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進行別 がん標準治療【胃がん】 早期がんなら内視鏡、縮小手術、それ以外は定型手術が基本

監修●笹子三津留 国立がんセンター中央病院外科部長
取材・文●祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2004年4月
更新:2019年8月

技術差が大きい腹腔鏡下手術

腹腔鏡下手術

まだ十分な検証が行われていないことから、ガイドラインに「臨床研究」として記載されているのが、腹腔鏡による手術です。つまり、今後臨床試験による有効性の証明が必要な治療法です。

最近では、内視鏡的粘膜切除術の対象とならない早期がんに対し、腹腔鏡を用いて縮小手術が行われることも多くなりました。これは、腹部に数カ所、小さな切開を入れ、ここから挿入した腹腔鏡や器具を使って、胃を部分的に切除したり、リンパ節を郭清する方法です。開腹手術に比べて、傷が小さく、回復が早いのが大きな利点です。

しかし、笹子さんはこれにはリスクも伴うことを理解して欲しいと語っています。

「腹腔鏡下手術は、術者によって技術レベルにかなり差があります」。わかりやすく言えば、うまい人から下手な人までかなり力量に差があるというのです。視野が広く、手で感触をつかめるという点でも開腹手術のほうが基本的にやりやすい手術と笹子さんは言います。

腹腔鏡下手術は再手術がやりにくい

さらに、万が一術後に病理検査でリンパ節転移が認められた場合の対処法も問題と笹子さんは指摘しています。腹腔鏡の手術後にリンパ節転移が思いの外たくさんあった場合、(1)開腹して手術を再度行う、(2)抗がん剤による補助化学療法を追加する、という二つの方法が考えられます。実際には、「一度腹腔鏡で手術をすると、再手術をやりにくくなるので、補助化学療法を行うという人もいます。しかし、確実なのは手術をやり直すこと」と笹子さんは語っています。

というのも、すでに手術はリンパ節転移を起こした進行がんを対象にした臨床試験でその効果が検証されています。しかし、残存したがんに対して抗がん剤を投与してがんが治るのか、これに関しては全く証拠がないのです。ですから、「リンパ節転移がないと思って腹腔鏡で手術をしましたが、間違いでした。やり直させてください���いうのが本当です。もし、患者さんがどうしても開腹手術は嫌というのならば、その段階で初めて抗がん剤か、あるいはそのまま様子を見るという選択になってくるのです」。

腹腔鏡手術だから、簡単にがんが治るというわけでもなければ、場合によっては再度開腹手術を行うこともあるのです。開腹手術ならば、同じ縮小手術でも手術中にがんの広がりに気づき易く、手術法を変更することもある程度可能だそうです。しかし、腹腔鏡手術ではこれも困難です。

最近は、進行したがんに対しても腹腔鏡を応用していく研究が進んでいますが、「転移のある人を腹腔鏡で治療した場合、開腹手術した場合と同じ治療成績が得られるのか。その点がきちんと検証されない限り、腹腔鏡下手術は進行がんの標準治療にはなりえません」と笹子さんは語っています。

1B期

1B期でも、がんの深さが粘膜下層にとどまり、胃に接したリンパ節に転移がある場合、がんの大きさが2センチ以下ならば縮小手術の対象になります。これ以上大きい場合、あるいは筋層までがんが食い込んでいる場合は、定型手術が標準です。あるいは、どちらの病期でも腹腔鏡による手術が行われることもあります。

2期~3期

基本的に、2期は定型手術、3期は、がんの広がり方や深さによって定型手術か、拡大手術の適応となります。胃壁を越えて他の臓器にまでがんが食い込んでいなければ、3期も定型手術が基本です。

日本の標準治療、定型手術が基本

定型手術

胃の3分の2以上を切除し、D2郭清(第1群と第2群のリンパ節をとること)を行います。多くの場合は、胃の出口の側を切除しますが、入口に近い部位のがんの場合入口側を切除することもあります。また、がんの広がりによっては、胃を全部摘出することもあります。

定型手術は日本で以前から標準的に行われてきた治療法で、笹子さんによると「すでに確立した治療法」だといいます。ただ、他の治療法との比較試験は行われていないので、科学的根拠に乏しい面があります。しかし、ここにも特殊な事情があるのです。

リンパ節郭清は日本で独自に進歩してきた手術法で、欧米では従来D2郭清は、手術による合併症を増やすリスクが高いとされ、あまり行われてきませんでした。代わりに、最近放射線治療の併用が、D1郭清、あるいはリンパ節郭清を行わない場合に、メリットがあることが臨床試験で証明されています。そうなると、D1郭清に放射線を併用した場合とD2郭清とどちらが優れているのかが、問題になります。しかし、実際にはアメリカでは技術的にD2郭清をできる医師が少ないので、比較試験を行えない状態なのです。

一方、日本ではD2郭清が標準治療として広く行われてきました。それに見合う技術も研鑽されています。そのため、放射線治療はあまり行われていません。胃がんで転移が起こりやすい3次のリンパ節は、ちょうど腎臓の近くにあり、放射線を照射すると腎臓に障害を起こすリスクがあります。したがって、日本で放射線を併用した場合との比較試験を行うことも難しいのです。

「進行胃がんでは、日本以上の治療成績が出たことはかつて一度もありません。日本ではD2郭清を行うことで死亡率が上昇することもない。私自身、進行がんになったらD2郭清で治療を受けたいと思っています」と笹子さんは語っています。

笹子さん自身、オランダでD2郭清の方法を医師に指導しながら、D1郭清との比較臨床試験を行った経験があります。結果は「技術をマスターする以前に臨床試験を行ってしまったので、合併症などが多く、きちんとした差が出なかった」といいます。その辺の事情は欧米の専門家は承知していて、、現在では欧米でもD2郭清が推奨されるようになっています。

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