指標であるため、予後だけで悪性度を判断することはできないと考えています」と述べている。
治療は複数の化学療法
通常年齢層における転移性切除不能・再発胃がんの治療は、まず、HER2陽性かどうかの診断から始まる。陽性か陰性かに分類し、陽性ならば「*カペシタビン(or *フルオロウラシル)+シスプラチン+*トラスツズマブ」、あるいは「S-1+シスプラチン+トラスツズマブ」が、また陰性ならば「S-1+シスプラチン」、「カペシタビン(or フルオロウラシル)+シスプラチン」、「S-1+*オキサリプラチン」、「カペシタビン+オキサリプラチン」のいずれかという組み合わせで投薬していく。
そして、1次治療に抵抗性となった、あるいは副作用などで治療継続が困難となった場合、2次治療として、HER2陽性・陰性にかかわらず、まずVEGFR-2(ヒト血管内皮増殖因子受容体-2)抗体薬の*ラムシルマブと*パクリタキセルの併用療法が考慮され、何らかの理由で適応とならないときに、パクリタキセル、*イリノテカン、ラムシルマブのそれぞれの単独療法が選択肢になる。
中山さんは「1次治療が無効となって2次治療へ移行せざるを得ないときには葛藤が生じます」という。
「2次治療以降の抗がん薬治療では、具体的に苦痛を伴う副作用の出現頻度は高くはなく、生存期間の延長も示されていることから、基本的には治療を行うことを勧めます。再発あるいは転移が明らかとなったことも、患者さんやその家族にとって十分につらい事実ではあります。さらに、それを乗り越えて、副作用にも耐えながら治療をしてきた結果、増悪が見られたという事実に直面したときのショックも大きいものです。ただ、次の治療選択がある中で『治療をやらない』選択をすることはかなり勇気がいる選択だと思います」(中山さん)
*カペシタビン=商品名ゼローダ *フルオロウラシル=商品名5-FU *トラスツズマブ=商品名ハーセプチン *オキサリプラチン=商品名エルプラット *ラムシルマブ=商品名サイラムザ *パクリタキセル=商品名タキソール *イリノテカン=商品名カンプト・トポテシン
女性には厳しい副作用
これまでに抗がん薬治療を望まなかった患者もいたというが、中山さんは「治療を受けると決めたらそれを信じること。結果は保証できませんが、治療に至るプロセスが大事です」と治療に対する受け止め方を説く。
特に若い女性については、2次治療に入る場合に大きな葛藤が生じるという。ラムシルマブ以外の使用薬剤による副作用で脱毛の頻度が高いからだ。
「髪が抜けてしまうのは、時間が限られている女性としてはつらいことです。親御さんは受けてもらいたいけど、患者さん本人はそれでがんが治るわけではないので踏み切れないというケースが見られることがあります。時間をどう過ごすかは難しい問題。本人や家族の思い、そして両親の間でも思いの違いがあります。みなさん違ったバックグラウンドをお持ちなので、それぞれの思いを踏まえつつ、現実的な道を提案しなければならないと思っています」(中山さん)
将来的には分子学的な診断に基づく新しい治療を
中山さんはある16歳の少女の治療例を話した。
「症状があって内視鏡検査で胃がんが見つかりました。カルテを見るとつらいですね。医師や看護師と話しているのは、学校に行きたい、部活に出たい、退院したらカラオケに行きたいなど、治るのを楽しみにしているコメントばかり。気持ちが伝わってきました」
30代半ばの中山さんは、同世代の胃がん患者さんと出会うこともある。背負っているものが大きい年代だけに、本人の悲痛さも伝わり、何とか助けたいという思いも強まる。
「若年者胃がんは、臨床病理学的な裏に分子学的な異常あると思うので、将来はそこに踏み込んで今より良い治療法を見つけたいと考えています」
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