新しい抗がん剤TS-1やタキソールの出現で生存率も上昇 ここまで進んでいる進行・再発胃がんの化学療法
患者自身も副作用に注意すべき
もっとも、TS-1は経口薬でシスプラチンは4週間に1度、1時間程度の点滴による投薬が可能で、そのために外来での治療が中心になる可能性もある。その場合にはやはり、患者自身が副作用に注意を払う必要もあると小泉さんは指摘する。
「これはシスプラチンと併用している場合に限りませんが、TS-1を使っているときに下痢や38度以上の発熱、さらに皮疹などの皮膚症状が起こった場合には、使用を中断して医師に相談すべきです。また患者さんの中には、薬を変えた後も、前に使っていた薬の残りを服用する人もいますが、これは絶対にやってはなりません。同じ系列の薬剤であれば副作用が倍加され、危険このうえありません。薬剤を利用する際にはすべてを医師任せにするのではなく、患者さんにもその薬剤について勉強していただきたいですね」
| (n=101) | グレード | ≧グレード3 (%) | |||
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 2 | 3 | 4 | ||
| 白血球減少 | 28 | 15 | 2 | 0 | 2 |
| 貧血 | 12 | 16 | 5 | 0 | 5 |
| 血小板減少 | 5 | 2 | 0 | 0 | 0 |
| 口内炎 | 10 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 下痢 | 7 | 1 | 2 | 0 | 2 |
| 皮疹 | 8 | 4 | 0 | 0 | 0 |
| 色素沈着 | 20 | 0 | 0 | ー | 0 |
| 悪心・嘔吐 | 8 | 0 | 0 | ー | 0 |
| 倦怠 | 9 | 1 | 1 | 0 | 1 |
Koizumi et al., Oncology 58: 191-197, 2000
ちなみに小泉さんはTS-1を利用するときには、患者や家族にこの薬剤について書かれた小冊子を手渡していると���う。
また、もうひとつ知っておきたいのは、この2つの薬剤の組み合わせが最後の治療法ではないことだ。小泉さんは副作用、薬剤耐性などによる有効性の喪失が失われた場合に備えて、すでに第2、第3の治療プランも組み立てているという。
「最近では同じ進行胃がんでも症状によって薬剤の効果が違っていることもわかっています。そこでTS-1が使えなくなった場合には、そのことを踏まえて異なる治療法を提案しています。たとえば腹水が著しい患者さんには、セカンドラインとして2週に1度のペースでタキソールを利用してもらい、サードラインとしてイリノテカンとシスプラチンの併用療法を提案しています。肝転移が目立つ人の場合には同じ治療を逆の順序で行ってもらうといった具合です。そうしてさまざまな薬剤を活用して、生存期間を引き延ばしているのです」
抗がん剤と手術でがんから開放される
こうして医療現場では、すでに進行・再発胃がんをターゲットにした新たな抗がん剤治療が行われ始めている。さらに見逃せないのは、そうしたなかで「がんを治す」新たな治療法が浮かび上がっていることだ。
「私の経験でいえば、抗がん剤だけでがんが消えたケースは、これまで手がけた500例近い症例でわずか2例に限られています。抗がん剤で見かけ上は腫瘍がなくなっても、実は原発巣の奥深くに小さな腫瘍が残っており、それが再発・転移につながっていくことが少なくないことを考えると、これらは例外的なケースと考えるべきでしょう。しかし、そこまではいかなくても、肝臓や大動脈周囲のリンパ節転移、膵臓にがんが浸潤している場合で、転移巣が2~3センチ以内に収まっていれば、積極的な抗がん剤治療に手術を加えることで、がんを消滅できる可能性もあるのです」
そういって小泉さんは36歳の女性進行胃がん患者のケースを示してくれた。
その患者はがんが発見されたときには、すでに肝転移が起こっており、肝臓に2つ、2~3センチの腫瘍が見つかっていた。小泉さんはその患者にフルツロンとシスプラチンの併用による5コースの抗がん剤治療を施した。一般的に見れば、それでも生存期間が9カ月に引き延ばされれば、治療効果が認められるところだ。
しかし、その女性の場合には抗がん剤治療によって肝臓に転移していた腫瘍は2つとも消滅し、胃の原発巣も大幅に縮小した。そこで外科手術で原発巣の腫瘍を切除しているのである。ちなみにこの女性患者の治療が行われたのは14年前で、現在もその患者は健康に暮らしているという。現在まで再発は起こっておらず、年に1度、定期健診を受けている程度だという。ここまでくれば完全にがんから開放されているといっていいだろう。
「顔を合わせるたびに元気ですよ、と明るい笑顔を見せてくれる。その笑顔を見るとムクムクとやりがいがわき起こってきます」
と、小泉さんは破顔する。
現段階では症例数はそう多くないが、他にも同じように抗がん剤治療に手術を加えることでがんから開放されている人たちもいるという。
抗がん剤の進歩により、ここまでの治療が可能になっているのだ。やっかいな進行・再発胃がんによる受難を最小限に抑えるために、さらなる治療の進歩に期待したい。

36歳の女性。胃にできた大きな腫瘍

右下のあたりに腫瘍が見える

内視鏡で見た腫瘍。中央に見えるのがそれ
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