最新標準治療――胃がん編 メスだけではない。内視鏡、腹腔鏡、抗がん剤で治療する時代
早期がんの内視鏡治療
2センチ以下の分化型は内視鏡で

内視鏡を用いて粘膜切除をしているシーン。モニターに映し出されている
胃がんの治療法は、主として内視鏡、手術、抗がん剤の3つありますが、このどれを利用したらよいかは病期によってそれぞれ異なることはすでに述べました。
このうち、内視鏡による粘膜切除は胃局所の治療法ですから、がんが転移していないことが大事な条件です。折角治療をしても、すでに治療箇所以外にがんがあればそれがどんどん増殖することになり、治療した意味がなくなるからです。
ことに内視鏡は、お腹にメスを入れずにすむので傷や痛みがさほどなく、回復も早くて患者にとってはメリットが大きいのですが、リンパ節の治療ができません。ですから、リンパ節に転移のないがんが適応の条件で、ガイドラインでは、「胃壁の粘膜だけに留まっているがんで、がんの大きさが2センチ以下の分化型のがん、病巣内に潰瘍の痕が見られないがん」となっています。この範囲なら、これまでの経験とデータからがんが転移することはほとんどなく、治る可能性が高いからです。
胃壁は、内側から外側に向かって、粘膜、粘膜下層、筋層、しょう膜下層、しょう膜の5層からなっています。この壁の浅いところ(粘膜下層)にがんが留まっているのが早期がんです。
「早期がんの中でも、粘膜内のがんで2~3パーセント、粘膜下層まで進んでいると、15~20パーセントのリンパ節転移の可能性があります。胃がんには分化型のがんと未分化型のがんがありますが、未分化型のがんは小さくてもリンパ節に転移することがあるため、原則として内視鏡治療の対象からから外されているのです」(山口さん)

もう1つ、ガイドラインで「大きさが2センチ」となっているのは、内視鏡で病巣を一括して取れるのが技術的に2センチが限度であったためでもあります。
最近、内視鏡技術の進歩が著しく、もっと大きな胃がんをと、内視鏡的粘膜下層剥��術(ESD)と呼ばれる新しい方法が生まれています。
特殊な器具と熟練した技術が必要で、まだ一部の医師しか行っていませんが、こうした技術が安定的にできるようになれば、将来、この枠はもっと広がる可能性があります。ただ、現段階では、技術的にまだその域までは達していず、胃に穴を開けてしまう確率も少し高いようです。やはり胃壁の深いところまで大胆に取り除こうとするためのようです。
もっとも、内視鏡に対する誤解も多く、山口さんはこう注意を喚起しています。
「内視鏡は患者にやさしいと言われますが、結構手術に時間がかかります。時には外科手術よりも長くかかることもありますし、穴が開いたり出血したりのリスクもあります。また、取ったけれども、深くまでがんが及んでいたり血管やリンパ管に入り込んでいて適応でなかったりすると、結局、手術をし直さなければならない破目になることもあります」

胃切除手術
2/3切除とリンパ節郭清
胃がんの治療には、前述したように、内視鏡、抗がん剤などがありますが、メインはやはり手術です。適応の範囲は広く、早期がんから進行がんまであり、その方法も普通の胃切除(定型手術)に始まり、縮小手術、拡大手術、緩和手術とさまざまあります。
普通の胃切除とは、胃を切除するだけではありません。胃の3分の2以上の範囲を切除するとともに、第2群までのリンパ節(胃に接したリンパ節と、胃に流れ込む血管に沿って存在するリンパ節)も取り除くのです。このリンパ節切除のことをD2郭清と言います。郭清とは、リンパ節だけではなく、周囲の脂肪組織までひっくるめて取り除く方法です。
「手術で大事なのはまず、がんのできる場所です」と山口さんは指摘します。
できる場所で多いのは、胃の半分よりも下側(出口側、幽門側)です。この場合は、胃の出口のほうを切除します(幽門側胃切除という)。問題は、がんが胃の上のほう(入り口側、噴門側)のある場合です。
「入り口よりの胃を半分ぐらい切除したり、全摘したりしますが、この場合、残った胃と食道をつなぐと、逆流性食道炎などの後遺症が起こりやすいのです。そこで、残った胃と食道の間に小腸を挟んでつなげると逆流性食道炎が起こりにくくなります。しかし、手術は複雑になり、難しくなるんです」(山口さん)


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