1. ホーム  > 
  2. 各種がん  > 
  3. 胃がん
 

センチネルリンパ節生検の併用で、より確実な温存が目指せる可能性も 進歩する腹腔鏡下での低侵襲手術

監修●北川雄光 慶應義塾大学医学部外科学教授・慶應義塾大学病院副院長/腫瘍センター長
取材・文●平出 浩
発行:2012年6月
更新:2019年8月

センチネルリンパ節生検で不要な切除を減らす

[図6 センチネルリンパ節生検を活用した切除範囲縮小の可能性]
(幽門側胃切除術の場合)
図6 センチネルリンパ節生検を活用した切除範囲縮小の可能性

乳がんなどではすでに日常的に行われているセンチネルリンパ節生検()が、胃がんでも注目されるようになった(図4、5)。

センチネルリンパ節とは、がんが最初に転移するリンパ節のことである。センチネルリンパ節にがんがなければ、その先のリンパ節にもがんはないと考えられる。そのため、センチネルリンパ節の生検を行って、がんが認められなければ、リンパ節を郭清する必要はないことになる。このような判断を利用すれば、切除範囲の縮小も可能だ。

「開腹であれ、腹腔鏡下であれ、幽門側胃切除術では、胃を3分の2ほど切除します。その切除は、がんを取るためだけに行うのではありません。胃のリンパ節を郭清するには、胃を3分の2ほど切除して、ある一定の血管とその周りのリンパ節を一緒に取る必要があるためです。もしリンパ節に転移がないとわかれば、胃の切除範囲を大幅に縮小することができるのです」(北川さん)(図6)

1期の胃がんの転移率は10~15%ほどである。逆にいうと、85~90%の患者さんには転移がない。にもかかわらず、現状では、その転移のない患者さんを含めてリンパ節郭清が行われている。それは転移がある可能性を否定できないためである。しかし、胃がんのセンチネルリンパ節生検が確立すれば、この問題はかなり改善されるだろう。

[図4 センチネルリンパ節の中に見つかった小さながん転移]
図4 センチネルリンパ節の中に見つかった小さながん転移
[図5 センチネルリンパ節]
図5 センチネルリンパ節

生検=生体検査の略。患部の一部を顕微鏡などで調べる検査

生検の転移検出感度は93%と高い

センチネルリンパ節生検を行う手術法は、開腹か腹腔鏡下かを問わない。センチネルリンパ節生検は手術と並行して行われ、診断も手術中に行われる。転移検出感度は93%と高い。

胃がんのセンチネルリンパ節生検が対象になるのは、がんの大きさが4㎝以下で、がんが粘膜下層にと���まる場合である。これを逸脱するケースに行ってしまうと、「センチネルリンパ節と考えられるリンパ節には転移がないにもかかわらず、ほかのリンパ節に転移がある」という”誤診”が起きる可能性が高まる。

このように生検を行える対象には制約があるものの、非常に期待されている検査だ。

北川さんは次のように話す。

「胃がんのセンチネルリンパ節生検は現在、臨床研究の段階であり、今はまだ全国10数カ所の先進的な施設でしか実施していませんが、縮小手術や機能温存手術の観点からも、今後、非常に有用な検査として広がっていく可能性が高いです」

幽門や噴門を残す縮小手術でQOLを保つ

胃の噴門や幽門を切除すると、手術後に患者さんのQOL(生活の質)が下がる可能性がある。

「噴門は食道から胃に行く通り道で、関門でもあります。そこには弁があって、胃の内容物が食道に逆流するのを防いでいます。噴門を切除し、胃の下半分と食道をつなぐ手術をすると、その弁がなくなるために、胃の内容物が食道に流れやすくなり、手術後に胃食道逆流症が起こることがあります。同様に、胃から十二指腸につながる幽門を切除すると、手術後にダンピング症候群という症状が起こることがあります。これは胃に入った食べ物がすぐに腸に達するために、めまいや動悸 、倦怠感などの症状が現れるものです」(北川さん)

手術後のQOLを高く保つには、噴門や幽門を残すことが大切であることがわかる。さらには、低侵襲手術で自律神経を温存できれば、術後合併症で比較的よくみられる胆石ができにくくなったり、手術後の患者さんの食生活に関するQOLを高く保つことが期待できる。

それらのためにも、センチネルリンパ節生検は重要な役割を果たしうると、北川さんは強調する。センチネルリンパ節生検による客観的な評価のもと、胃を大きく切除しなくて済む可能性が高まるからだ。

胃がんの低侵襲治療の今と未来には、多くの可能性がありそうだ。


1 2

同じカテゴリーの最新記事