胃がん手術後の後遺症と対策 なぜ後遺症は起こる? 不快な症状を緩和する方法は?
骨障害
カルシウムは胃酸でイオン化されて小腸で吸収されるので、胃の手術後は吸収が損なわれます。「血液中のカルシウム不足を補うために骨中のカルシウムが溶解し、術後5年以上たつと半数以上の患者さんの骨量が低下するといわれています。とくに、閉経後の女性は骨粗鬆症になりやすいので、注意が必要です」(鈴木さん)
初期には、腰の後ろや手足の痛み、こむら返りなどの症状が現れ、進行すると、腰椎の圧迫骨折や大腿骨頸部骨折などを起こす危険性が高くなるので、進行を食い止めることが大切です。
対策
「骨量および血液と尿の骨代謝マーカーを測定し、胃切除後の骨障害と判断されたら、骨の融解を食い止めるビスフォスフォネートが有効です。胃切除後の患者さん13人にビスフォスフォネートとビタミンDを投与したところ、1年で腰椎の骨量が8パーセント増加し、腰痛も改善しました」(同)
ビスフォスフォネートは腸からの吸収が悪く、食事と結合しやすいので、飲み方に注意。1日1回、起床時にコップ1杯の水とともに飲み、口や食道に残らないようにしましょう。このとき、食事や他の薬の服用は避け、服用後30分は横にならないようにしてください。
腸閉塞(イレウス)
手術後、強烈な腹痛、吐き気、嘔吐などが起こり、排便、排ガスがないときは腸閉塞が疑われます。腹部の手術後は多かれ少なかれ腸の癒着が起こりますが、腸が急カーブしたり狭くなったりしたところに食べ物がつまると、腸内の流れが滞り、腸閉塞になるのです。
腸がねじれて腸を養う血管まで締め付ける絞扼性イレウスの場合は、放置すると腸が壊死し、穴が開いて命に関わります。
対策
症状が出たらすぐに医師の診察を受けてください。絶飲食をする、イレウス管という細い管を鼻から腸まで通して内容物を吸引して腸管内を減圧する、緊急手術をするなどの方法で治療します。
腸閉塞の予防には、食べすぎを避け、こんにゃく、のり、わかめなど消化しにくく腸に張り付くものは細かく刻むなど調理法を工夫し、よく噛み砕いてから食べましょう。漢方薬の大建中湯を処方する医師もいます。
栄養障害が予想されるとき、口から食べられないときは?
PEG、PEJなどの経管経腸栄養法で、栄養を無理なく補給
経管経腸栄養法とは、おなかの皮膚と胃(腸)を結���細い通路(胃ろう、腸ろう)を造り、流動栄養剤を胃や腸の中に直接注入する方法です。内視鏡で造る胃ろうはPEG(ペグ)、腸ろうはPEJ(ペジェ)と呼ばれています。PEG、PEJの第一人者である鈴木さんは、今までに2,000例もの造設手術を手がけているそうです。
以前は、おなかに直接管をつける方法が一般的でしたが、今ではピアスのようにおなかにはめこむコンパクトなボタン型が登場。栄養補給するときだけ管をつけ、スタンドで吊るした栄養剤から滴下すればOK。滴下後は蓋を閉めておけば、目立たず、普通に生活できます。
「以前は、口から食べられない人に用いられることが多かったのですが、食道がんや胃がんの術後ケアにもおすすめです。口からの食事と併用でき、不要になればいつでもはずせるので、食べられないのに食べなくてはいけない、という強迫観念を感じることなく、必要量だけ栄養を補いながら無理なく食事摂取に移行できます」
栄養障害によるやせや貧血、骨障害を防げるほか、ダンピング症候群も軽減します。
「日本ではまだ中心静脈栄養が主流ですが、当外科グループでは、食道がんの場合は全例、胃がんの場合は、術後の抗がん剤治療が予想される患者さんなどを中心に、患者さんと協議の上で、手術と同時に腸ろうを造設し、食事ができるようになったらはずしています」
ちなみに、術後の栄養障害を改善したい場合や、口から食べられなくなった場合にも、PEGやPEJは有効な方法です。アルファ・クラブ創設者の故・梅田幸雄さん(今年3月、87歳で逝去)は、胃がん切除後、栄養障害から体力が低下し、誤嚥性肺炎などを起こしていましたが、99年に鈴木さんの執刀によってPEGを造設。劇的に体力を回復させて、終生現役で活躍しました。
半年に1回程度の器具の交換は、外来でも可能です。なお、交換時に腹腔内に栄養剤などが漏れ、腹膜炎を起こす危険もあるので、胃ろう、腸ろうの造設や交換の際は、症例数が多い信頼できる医師を選びましょう。「PEGドクターズネットワーク」に登録している施設は、インターネットで検索できます。
胃を切った人の友の会「アルファ・クラブ」
TEL03-3569-9531
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