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胃がん手術後の後遺症と対策 なぜ後遺症は起こる? 不快な症状を緩和する方法は?

監修●鈴木 裕 東京慈恵会医科大学消化管外科医局長
取材協力●胃を切った人友の会「アルファ・クラブ」
取材・文●池内加寿子
発行:2006年7月
更新:2019年8月

術後に起こりやすい後遺症は?
術後3年目までは、ダンピング症候群、つかえ、やせ、下痢が多い

後遺症の症状として多いのは、おなら、疲れ、やせ、ダンピング症候群、下痢、つかえなどです(下グラフ参照)。このほか、逆流性食道炎、腸閉塞、栄養障害、骨量の減少や骨粗鬆症などもよくみられます。

[後遺症の症状]
図:後遺症の症状

(アルファ・クラブ2004年アンケート結果より/対象者=術後3年以内の会員319名)

ダンピング症候群

ダンピングとは墜落するという意味で、食物が胃にとどまらずに、急速に腸まで落ちてしまうことを表しています。胃の中で撹拌され、少しずつ腸に送り出されていた食物が、胃切除後は、未消化のまま一度に腸に流れ込むために、血糖値の変動や各種ホルモン分泌などによって、不快な諸症状が起こるのです。

ダンピング症候群は、食事中から食後30分以内に起きる「早期ダンピング症候群」と、食後2、3時間たってから起こる「後期ダンピング症候群」がありますが、区別がつかない場合もあります。

症状の組み合わせや頻度は、手術の範囲や方法によっても違います。幽門を残す幽門保存胃切除術(PPG)ではダンピング症候群の発生頻度が低く、ビルロート2法はビルロート1法より頻度が高いといわれていますが、個人差も大きく、人それぞれ異なります。

[食事後の血糖値の変化(ダンピング症候群)]
図:食事後の血糖値の変化(ダンピング症候群)

『胃を切った人の後遺症の克服』(協和ブックス)より

早期ダンピング症候群

ご飯やうどんなどの炭水化物が一度に小腸に入ると、急速に小腸壁から糖として吸収され、血糖値が上がります。また、未消化な食物が一度に腸に入ることで、セロトニンなどの神経伝達物質や消化管ホルモンが分泌されて、血液が毛細血管に移動し、全身の循環血が相対的に不足するため、血圧低下、脳貧血、めまい、動悸、脱力感、冷や汗などの全身症状が現れます。

同時に、腸液や腸管内に移動した毛細血管の水分によって、腸が水ぶくれ状態になり、腹部膨満感、腹痛、おなかが鳴るなどさまざまな腹部症状が起こります���消化されていない食べ物は、腸で吸収されずに素通りし、下痢便となります。

対策

胃の切除後には共通して言えることですが、1日の食事を5~6回に分けて、少量ずつゆっくり食べましょう。胃の機能を口で肩代わりさせるつもりで、1口20~30回を目安によくかみ、消化作用のある唾液と混ぜ合わせ、少しずつ飲みこむのがコツ。1度に腸に流れこまないように、次に飲み込むまでの時間を調節します。

食後の高血糖を防ぐため、ご飯、パン、うどんなどの炭水化物や甘いものは控えめに。食事中の水分も少なめにします。脂肪の多い料理やアイスクリームなどを多くとると胆汁や膵液とうまく混ざらず、下痢することがあるので、1回の量を加減しましょう。

消化酵素薬は、ご飯にふりかけたりして、食事と同時にとります。食物はすぐに腸に落ちるので、食後に飲んでも追いつけません。

脂肪OKの人、牛乳を飲むと下痢をする人など、相性のよい食物も人それぞれですから、トライ&エラーで自分に合った食物や食べ方を探していきましょう。

後期ダンピング症候群

主症状は、脱力感、倦怠感、頭痛、眠気などの全身症状です。ひどくなると失神する場合もあります。食後の高血糖に対応して、大量のインシュリンが分泌されて血糖値を下げるため、低血糖状態になることで起こります。

対策

糖分を含む飴玉や氷砂糖、ビスケット、甘い飲み物などをとるとおさまります。食後2時間を目安に食べると予防できます。外出時は飴玉などを持参するか、ドリンクで補給するとよいでしょう。

体験者の声 ダンピング症候群や下痢には……

「胃を全摘し、パウチ・ルーワイ法で再建しました。術後5日目に、医師のすすめでコップ半分程度のポカリスエットを飲み、食事は湯のみ半分程度のおもゆでスタート。1日6回食になり、夜食には、プリンや麺類が出ましたが、術後25日目、まだ入院中に夜食のうどんを食べたら突然もどして、初めてダンピング症候群という後遺症があることを知りました。
退院後は、幼稚園サイズの妻の手作り弁当を会社に持参。仕事中でも食べられるカロリーメイトなどの栄養補助食品(市販品)やエンシュア・リキッド(医師処方)などの高カロリー流動栄養ドリンクを持参するのもおすすめです」(アルファ・クラブ事務局長・久本剛さん・62歳)

「幽門側の胃を4分の3切除しました。入院中の食事は少量ずつ3食のほか、10時と3時におやつが出ていましたが、ひな祭りの日に普通サイズの桜餅が出たのです。こんなに食べて大丈夫かなと思いましたが残さず食べたら、30分後におなかが痛くなり、気持ちが悪いのに吐きたくても吐けず、冷や汗は出るし、どうにもならずに苦しみました。そのうちおなかがはってきて、下痢をしたのです。後で考えるとあれがダンピング症候群の始まりでしたね。
その後3年ほどは、1口の食べすぎが元で1日に何度も下痢を起こし、食べることが苦痛でした。おかゆなどは消化がよいと思われがちですが、よくかまずに飲み込むと腸では未消化なものとして扱われ、下痢をします。試行錯誤の末、5センチ角くらいの小さな密閉容器に、魚や野菜の煮物などを1口分ずつ入れて冷蔵庫に保存し、1、2時間に1回1個を取り出して、少量頻回の食事をしていたら、下痢もだんだんにおさまってきました。りんごを食べるのも、腸の働きを正常にするのによいようです」(同事務局・松田智子さん・58歳)


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