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副作用を抑え、治療を継続することが大切 高齢者の進行胃がんの治療は特性に応じた治療を

監修●佐藤 温 昭和大学病院腫瘍内科診療科長・准教授
取材・文●柄川昭彦
発行:2012年6月
更新:2019年8月

TS-1単独療法でも十分な効果が

[図5 TS-1+シスプラチンの効果(年代別解析)]
図5 TS-1+シスプラチンの効果(年代別解析)
 
[図6 TS-1のグレード3以上の副作用累積発現率]
図6 TS-1のグレード3以上の副作用累積発現率
 
[図7 TS-1治療スケジュールと投与量]
図7 TS-1治療スケジュールと投与量

The Tokyo Cooperative Oncology Group 2008/10/31 Sato A, et al ; ASCO GI 2009 #82

前に紹介したSPIRITS試験では、年代による解析も行われている(図5)。

左側に寄っているほどTS-1+シスプラチン併用療法が有用であることを意味し、右側に寄るほどTS-1単独療法が有用であることを意味している。

「60歳未満は併用療法がいいが、60歳以上になると、併用療法でもTS-1単独療法でも、有用性は変わらない。それなら、単独のほうがいいと言えます。ただ、これは後から行った解析なので、しっかりしたエビデンス(根拠)というわけではありません」

高齢の患者さんを対象に、TS-1単独療法を行った臨床試験もある。東京がん化学療法研究会が行った試験では、75歳以上の手術ができない胃がん患者に対し、TS-1単独療法を行い、その効果と安全性を調べている。

「その結果、生存期間中央値は15.7カ月で、単独療法でも非常によい成績が得られました。この臨床試験では、腎機能に応じてTS-1の投与量を調節しており、それがよかったのだと考えられています」

腎機能を示すクレアチニンクリアランスの値が低いと、重い副作用の発現率が高まることがわかっている。とくに50ml/分未満になると、はっきりと発現率が高くなる(図6)。腎機能が低下すると薬の排泄が不十分になり、副作用が出やすくなるのだ。

そこで、クレアチニンクリアランスが50ml/分以上なら基準投与量にし、30~50ml/分未満なら薬の量を1段階減量して投与した(図7)。

「75歳以上の高齢の患者さんでも、腎機能を考慮して慎重に投与すれば、TS-1単独療法は安全に行うことができますし、十分な効果も得られるのです」

副作用をコントロールしできるだけ治療を継続

TS-1は経口剤なので、入院治療は必要ないし、点滴のために拘束されることもない。そういった利便性が経口剤の利点だが、経口剤であるが故の問題点もある。注射なら医療者が管理できるが、経口剤は患者さん自身が管理し、きちんと服用しなければならない点だ。

「服用しなければ効かないわけですから、これは非常に重要です。認知機能に問題があるなど、自分で管理するのが難しい場合には、ご家族や訪問看護師に服薬の管理を依頼することもあります」

飲み忘れも問題だが、服用したことを忘れ、2回分飲んでしまうのは非常に危険だ。

TS-1の副作用は、粘膜障害(口内炎、胃炎、下痢など)、皮膚障害(皮膚の黒ずみなど)、骨髄抑制(白血球減少、貧血、血小板減少など)が主なものである。

「副作用が出てもそれほど怖がる必要はありません。代謝の問題で、血中濃度が高くなるために起きているのです。そういう人は投与量を減らしても効果を維持できます。減量して副作用を軽減し、治療を長く続けることを考えてください」

手術できない進行胃がんの治療目的は、延命と症状緩和にある。副作用が出たら、減量や休薬でコントロールし、QOL(生活の質)をできるだけ維持しながら、治療を継続することが大切なのである。

TS-1が効かなくなった場合、2次治療としては、タキソール()単独、タキソテール()単独、イリノテカン()単独、イリノテカン+シスプラチン併用などが行われる。ただし、効果よりも副作用のほうが大きい場合、抗がん剤治療をやめることが最良の治療となる。

タキソール=一般名パクリタキセル
タキソテール=一般名ドセタキセル
イリノテカン=商品名トポテシン/カンプト

治療の新しい選択肢ハーセプチンが登場

昨年から、胃がんの治療にハーセプチン()が使えるようになった。これまで乳がん治療に使われていた分子標的薬で、胃がん治療にも有用であることが確認され、使えるようになったわけだ。

ただし、この薬が効くのは、がん細胞にHER2という遺伝子が発現している場合に限られる。HER2陽性の胃がんは、胃がん全体の約2割といわれている。

HER2陽性の手術不能進行胃がんに対しては、ゼローダ()+シスプラチン+ハーセプチン併用療法が行われる。高齢者でも、この治療が可能なら行うが、副作用が強すぎる場合は、シスプラチンを抜き、ゼローダ+ハーセプチン併用療法とする。

「HER2陽性の患者さんにとっては朗報です。調べていない人は、ぜひ調べるべきですね。HER2陽性なら、1次治療としてハーセプチンが使われます。すでにTS-1で治療していた人なら、それが効かなくなった後で、2次治療としてハーセプチンを使ってもよく効きます」

ハーセプチンは従来の抗がん剤のような副作用は少ないが、心機能に影響を及ぼすという問題がある。高齢者は、治療を開始前に心機能をチェックしておくとよいだろう。

ハーセプチン=一般名トラスツズマブ
ゼローダ=一般名カペシタビン


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