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消化管閉塞に画期的治療、進行胃がん・膵がん患者さんの生活の質が大幅改善 胃・十二指腸が閉塞してもステント留置で食事が可能になる!

監修●前谷 容 東邦大学医療センター大橋病院消化器内科教授・診療部長
取材・文●柄川昭彦
発行:2011年6月
更新:2019年8月

金属製のステントを閉塞部位に留置する

ステントは写真3のような筒状の構造をしている。ニッケルとチタンの合金だが、金網状なのでたたむと細くなり、内視鏡を使って口から消化管の中に送り込むことができる。

「たたんだステントを、狭くなった部位や閉塞した部位に挿入し、開く状態にして留置します。すると、ステントの広がろうとする力で、塞いでいた組織が押しのけられます。こうして食べたものが通過するようになるわけです」(図4)

[図4 ステント留置療法の仕組み]
図4:ステント留置療法の仕組み

1993年、世界で初めて内視鏡で十二指腸にステントを入れた前谷さんは、豊かな経験からこう話す。

「ステントの治療で閉塞がなくなると、患者さんは食事ができるようになりますし、おう吐に苦しめられることもなくなります。胃がんや膵がんがよくなるわけではありませんが、患者さんのQOL(生活の質)は大幅に改善します」

食事ができるようになるという点では、バイパス手術とステント留置療法は同じである。では、この2つの治療法、どちらが優れているのだろうか。

[写真3 胃・十二指腸ステントの特徴]
写真3:胃・十二指腸ステントの特徴

胃・十二指腸ステントは、直径22ミリの筒形をした金網で、たたむと3.3ミリの細いカテーテルに収まる。自由に曲がるので、屈曲した臓器に留置でき、穿孔などの合併症が起こりにくい。
     (写真提供:ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社)

ステントは治療が楽で食事開始までが短い

[表5 ステント留置とバイパス手術の比較(胃がんのみ)]

  ステント
(症例数=22)
バイパス
(症例数=22)
手術時間(分) 30 118
経口摂取までの期間(日) 2 8
生存期間(日) 65 90
術後在院期間(日) 19 28
Maetani I, et al. J Gastroenterol 2005;40:932-7.

バイパス手術とステント留置療法で大きく異なるのは、どんな患者さんが治療対象となるかである。

「バイパス手術は全身麻酔が必要ですし、開腹手術なので、全身状態が低下している患者さんには行えません。その点、ステントは内視鏡で入れられるので、麻酔の必要はなく、鎮静剤が使われるだけ。かなり高齢の患者さんでも、体力が落ちていても、無理なく行うことができます」

また、東邦大学医療センター大橋病院のデータでは、治療時間、経口摂取までの期間、治療後の入院期間、全身状態が改善した患者さんの割合などで、ステント留置療法のほうが優れているという結果が出ている(表5)。

治療時間に関しては、内視鏡でステントを留置してくるだけだから、開腹して胃と小腸をつなぐ手術より短いのは当然だ。バイパス手術は2時間弱かかるが、ステント留置療法は30分。前谷さんの場合、ほとんどが15~20分で終わるという。

経口摂取までの期間も、ステント療法が1~2日なのに対し、バイパス手術が8~9日と、1週間ほどの差がある。

また、治療後の入院期間も、ステント留置療法がバイパス手術よりかなり短くなっている。

「早く食べられるようになり、早く家に帰れるということです。これらの点に関しては、明らかにステント留置療法が優れているといえます」

問題点は合併症と再閉塞

ただ、ステント留置療法に問題がないわけではない。合併症や再閉塞についても知っておく必要がある。

「最も重要な合併症は穿孔です。ステントで腸管が傷つき、孔が開いてしまうもので、起きた場合は大変です。ただ、発生頻度はさほど高くなく、1パーセント前後といわれています」

再閉塞に関しては、バイパス手術が成功した場合にはほとんど起こらないが、ステント留置療法では比較的よく起こる。ステントが金網状なので、そこから増殖したがん組織が侵入し、通り道を塞いでしまうのだ。

「再閉塞が起こった場合には、追加でステントを入れたり、侵入してきた組織を電気で焼いてしまう治療を行ったりします」

再閉塞は比較的よく起こるが、対処法はあるので心配することはないようだ。

「今後、化学療法の進歩などで、根治手術ができなくても、かなりの長期生存が可能な時代になれば、バイパス手術のよさが見直されるようになるかもしれません。しかし、現時点では、胃・十二指腸閉塞を起こした患者さんの余命はかなり厳しいのが現実です。残された期間のことを考えれば、やはりステント留置療法のほうが有利でしょう」

残された期間があまり長くないとしたら、患者さんが”もう手術は受けたくない”と考えるのは、当然かもしれない。

ステント留置療法の後はほとんどを家で過ごす

[写真6 内視鏡で見た、ステント留置前から
     留置後への変遷(胆のうがん・女性・96歳)]

写真6:内視鏡で見た、ステント留置前から留置後への変遷

ステント留置療法が好結果をもたらした例を紹介しよう。

胆のうがんが進行し、胃・十二指腸閉塞を起こした96歳の女性(写真6)。根治手術はできず、ステント留置療法を受けた。1日後にはステントが拡張。すぐに経口摂取が可能になり、退院して自宅療養となった。

2カ月後と4カ月後に吐き気を訴えて入院したが、内視鏡検査で再閉塞がないことが判明。お粥なら食べられることを確認して退院となった。

その後も自宅療養を続け、ステント留置から185日後に自宅で亡くなった。この間の入院日数は25日。おう吐は1度もなく、亡くなる直前まで経口摂取が可能だった。

「この患者さんには、ステント留置療法以外は無理だったと思います。このように長期生存が可能になった例ばかりではありません。ただ、たとえ短い期間だったとしても、食事ができ、家に帰れることで、患者さんもご家族も喜ばれることが多いですね」

ステント留置療法は、患者さんにも医療者にも、十分に認知されているとはいえない。

この治療が広く行われるようになることを期待したいものである。


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