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副作用は少なく延命効果を上げる 再発胃がんのTS-1隔日療法

監修●永井秀雄 自治医科大学消化器外科教授
取材・文●菊池憲一
発行:2004年12月
更新:2019年8月

隔日投与の効果を主張する白坂論文

[初診時]
CT写真:初診時
[TS-1隔日投与変更後1年3カ月]
CT写真:TS-1隔日投与変更後1年3カ月

腹膜播腫を伴う進行胃がんの女性がTS-1隔日投与により長期生存した例。腹部CT写真。
最初(上)、腹水と子宮の腫大があったが、1年3カ月後(下)は見事に消えている

そんなときだった。ある化学療法の研究会で「5-FUを1日置きに投与(隔日投与)する治療法で副作用の軽減と延命効果を同時に実現できる」と主張する北里大学客員教授の白坂哲彦さんの論文が話題になった。白坂論文は次のようなものである。

ヒトの細胞の生まれ変わる周期は、正常細胞が半日から1日半、がん細胞は5~7日と異なる。この違いを利用したのが5-FUの隔日投与療法である。24時間ごとに休薬をすると、正常細胞の約半数は生まれ変わって保護される。また5-FUは隔日投与を繰り返すと、がん細胞を攻撃する力を維持できることがわかり、がん細胞はかなり死滅し、持続的投与と同等以上の有効性が期待できる。つまり、5-FUの隔日投与では正常細胞の約半分は保護されるため、副作用は軽減されるが、治療効果は持続的投与と同等以上になるという。

さらに、この研究会では「TS-1の隔日投与が有効であった1例」も関心を集めた。研究会の後、永井教授を中心に胃グループ専門医で何度も話し合った。その結果、「白坂理論を根拠に、TS-1の副作用が強くて、服用を中止せざるを得ない再発胃がん患者さんに限定して、TS-1の隔日投与を実施することは可能であろう」(永井さん)と決めた。

TS-1の隔日投与は自治医科大学の倫理委員会で承認され、臨床研究という形で2001年から開始された。最初の再発胃がん患者のBさん(50代、男性)は手術をして2年半後に再発し、黄疸を伴っていた。肝臓近くのリンパ節転移が大きくなると、肝臓から出ている胆管が塞がれてしまう。そのため、胆汁が逆流して黄疸が起こる。胆汁を抜く治療をしてからTS-1の連日投与を始めたが、4週間目に全身の倦怠感の副作用が強くなり、隔日投与に転換した。

Bさんと同様に、再発して黄疸を起こした2人の患者にも隔日投与を行った。

「隔日投与に転換してから副作用が減り、治療を続けることができました。3人とも黄疸もとれ、胆汁を抜くチューブも不要になりました。予想以上に元気になって自宅に戻られました。口からご飯が食べられ、お風呂にも入れるようになりました。一般的に黄疸を伴う場合には化学療法は副作用が出現しやすいという厳しい中で、3人とも半年から1年以上も意義のある生活を送れました」と荒井渉さん(化学療法担当医師)は言う。

これまで、100人以上に副作用軽減のため、TS-1の隔日投与に転換した。治療期間は連続投与では245日であり、隔日投与では330日だった。隔日投与に転換したほうが治療期間は長く、ほぼ全員で副作用が起きなかった。

TS-1が効かなくなった場合の対処

同大学病院消化器外科では再発および高度進行胃がんにはTS-1の連続投与が第一選択で、副作用が強い場合には隔日投与に転換して、化学療法の継続を目指している。ただし、TS-1そのものが効きにくくなり、がんが再燃して治療を中止しなければならない場合もある。この場合、緩和治療(治癒の見込みのないがんに対して行われる積極的で全人的な医療ケアであり、がんによる肉体的症状、心理的な苦痛、社会面での問題解決を最重要課題とする)を選択することもある。

また、抗がん剤を替えてさらに闘うこともある。第二選択として、重篤な臓器障害がなく、症状が無症状または軽度で、軽い事務や家事などができる場合(パフォーマンスステイタス0~1)にはフルツロン(一般名ドキシフルリジン)とタキソール(一般名パクリタキセル)の併用療法を行う場合もある(臨床研究)。TS-1の連続・隔日投与のあとでフルツロン+タキソール(週1回)の併用療法を受けた患者は40人ほどだ。ほとんどが外来通院で治療を続けた。

「フルツロンとタキソールの併用療法では、患者さんの約半分で症状の進行が抑えられました。かなりの割合で腹水が消失し、肝転移の消えた例もあります。厳しい状態の中でも症状を抑える力はあると思います」と荒井さん。

100人治療したら50番目の人が増悪した期間は131日(無増悪期間中央値)、50番目の人が死亡した時期(生存期間中央値)は625日(207~876日)と好成績を上げている。現状では、胃がんの化学療法はTS-1が主軸であるが、無効例に対する第二選択薬の確立も待たれている。

現在、再発胃がんに対する化学療法は、全国でいくつかの臨床試験が進行中であり、医学界ではさらなる治療効果向上を図っている最中である。例えば、TS-1の連続投与にブリプラチン(またはランダ。一般名シスプラチン)の併用療法、TS-1にタキサン系抗がん剤の併用療法などが行われており、まもなく治療成績が発表される見込みだ。

胃がんで再発しても新しい化学療法の登場によって、長期生存も期待できる時代になりつつある。自分が受ける化学療法で使用する薬剤や予想される治療効果、副作用、無治療との比較などは主治医からしっかりと説明を受けて、不必要な副作用に苦しむことなく、充実した生活を送れるようにしてください。

プライバシー保護のために、文中のA・Bさんの症例は実際の症例と変えています

[新聞報道された胃がん2期・3期の手術実績の高い病院]

病院名(所在地) 症例数 2期の5年生存率 3期の5年生存率 入院日数
AAAAの7病院 A A A A
石川県立中央病院(金沢市) 42
37
72.6 52.6 20.5
22.4
埼玉医科大病院(埼玉県下呂山町) 31
43
71.4 48.8 17.1
16.7
癌研究会付属病院(東京都豊島区) 32
38
74.6 62.3 14.2
15.8
千葉県がんセンター(千葉市) 20
44
78.9 49.4 15.8
18.0
岩手県立中央病院(盛岡市) 28
33
85.0 55.0 18.0
20.0
自治医科大病院(栃木県南河内町) 21
27
80.5 48.9 15.8
16.2
公立富岡総合病院(群馬県富岡市) 22
22
75.0 55.4 20.9
22.3
AAABの2病院 A A A B
大垣市民病院(岐阜県大垣市) 41
60
76.1 56.7 20.0
25.5
長崎大病院(長崎市) 19
30
84.5 49.0 26.3
24.0
AAACの2病院 A A A C
福井赤十字病院(福井市) 40
39
75.6 48.0 31.3
25.5
NTT西日本大阪病院(大阪市) 26
26
76.9 50.0 26.2
27.0
症例数と入院日数は2002年、上段は2期、下段は3期、5年生存率は1994―96年の手術、数値は78病院の自己申告

日本経済新聞社の調査による。全国の200床以上の病院を対象に上位からA、B、Cの三段階で評価される(日本経済新聞04年1月19日より)

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