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進行別 がん標準治療【胃がん】 早期がんなら内視鏡、縮小手術、それ以外は定型手術が基本

監修●笹子三津留 国立がんセンター中央病院外科部長
取材・文●祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2004年4月
更新:2019年8月

術後補助化学療法はまだ研究段階

術後補助化学療法

2期以降の胃がんでは、再発予防のために術後補助療法として抗がん剤を投与するかどうかが問題になります。現在のガイドラインでは、術後補助化学療法は「臨床研究」と位置づけられており、標準治療にはなっていません。

日本では、術後に補助療法として抗がん剤を投与することが少なくありませんが、実際にはその効果はまだはっきりしていないのです。

術後補助療法の効果を正確に評価するためには、その前提として手術をきちんと行う、つまりD2郭清をきちんとできることが必要です。その意味でも日本で、手術単独と術後補助化学療法を加えた場合で比較試験を行い、その結果を世界に提示していく必要があると笹子さんは語っています。

1988年に国内で開始された比較試験(JCOG=日本臨床腫瘍研究グループ)では、否定的な結果が出ています。「この春、T3(筋層を越えて胃の表面に出たがん)を対象とした比較試験の結果が解析される予定ですが、これでも有用性が証明されなければ、残る期待はTS-1です」。

オランダの医師にD2郭清の技術指導をしている笹子さん
オランダの医師にD2郭清の
技術指導をしている笹子さん

TS-1は、5-FUなどをベースに新しく開発された経口抗がん剤です。安全性と効果をみる第2相臨床試験では、胃がんに単独で40パーセント以上の有効性(体積で50パーセント以上縮小)が認められ、大きな注目を集めています。現在、手術単独とTS-1を補助化学療法として加えた場合で、比較試験が進行しているところです。

こうした現状から、笹子さんは「根拠もなく、抗がん剤を使うことは非倫理的です。やらないよりはやっておいたほうがいいという考え方も誤りです。現状で、手術後いきなり化学療法を勧められたら不勉強な医師かきちんとした手術をしなかったのか、と疑うべきです。受けるならば、臨床���験に参加するという形で治療を受けるのが妥当です」と語っています。

拡大手術

3期、4期で、がんが胃壁の表面に出て他の臓器にまで食い込んでいたり、少し離れたリンパ節に転移している場合は、拡大手術が行われます。これは、膵臓や大腸など胃に接する臓器や第2群のリンパ節以外の離れたリンパ節も郭清する方法です。手術の規模が大きいだけに、手術による危険も高くなるので、現在本当に効果があるのかどうか、検証されている段階です。

手術不能再発がん

肝臓や肺、腹膜など遠くの臓器にがんが転移した4期になると、手術によって治すことは難しくなります。とりわけ拡大手術を行うことは、「今は、ほとんど行われなくなっている」(笹子さん)そうです。

この場合は、がんによる出血や狭窄など患者さんが苦しんでいる症状を改善するための手術(緩和手術)とその後の抗がん剤の投与が行われます。以前は、主病巣である胃がんをとって延命をはかる手術(減量手術)が行われましたが、その効果は不明です。笹子さんは「とくに胃がんによる症状もないのに、他に転移がある患者さんの胃をとってどういう意味があるのか。検証する必要があります」と語っています。そのため、減量手術は臨床研究と位置づけられ、臨床試験によって効果を検証する必要があるとされています。

症状改善の手術や抗がん剤治療

化学療法

胃がんは化学療法が中程度に効くがんとされ、手術できないがんでも抗がん剤治療を行ったほうが生存期間が延びることが示されています。ただ、どういう抗がん剤の組み合わせがベストなのかが、まだ明らかになっていないのです。

アメリカ(NCCNのガイドライン)では、5-FUかシスプラチン(商品名ブリプラチン、ランダ)をベースとした抗がん剤の併用療法を標準にするように勧められていますが、最近ではタキサン系抗がん剤を含む併用療法で有意に延命効果が得られたという報告もあるそうです。

日本では、5-FUベースの治療が中心ですが、「第3相比較試験で、その効果をきちんと検証することが必要」と笹子さん。現在、JCOGで5-FUを標準に、塩酸イリノテカン(商品名カンプト、トポテシン)とシスプラチンの併用、TS-1単独という3種類の化学療法で比較臨床試験が行われているところです。その結果が出るまでには、あと2~3年かかると見られています。

胃がん治療は、日本でその効果を検証するべく、科学的な臨床試験が始まったところといえるでしょう。

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