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TS-1とシスプラチンの併用療法で初めて生存期間中央値が1年を超えた! 進行・再発胃がんの最新抗がん剤治療

監修●佐藤 温 昭和大学付属豊洲病院内科准教授
取材・文●吉田健城
発行:2007年9月
更新:2019年8月

副作用が少なく、QOLが改善

この併用療法のもうひとつの長所は副作用が比較的穏やかで、シスプラチンを点滴で投与する期間だけ入院すれば、あとは自宅から通院しながら治療を受けられる点だ。これは制吐剤が開発されてシスプラチン特有の激しい吐き気を抑えられるようになったことに加え、TS-1にはオテラシルカリウムという消化器毒性を抑える成分が含まれているためだ。これによって患者さんはひどい副作用で苦しむことがなくなり、入院期間を最小限にし、通院で治療を受けられるようになった。

「20代の女性患者さんで、前の病院で5-FU、ロイコボリン、メトトレキサート、シスプラチンによる4剤併用療法を受け、その副作用でベッドから離れられない状態になって私どもの病院に転院された方がおられました」

転院後すぐに、このTS-1とシスプラチンの併用療法で治療を開始したところ、4剤併用に比べて強い副作用がないため、開始して2週間ぐらいで体力が回復し、その後は外来管理での治療に切り替えることが可能になった。

転院してきたときは、がんの増悪は見られなかったものの、副作用で食事が取れず、好中球の数値も立方ミリ当たり500以下という状態だったから、QOL(生活の質)が劇的に改善されたわけだ。外来治療に切り替えてからは、シスプラチンを投与する期間だけ入院する以外は自宅で普通に過ごせるようになったので、趣味にたっぷり時間を費やすことができると大変喜んでいたという。

しかし、この併用療法はすべての患者さんに適しているわけではなく、TS-1単剤で治療したほうがいいケースもあると佐藤さんは言う。

「体力が著しく低下している患者さんには、吐き気以外にも腎障害などの強い副作用のあるシスプラチンは避け、TS-1を単剤のほうがいい場合もあります。TS-1は単剤でも生存期間中央値が11カ月という良好な結果が得られているので、どちらを選択するかは、受診されるお医者さんと相談して決めるのがいいと思います」

[TS-1+シスプラチンの副作用1]

  TS-1
(N=150)
TS-1+シスプラチン
(N=148)
グレード1以上 グレード3/4 グレード1以上 グレード3/4
血液学的毒性 白血球数減少 38% 2% 70% 12%
好中球数減少 42% 11% 74% 40%
ヘモグロビン減少 33% 4% 68% 26%
血小板数減少 18% 0% 49% 5%
非血液学的毒性 総ビリルビン上昇 20% 1% 24% 1%
AST(GOT)上昇 11% 2% 10% 0%
ALT(GPT)上昇 9% 1% 12% 0%
ALP(AL-P)上昇 5% 1% 5% 1%
クレアチニン上昇 2% 0% 22% 0%
共通毒性基準(NCI-CTC ver.2.0)に準じて判定

[TS-1+シスプラチンの副作用2]

  TS-1
(N=150)
TS-1+シスプラチン
(N=148)
グレード1以上 グレード3/4 グレード1以上 グレード3/4
全身障害および
投与局所様態
疲労 33% 1% 57% 4%
胃腸障害 食欲不振 37% 6% 72% 30%
悪心 26% 1% 67% 12%
嘔吐 14% 2% 37% 4%
下痢 23% 3% 35% 4%
口内炎 21% 0% 29% 1%
皮膚障害 色素沈着 40% 36%
発疹 19% 1% 22% 2%
手足皮膚症候群 12% 0% 10% 0%
共通毒性基準(NCI-CTC ver.2.0)に準じて判定

TS-1+シスプラチンを凌駕する治療法は?

TS-1とシスプラチンの併用療法の有用性が証明されたことで、進行・再発がんの治療に当たっては、現在これを最初の治療(1次治療)に使い、2次治療をどうするかというテーマで研究が進んでいる。しかしTS-1とシスプラチンの組み合わせ以外はダメなのではない。TS-1とイリノテカンやタキソテールを組み合わせた併用療法は、まだ臨床試験が進行中で、今後「TS-1+シスプラチン」の代わりとなる組み合わせが出る可能性は十分ある。ただ、その組み合わせもTS-1を主体にしたものになることに変わりはない。

「投手は直球と変化球を組み合わせて投げますが、主体はあくまでも直球であって変化球は主でなく従です。今のところ、その直球と、これまで一番実績のあったカーブ(シスプラチン)を組み合わせて投げてみたところ好結果が出た。しかし、スライダーやフォークボールと組み合わせて投げた結果はまだ試合中で、結果が出ていないのです」

佐藤さんはこのように現状をピッチングにたとえてみせた。こう聞くと、大きな希望が見えてきたような気になるが、抗がん剤治療の専門家である佐藤さんは過剰な期待は持つべきではないと警鐘を鳴らす。

「このTS-1にシスプラチンなど、ほかの抗がん剤を組み合わせる治療法は、経験豊富な専門の医師でないと、さじ加減がわからないところがあるんですね。がんの症状や性質は十人十色で、それに対応した投与をしないと好結果を得るのは難しくなります。それと適切な処方をしても、抗がん剤ですから患者さんの体に大なり小なりダメージを与えることも確かで、場合によっては苦しむケースもあることは頭に入れておくべきです」

とはいえTS-1とシスプラチン併用療法が「生存期間中央値1年の壁」を超えたのも事実。TS-1の登場が進行・再発がんの治療に新たな道筋をつけたことは疑問の余地のないところだ。

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