1. ホーム  > 
  2. 各種がん  > 
  3. 胃がん
 

ステージ2と3では補助化学療法としてTS-1の術後1年間服用が標準治療に 胃がん術後の再発を抑えるエビデンスが登場した!

監修●桜本信一 北里大学医学部外科講師
取材・文●柄川昭彦
発行:2009年4月
更新:2019年8月

TS-1投与群の生存率が手術単独群を上回った

臨床試験の結果をよく表わしているのが、図1の全生存率を示したグラフである。「TS-1投与群」が「手術単独群」を上回っているのがよくわかる。3年生存率で比較すると、「TS-1投与群」が80.1パーセント、「手術単独群」が70.1パーセント。術後補助化学療法としてTS-1を加えることで、生存率が向上することが明らかになった。

[図1 手術単独とTS-1服用の生存期間の比較]
図1 手術単独とTS-1服用の生存期間の比較

出典:Sakuramoto et al. N Engl J Med 2007;357:1810-20

再発せずに生存している無再発生存率で比較したのが、図2に示すグラフである。3年無再発生存率を比較すると、「TS-1投与群」が72.2パーセント、「手術単独群」は59.6パーセントになっている。やはり、大きな差でTS-1の有効性が証明された。

[図2 手術単独とTS-1服用の無再発生存期間の比較]
図2 手術単独とTS-1服用の無再発生存期間の比較

出典:Sakuramoto et al. N Engl J Med 2007;357:1810-20

「こうした結果が出たために、この臨床試験は早期有効中止となりました。本来であれば、それぞれの患者さんの5年後まで観察してデータをまとめるのですが、中間解析ではっきりと有効性が証明されたので、これ以上比較検討を続ける必要はないということになったのです。倫理的にも、このまま試験を続けるより、早くデータを公表すべきだという判断でした」

臨床試験では、まれにこうしたことが起こる。早期有効中止になったということは、TS-1の有効性が予想以上に優れていたことを意味する。

臨床試験の結果を、もう少し細かく見てみよう。

ステージ毎の生存率は、ステージ2でも、3Aでも、3Bでも、「TS-1投与群」が「手術単独群」を上回っていた。

ステージ2では、「TS-1投与群」の3年生存率が90.7パーセントで、「手術単独群」の3年生存率が82.1パーセント。ステージ3Aでは、77.4パーセントと62.0パーセント。ステージ3Bでは、63.4パーセントと56.6パーセントだった。

『胃癌治療ガイドライン』

年内発刊予定の最新版『胃癌治療ガイドライン』でTS-1術後化学療法が標準治療として掲載予定。

患者さんの年代別の成績では、60歳未満でも、60~69歳でも、70~80歳でも、「TS-1投与群」の生存率が「手術単独群」の生存率を上回るという結果になっていた。年代に関わらず、TS-1による術後補助化学療法が有効だったということだ。

さらに、胃がんの手術が「全摘」であっても、「部分切除」であっても、「TS-1投与群」の生存率は、「手術単独群」の生存率を上回っていた。手術の術式に関わらず、効果があることがわかったのである。

こうした結果が明らかになったことで、現在では、ステージ2と3の術後補助化学療法は、TS-1を1年間投与するのが標準治療となっている。

『胃癌治療ガイドライン』は2004年版が最新版なので載っていないが、インターネットの『胃癌治療ガイドライン速報版』(2008年2月)には、この内容が収載されている。

減量や休薬をしてもTS-1を1年間続けるのが効果的

TS-1にももちろん副作用がある。よく現れる症状は、食欲不振、悪心、下痢などだ。

副作用と思われる症状がみられた場合には我慢せず医師や看護師さんに遠慮無く相談することが大事。この臨床試験では、副作用が出たときには、投与量を減量したり、休薬期間を延長したり、「4週間服用し2週間休薬」を「2週間服用し1週間休薬」に変更してもいいことになっていた。

こうした方法も使いながら、ともかく1年間にわたって術後補助化学療法を継続できた患者さんは、全体の66パーセントだった。そして、TS-1を投与できた期間によって、生存率に差が出ることが明らかになった。それを示しているのが図3のグラフである。

[図3 TS-1服用期間別の生存期間の比較(術後1年以上生存例)]
図3 TS-1服用期間別の生存期間の比較(術後1年以上生存例)

出典:桜本信一, 日本癌治療学会誌 43:321, 2008

12カ月間継続できた人と、途中で脱落した人を比較すると、継続できた人のほうが長期生存していることがわかる。一方、TS-1の服用量との関係では、計画していた服用量の70パーセント以上を服用していれば、90パーセント以上服用した場合と、生存率はあまり変わらないことが明らかになっている(図4)。ということは、ある程度減量したり、休薬したりしてでも、1年間服用することが望ましいのである。

[図4 TS-1服用量別の生存期間の比較(術後1年間継続例)]
図4 TS-1服用量別の生存期間の比較(術後1年間継続例)

出典:桜本信一, 日本癌治療学会誌 43:321, 2008

「臨床試験では1年間継続できた人が約3分の2でしたが、これは効果があるかどうかわからないという前提だったことが影響していそうです。現在では、TS-1を飲み続けることが再発予防に役立つことがはっきりしています。そのため、何とか続けようという意志が働き、実際に継続できる人の割合は高くなっているのです」

桜本さんによれば、服用を続ける上で最も大変なのは、最初の3カ月間だという。胃がんの手術を受けると、術後1カ月でも、食事量は手術前の3分の1程度が普通だという。その頃から抗がん剤を飲み始めるのだから、体力的につらいのは当り前なのだ。

「3カ月を乗り切るためには、治療に当たる医療スタッフや家族のサポートも必要になるでしょう。減量してもいいし、休薬してもいいので、何とか最初の3カ月間を乗り切って欲しいですね。ここを乗り切ることができれば、だいぶ楽になると思います。TS-1をどうしても服用できないのなら別の薬のUFT(一般名テガフール・ウラシル)を服用することも有用です」

胃がんの治療成績は、手術にTS-1による術後補助化学療法を加えることで、さらに向上することになった。さらに研究が進められるとしたら、どんな内容の研究になるのだろうか。

「術後補助化学療法の期間は1年ですが、ステージ3Bのようにかなり進行している場合には、TS-1の服用期間を延ばすことが再発率を下げるのに役立つかもしれません。あるいは、術前化学療法をやってから手術を行い、それに術後補助化学療法を加えるという方法も考えられます。また、TS-1をベースに、進行再発胃がんの治療に使われているような抗がん剤を加え、多剤併用による術後補助化学療法も可能性があると思います」

いずれ、このような臨床試験が行われることになるのかもしれない。

胃がんの手術後の治療はまだまだ進歩していきそうである。

[TS-1 1年間服用にあたっての留意点]

  • 1コース目に消化器症状や骨髄抑制が発現した場合には、早期に減量または服用期間の変更(2週間服用1週間休薬)も必要です。
  • 消化器症状や疲労感等の自覚症状が継続する場合は、軽快するまで休薬が必要です。
  • 投与スケジュールの変更や減量により、TS-1の服用を1年間継続することが重要です。
  • TS-1の服用が困難な場合はUFTに変更も可能です。
  • 副作用と思われる症状がみられた場合には、我慢せず遠慮なく医師や看護師さんに相談しましょう。


1 2

同じカテゴリーの最新記事