術前のスコア評価により術後合併症や全生存率の予測も可能に 進行胃がんに対するグラスゴー予後スコアが予後予測に有用
GPSががん悪液質を反映する指標に
CRPとAlbを組み合わせたGPSは、がん患者の予後予測因子として有用性が多数報告されてきたが、近年、GPSががん悪液質を反映する指標であることが示され、改めて注目されているという。
「がん悪液質の客観的な診断基準は、現在までのところ、まだ確立までには至っていません。しかし、GPSを用いることで、がんの患者さんの栄養状態を、①正常、②低栄養、③前悪液質、④悪液質に分類することができます。そして、この評価が治療方針にも寄与することが明らかになってきました」
「例えば、②の低栄養と判定された患者さんに対しては、早期から支持栄養療法を行うことが、予後の改善のためにも重要になる可能性がある」と大島さんは指摘する。
一方、③の「前悪液質」や④の「悪液質」と判定された患者に対しては、支持栄養療法を行うだけでは効果が低いことも多い。また、手術ができた場合でも、術後合併症の頻度が高くなるとの報告もあるという。
<術前のGPS評価と予後との関連性>
GPSが手術に伴う合併症に影響することが明らかに
大島さんらのグループは、進行胃がんの患者を対象に、手術前のGPSによる評価が、その患者の予後にどのように関わっているかを調べる研究を行った。
研究では、2003年1月~2014年6月の間に、神奈川県立がんセンターにおいて、根治切除が可能なステージⅡまたはⅢの胃がんと診断され、胃切除術を行った患者636例を対象とした。
この中から、術前化学療法を行った症例、重複したがんが見つかった症例、根治切除術ができなかった症例などを除いた337例を対象にして、術前のGPSと臨床病理学的因子および生存率との関係について検討を行なった。
患者337名を手術前のGPSにより、0~2のスコアに分類すると、0が302例、1が26例、2が9例だった。
GPSが「0」の302例と、GPSが「1または2」の35例で、臨床病理学的因子を比較したのが表2である。

「臨床病理学的因子との関係では、年齢、腫瘍浸潤の深さ(深達度)、ステージ(病期)、術中・術後合併症と関係のあることがわかりました。栄養評価の指標であるGPSが、手術に伴う合併症にも影響することが明らかになったのです」
予後予測できることで個別化治療が進む
生存率との関係についても検討している。GPSが「0」のグループと、GPSが「1または2」のグループの術後の生存率を示したのが図1である。

「GPSが0のグループの5年生存率は77.4%でした。それに対し、GPSが1または2のグループの5年生存率は60.0%で、有意(P=0.001)に不良であるという結果になりました。
胃がんの予後を予測する因子はいろいろありますが、統計学的な解析(Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析)の結果でも、GPSが1または2であることは、進行胃がんの独立した予後不良であることがわかりました(ハザード比: 2.384, 95%CI[信頼区間]: 1.448-3.924, p=0.019)」
このように、進行胃がんの場合、手術前にGPSを評価することによって、患者の予後や術後合併症の起こりやすさを予測することができる。
「こうした予測に基づいて、より早期から支持栄養療法の介入を行うなど、一人ひとりの患者さんに合った治療を行うことが可能になります。つまり、予後が予測できることで、個別化治療を進めていく可能性があると考えられるのです」
こうした研究成果により、術前のGPS評価が、進行胃がんに対する治療成績の向上をもたらすことが期待されている。
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